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アイテムドロップ

「……終わり、かな」

 周囲を見渡して、剣聖と呼ばれた青年は、その人間最強と呼ばれる所以を見せつけて。

 ふう、と息を吐く。

 

 同時、彼の纏う恐ろしいまでのオーラは消え、空気は一気にフェロニアの良くは知らないけど知っている彼に戻った。

 

 魔物とは、瘴気から産まれる怪生物だ。

 死した魔物はその体の瘴気を浄化され、本来のこの世界に満ちる力、霊気へと戻って消える。

 人類の目にはそれは光の粒子になって消えるようにも見え、最後に残るのはその魔物がどんな姿のどういった魔物であるかを規定付けている魔物のコアとなる何か。

 それは瘴気が魔物として産まれた瞬間に体内で生成される、浄化され霊気を帯びた特殊な素材であり、一般的にはドロップアイテムと呼ばれている。

 

 「とまあ、魔物に関してはこんな感じかな。

 ニアも、冒険者としてドロップアイテムを持ってきてくださいって依頼を見掛けたら、対応する魔物を倒しに行くんだよ」

 既に姿を消した飛竜の居た場所に残る不思議な肉や、一本の牙を指差して、剣聖ファリスは背から下ろした弟子に指導する。

 

 「でも、魔物って突然うまれるんじゃ」

 「そうだけど、霊気も瘴気も、この世界にはずっとある。

 精霊術法のカミも、霊気の存在しかたの一個。だからね、こんな環境の霊気地に瘴気が産まれたらこんな魔物になるっていうのは大体決まってるよ。

 基本的に、同じ地域には同じ魔物が出てくるんだ。」

 と、ファリスはけど、と付け加える。

 

 「あくまでもそれは傾向だからね。今回みたいに突然変異的に、傾向とは全く違う魔物が誕生することもある。

 この辺りには基本的にそこまで強い魔物が産まれるような場所はないけど、それでも飛竜が出たりする可能性は0じゃない」

 

 と、ファリスはドロップアイテムは回収せずに、背を向ける。

 一回だけ落ちたアイテムをもったいないと振り返りつつ、実際に倒した彼が興味を示さないならと小さな勇者は割とゆっくりとした速度で歩く青年を、小走りで追った。

 「良いんですかししょー?」

 「良いよ。私は特に困ってないしね」

 剣聖の背中を見送るのは、折れた剣なんかを持った青年達。

 弱めの魔物となら戦える力を得て、それで冒険者になって。外の世界で採取なんかをして誰かの役に立ちたいと思った人々の姿。

 

 「今回の私達はあくまでも通りがかかっただけ。理不尽な不幸に襲われた彼等が、また立ち上がれるだけの資金にした方が……」

 言葉を切るファリス。

 「ししょー?」

 足を止めた師に追い付き、少し息を切らせて、ネズミ勇者は師を見上げ。

 

 「バカにするな!」

 そんな声が、背後から投げ掛けられ、フェロニアはその耳をぴくりとさせた。

 

 振り返ると、其所には傷だらけの鎧を身に纏った一人の青年。剣は折れ、強敵との戦闘を主目的としてはいないが故の皮鎧は大きく引き裂かれて。

 飛竜の吐く火に炙られたのか前髪には焦げ跡。煤けた顔は、無事とはとても言えない。

 

 「……あっ!」

 そんな彼の煤と血だけでも拭いてあげようと、少女勇者は今までと逆方向へと歩きだそうとして。

 

 「アンタ、剣聖だろ」

 「そうだよ」

 と、青年の言葉に既に剣を納めたファリスは返す。

 「確かに、アンタが来なかったら死んでたろう。そこは良い。助かったよ」

 けど、と青年は吐き捨て、手にした飛竜の牙を突きつける。

 

 「でも、施しのつもりかよ、こんなもの残して」

 「君達に必要かと思って」

 「此方にもプライドってもんがあるんだよ!

 全部置いてくなんて、バカにしてんのか!」

 

 その言葉に、虚を突かれたように、青年は少し止まり。

 少しして頷いた。

 「確かにそうだね。君達にも冒険者としての誇りがある。助ける助けないまでは命のやり取り。そこは遠慮する気はないけれど、君達の誇りにまで傷をつけるのは浅慮だったね」

 

 投げつけられる牙。

 それを左手で取って、剣聖は言った。

 「すまない。一番良さげなものは貰っていくよ」

 

 そうして、改めてファリスは歩きだす。その手に今度はちゃんと飛竜の牙を持って。

 「ししょー、その牙って、良いものなんですか?」

 それを追いながら、ネズミ勇者は問いかけた。

 

 「あの中でなら、一番良いものだね。

 ドロップアイテムは幾つかの種類があるんだけど。例えば竜の魔物なら、牙や爪、鱗や肉、魔物の種類を特徴付けるものは一種類じゃなくて、何が核になってるかは倒してみないと分からない

 

 そしてね。霊気の籠ったものだけあって、こうした素材は色々と重宝されるんだ。例えば、竜の牙は良く効く薬になるし、鱗が重なった甲殻は軽くて頑丈な鎧になる。

 そうしたものは、全部ギルドが買ってくれるよ。場所によっては貨幣経済が死滅してるから物々交換かな」

 「ギルドはつかえるんですか?」

 「そりゃね。ニアの村にも、武器作ってる人とか居たんじゃない?」

 

 その言葉に、勇者は故郷を思い返す。

 「かなものやさん?が居ました」

 「それで、ニアの村でそんなに需要あったかな?」

 「ぜんぜんです」

 「なのに金物屋をやって生きていけるってことは、それなりの需要を冒険者ギルドが用意してくれてたって事なんだよ」

 勿論、全部じゃないけどね、とファリスは笑った。

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