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過去の遺物と勇者の覚悟

ちなみにですが、技は大体の場合二度出てこないのでそんな技もあるんだ程度で覚えず流して大丈夫です。


世紀末救世主の使う最強の暗殺拳みたいなものですからその場その場で色々出てきます。

ぴくり、と少女の幼げであどけない寝顔の目尻に皺が寄る。

 鼻がすんすんと周囲の匂いを嗅ぎ、ゆっくりとフェロニアは目を開けた。

 

 枕になっているのは、顔を拭くのに使うやわらかな布。硬くて安心する師の膝ではなく。

 「ししょー?」

 周囲に満ちるのは異様な臭気。人類の中では黒犬(ブラックドッグ)種等一部の特異なものを除いた犬系狼系に比べたら悪い鼻でも、分かる程の臭さ。

 それはフェロニアにはあまり馴染みのない……血の匂い。

 

 「えっ?」

 事態が呑み込めず、ネズミの勇者は辺りを見回して。

 「ひっ!?」

 荒い息を呑み込む。

 

 上半身が吹き飛んだ女性の腰から下。

 焼け焦げて黒煙をあげる人のモノであったろう右腕と、炭になって判別のつかないヒトガタ。

 100を越えるバラバラのパズルのパーツのようになって転がる、恐らくは子供であったのだろう人体。

 喉を銀の剣で地面に縫い付けられ事切れた服を着た狼に、その横で寄り添うように倒れる蝙蝠の羽の女の子。

 綺麗に縦に三枚下ろしされた蛇のように体より首の長い亡骸に、首を跳ねられフェロニアの方を虚ろな目で眺める猫耳の美少女の生首。

 それに、そして、更に……そういった死が、フェロニアの眠っていた辺りだけには血すら遺骸から流れてきた細い一条の川以外すら入れぬようにして、小さな勇者を取り囲むバリケードのように小山のように積み上げられていた。

 

 「……し、しょ、う?」

 積み上げられた死の向こう。

 やめて殺さないでと地面に頭を擦り付ける胸の大きなまだあどけなさを残す犬耳の少女を、傷ひとつ無い血塗れの服で、フェロニアが一度も見たことがない氷のような表情で見下ろす青年の姿を見付け、勇者は呆然と呟く。

 

 「……今更だな」

 「や、やめて……死にたくない!やだ!」

 「終わるために生きてきたんだろう。ならば、此処で終われ」

 一振と共に、無数の人類を切り捨てたろうオリハルコンの剣に纏わりついた油と血は全て飛沫となって犬耳の少女を襲う。

 「や、やめてくださいししょーっ!?」

 事情も事態も分からない。けれども、少女勇者にも師である剣聖が、昨日のお昼を食べた料理屋で料理を運んできてくれたウェイトレスを殺そうとしている事だけは理解できて。

 フェロニアは小さな喉で叫ぶ。

 

 その声に、オリハルコンの剣でもって涙で顔をぐしゃぐしゃにして土下座する少女の心臓を抉り出そうとしていた青年は、はたと動きを止めた。

 その隙に、少女は一瞬だけファリスを睨み、脱兎のごとく道場の門を抜けて逃げ去っていった。

 

 「ししょー!なんで、なんでなんですか!?」

 周囲の惨状に、そして、目の前で人を何の躊躇いもなく斬り殺そうとした師に、少女勇者は怒りの声をあげる。

 「なんで、ししょーは人を殺したんですか!?」

 「それが必要なことだからだよ」

 静かに、青年は剣を納めながら言う。

 その言葉に反省も後悔もない。雰囲気は、優しく剣を教えてくれた寝る前のものに戻っていて。

 

 その異様さに、初めてフェロニアは恐怖した。10を越える人間を殺しておいて何ら堪えていない精神性を、剣聖という存在を、初めて恐ろしいと思った。

 

 だから……

 「今のししょーなんて、顔も見たくないですっ!」 

 何か事情がある。そんなことは分かっていても、13歳の少女は師を拒絶し、そっぽを向く。ぴしぴしとその尻尾で床を叩き、耳を臥せて怒りを表し、青年から離れようと立ち上がって……

 

 「ニア、動いたら駄目だよ」

 「ききたくないですっ!」

 青年の何時ものような優しい諭す声も、今は溝鼠!と言ってからかってくる幼馴染の声のような酷いノイズに思えて。

 その警告を無視して、少女は自分の周囲に積み上げられた死骸の中に作られている隙間を越えて一人外の空気を吸おうとして……

 

 「あきゃぁっ!?」

 流れる血が腕の形を取り、少女の細い喉を掴む。

 締め上げられ、かはっと空気を吐いたフェロニアの意識は、口を二本目の手で塞がれて一気にぼんやりとしていく。

 「はっ!勇者は貰っていくぜ、死に損ない!」

 見えていた無数の死骸の中、100のパーツにされていた子供と、狼の横で倒れていた蝙蝠羽の女の子。

 100のパーツが50の蝙蝠と50の動く血塊となり、勇者を抑え込む血塊に蝙蝠が合わさって端正な顔立ちの蝙蝠羽の少年となる。その横で、むくりと起き上がった少女が、胸元が蝙蝠になって開きそこから取り出された霊気珠を手に、転移の魔法を唱え……

 抵抗しないとと思うのに、少女の体に力は入らない。

 

 少女勇者には何も分からぬまま、その視界がブレていく。

 「し、しょ……」

 がくん、と揺れる感覚。自分が大きく動く振動に、少女の意識はシェイクされ。

 

 「死んだものと死んだフリの区別くらい、つかない私じゃないよ吸血種(ヴァンパイア)

 それが、2人の吸血種が己の血で描いた魔方陣を使った転送に巻き込まれたのではなく、少し乱暴に己の師が拘束から助け出してくれた際の衝撃だと勇者が気がついた時。

 「向日剣(こうかけん)曙旭挽葬(しょきょくばんそう)

 オリハルコンの剣から放たれる暖かな日の光。そう思わせる闘気の太陽が、二人を二度と人に還らぬ灰へと変えた。

 

 ころん、と。転移に今正に使われるべく輝きを増していた霊気珠だけが、血と灰の海に空しく転がる。

 「……大丈夫だよ、ニア。

 これで、襲ってきたのは終わり」

 逃げて良いよ、と。抱き込んだ少女を左腕の中から解き放って、剣聖たる青年は一歩距離を取った。  

 

 「ししょー」

 混乱はそのままに。それでも。怖くても。

 やはり、彼は自分を護ってくれていたのだと。その事が身に染みて。今度は逃げようとすることはなく、膝を折って目線を合わせてくれた師へと問いかける。

 「ししょー、逃げないんですか?」

 「逃げる?どうして?」

 「えっと、ニア、おそわれた……の?」

 「うん、そうだね。長と計画の要を喪わせて終わったはずの因縁、組織だって動けるようになるには……あと3、4年かかると思ってたんだけど、予想外にダメージ受けてないね、彼等」

 と、ファリスは肩を竦める。

 

 「そんな人達でも、ころしちゃったら……

 ししょーがはんざいしゃになっちゃうです。」

 「もうなってるよ。今頃、あの犬女とその仲間が仕込んでた記録霊気珠の映像を使って、王都全域で私の悪行を広めてる。

 仕掛けてきたのは向こうだけどねそこは、周囲には分からないから。」

 その言葉に、ネズミ勇者は耳をしゅんと垂れさせる。

 

 「ニアが、やめてって言ったから?」

 「大丈夫。私が、組織だっての襲撃と残党の散発的なお礼参りを勘違いしたのがそもそもの原因。

 君があそこであの犬女を殺すことを止めてくれなくてもね。どうせ、残った組織の面子によって明日には広まってる事さ。ちょっと早いか遅いかだよ。」

 「えっと、彼等、だれなんですか?」

 

 その言葉に、少しだけ剣聖は遠い目をして。

 「終末神論団(エスカトロジスト)。私やディランはスカトロジストって呼んでたけど、女の子には嫌だろうとっても汚い言葉だからニアは覚えない方が良いよ」

 「えすか、とろじすと?」

 「うん。魔王と勇者の力を利用して、遥か昔に……君の群青の聖剣(ティルナノーグ)や天使達によって封印された神話の時代の魔神を蘇らせようって教団」

 「人類なんですよね?なのに、封印されるような悪い魔神さんをよみがえせるです?」

 「勿論、魔物じゃないよ。

 でも、彼等はこの世界を壊したい人々の集まり。だから、世界を終わらせる……終末の魔神を解き放とうとしているんだ。

 自分の不幸は全部この世界のせいだから、この世界を終わらせて、新たなステージへ進むって言ってね」

 

 外で物音がするのを、フェロニアの耳が捉えた。

 「……ししょー。ししょーは後悔とか、無いんですか?」

 「……無いよ」

 その言葉は。やっぱりどんな理由でも、人殺しなんてと思う勇者には理解できない言葉で。

 「どうして」

 「……簡単な話。私には、彼等に奪われたものが多すぎるだけ。

 でも、ニア。君は関係ない。無関係に勝手に勇者を狙うのまでは防げないから、せめて自分の身を護れる力をあげたかったけど……予想外に、長を喪ってからまた動き出すまでが早すぎたね」

 

 「さて。私はおとなしく騎士団に捕まってくるよ。

 大丈夫、あの君の時代に残るべきじゃない過去の遺物どもに、君に手は出させないから」

 剣を抜くこともなく、オーラを纏うこともなく。両の手を頭の上で重ね、青年は姿を見せた騎士に、大量殺人者として連行されていく。

 「ニア。君は君なりに、自分のなりたいものを目指すんだ。

 私から教えられるのは、あとそれくらいかな」

 

 きっとこれが、彼と離れる最後の機会。

 此処を過ぎれば、もうきっと、彼と離れることなんて出来なくなる。辛いことだって、多分沢山ある。踏み込まないなら、此処で別れるべき。

 そんな予感がする。

 

 正直、怖いとネズミ勇者は思う。関わりたいかと言われれば、当然関わりたくない。

 けれど。

 

 「あのっ!ニアも……私も、共犯ですっ!」

 ニアは、あの人に……ししょーに着いていこう。そう覚悟を決め、己の師を殺人鬼として牢獄へと連行していく騎士へと、少女はそう名乗り出た。

おまけ、特に要らない技解説


向日剣・曙旭挽葬

特定の相手を葬る為の特攻技である向日剣の技の一つ。

太陽の光のような波動のオーラで夜の住人を消し飛ばす。ゾンビや吸血鬼特攻。あくまでも太陽のオーラなのでそう眩しくはなく目眩ましには不向き。

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