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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
ドラゴンワンダーランド北方戦線
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第五十一話 転生独眼竜!マサムネちゃんの巻

「まさか真田が今一番天下に近い位置にいるたぁな…くぅぅっ!オレ様はいつもこうだ!時に恵まれねえ!」


 地下牢で寝て過ごした翌日…

 俺たち囚人は乱暴にどこかの鉱山に連れてこられ、ひたすら鉄鉱石を採掘させられている。

 そこでマサムネに俺たちの素性を聞かせると、よくわからない悔しがり方をしていた。

 ちなみにマサムネが働くのは監視の目がある時だけだ。それ以外はずっとサボっている。

 此方の手の内は明かした。次はマサムネ側の事情だ。


「ここにいるってことは北部連合側の“転生者”ってことでいいんスよね?」

「おう、呪術教団の手引きでティーダ公国に召喚されたのがこのマサムネちゃん様よ!」


 また呪術教団か…

 連中はどうやら西部だけでなく北部でも暗躍していたようだ。この調子だと他の地方にもいるだろう。

 遡ること一年ほど前、北部も西部と同じく九つの国で終わらない争いを繰り広げていたらしい。

 ティーダ公国もそのひとつ…国力が弱く滅亡の危機に瀕していたティーダに呪術教団は取り入ってきた。

 そして彼らの手引きによる“転生者”召喚によりマサムネがこの世界へと召喚された訳である。

 マサムネは“転生者”に期待された通り独創的な戦術と容赦ない策略でティーダを救い、北部に覇を唱えかけていた。

 だがそんな時だ…極北の獣人族の生息地域から剣神が軍を率いて南下してきたのは…―――


「最初に手ェ出したのはガルツの連中だな、獣人どもとは昔から不可侵協定が結ばれてたんだが…」


 ティーダ公国の躍進により北部の情勢は一変する。

 敵対する者は徹底的に撫で斬りにするマサムネの容赦ない戦略は各国を震え上がらせた。

 ティーダと強く敵対していたガルツ公国は敗戦後、本拠を失うも撫で斬りを逃れて北上。

 北部の民の間で不可侵領域とされていた極北の獣人族の領土に踏み入る。

 否…踏み入るだけならまだ良かった…

 あろうことかガルツ公国は再起を期し、獣人たちの集落を襲って自らの本拠としたのだ。

 それがまずかった…獣人たちは最後の居場所すら奪われる危機を感じ、人間に対して一斉に決起する。


「それからはまぁ、知っての通りよ…まさに天災ってやつだな」


 獣人たちの決起の裏で暗躍していたのも呪術教団だった…

 奴らは戦力不足の獣人たちを唆し“転生者”召喚を行わせて剣神をこの世に顕現させる。

 そこから先は知っての通り…剣神は召喚されるや否やガルツ公国軍残党をあっという間に瞬殺。

 その勢いのまま獣人軍を率いて南下し、不可侵ラインを越えて北部攻略を開始したのだ。

 既にガルツの他、ブナン、アルトー、ソマ、ザッカ、そしてティーダの六国が剣神により滅亡。

 残った三国は最も国力のあるモーガンに身を寄せ対獣人軍連合戦線を張っているという訳である。


「まったく参っちまうぜ…北部一統に手が届きかけてたってのによォ」

「自業自得ッスよ、必要以上に苛烈な戦略取るからしっぺ返し喰らうんです」

「何をうっ!独眼竜の覇道にケチをつける気か!生意気なガキだ!」


 ギャースカ喚いているマサムネをよそに俺は思案する。

 獣人軍はてっきり侵略目的かと思ったがどうやら自分たちの領土を守るために戦いはじめたのが発端のようだ。

 だが…だとすれば従来の生息ラインを越えて北部全域に攻め入っている現状に違和感を覚えざるを得ない。

 侵攻によって支配欲が芽生えたか、それとも剣神に従って戦い続けているだけなのか…

 その辺の事情を知るためには獣人をもっと知る必要があるようだ。

 それにしても…


「しかしマサムネちゃん、負けたのによく生かして貰えましたね…“転生者”なら真っ先に始末されそうなのに」

「あぁん?誰が負けたっつーんだよ、オレ様は負けてねえ」

「えっ…?ティーダが負けたから捕虜にされてここにいるんじゃないんスか?」

「ティーダはな…あの国は領主ども皆殺しにされて亡んだ、負けた…だがオレ様は全力で命乞いして生き残った、だから負けてねえ」


 よくわからないといった表情をしてしまった俺にマサムネはぐいと顔を近づける。

 見える方の左目には未だ反骨の炎が燃え盛っていた。俺は思わず気圧されて生唾を飲み込む。


「いいかクソガキ、人間心から負けたと思うまで負けじゃねえ、頭下げようが泥に塗れようが負けたことにならねえ」


 その言葉には凄みがあった。実際に泥臭くも勝ってきた者の凄みだ。


「最終的に生きた者勝ちだ!生き残りさえすりゃあ最後は勝てる!それがオレ様の人生哲学よ!」


 その時、マサムネに感じた印象は炎だった。

 風に吹かれ消えかけても燻りながら再び燃え上がるしぶとい炎。

 刹那的にパッと輝く炎を思わせるユキムラちゃんとは似ていながら対極の存在のようにも感じた。

 圧倒された俺に対しマサムネはにやりと笑って見せる。


「…理解したようだな…いいだろう、理解できたならオレ様の家来にしてやるぜ」

「いえ、それは遠慮しておきます…俺、既にユキムラちゃんの家来なんで…」

「あぁん?真田なんかについてっても先はねーぞ?…それによォ…客観的に見てオレ様の方がいい女だろ?」


 いや、女ぶりはどうだろうか…

 どっちも目つきと発育の悪い少女でどっこいどっこいなように思える。そして俺に幼女趣味はない。

 尊敬はできるのだが女として見られるかどうかという話になるとそれは別だ。

 色仕掛けのつもりなのか囚人服を軽くはだけて見せるマサムネを無視しながらひとまず鉱山業に従事する。

 大きな物音が聞こえてきたのはその時だった…


「貴様、何やってやがる!とっとと立て!」


 オーク族の監守の怒鳴り声が響き、捕虜たちが一瞬手を止めてそちらに目をやる。

 疲労の限界に達したのか…そこでは老いた捕虜の一人が荷車を倒したまま座り込み動けなくなっていた。

 だが監守にとってはそんなこと知ったことではない。このままではいずれ鞭が飛ぶだろう。


「放っとけ、止めに入ると目ェつけられっぞ」


 隣のマサムネが軽く鼻を鳴らして冷たく言った。

 彼女の言う通り他の捕虜は見て見ぬフリだ。関われば次は自分と思い知らされているのだろう。

 しかし怒鳴られても老人は動けそうにない…監守は目を剥き、鞭を振り上げる。

 ―――…まったく、俺も甘さがなかなか捨てきれんようだ。


「ぐえっ!!」


 高く響く鞭音。

 二者の間に割って入った俺は敢えて鞭を受け、悲鳴を上げて転がってみせる。

 だが実際には鞭を受ける振りをして弾きつつ同時に後ろへと跳んだ。ダメージはほとんどない。

 その場の全員の視線が俺に向く…嗚呼、忍なのに目立っちゃったよオイ…

 地面に転がって痛がるフリをする俺は密かに老人に目配せすると、老人はほうほうの体で立ち上がって逃げて行った。

 監守がドスの利いた声で問いかけてくる。


「…なんだ貴様は?」

「うぅっ…痛てえ…!す、すいません…田舎に残してきた祖父ちゃんを思い出して、つい…」


 監守の目が残忍に光った。

 同情を買おうとイチかバチかで演技してみたがダメだったようだ。そういうタイプの監守ね…

 恐ろしい鞭が再び振り上げられる。


「なら貴様がさっきのジジイの分の鞭を受けろ!」


 鞭音。鞭音。鞭音。

 監守はやたらめったらに鞭を振り回して俺を打つ。

 先ほどと同じように大袈裟に痛がるフリをしつつダメージを最小限に抑えるよう弾く、いなす。

 ハッキリ言って雑な打ち方だ…力はあるが技術がない。俺がこうして無効化していることも気付いてないだろう。

 稲妻のような突きを繰り出すサイゾーと普段から組手していると猶更それを感じる。

 やがて肩で息をし始めた監守は倒れ伏す俺に唾を吐き、のしのしと立ち去って行った。

 しばらくの間を置き、囚人たちが駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫か兄ちゃん?」

「なんて無茶を…」


 一応、心配はしてくれるのね。

 俺は違和感のないようにそれなりに痛がって見せながら立ち上がり、心配する彼らを宥めつつ持ち場に戻った。

 目立つことをしてしまった…今後は気をつけねばなるまい。警戒されては脱出も難しくなる。

 持ち場に戻ると、そこではマサムネが驚いた顔でこっちを見ていた。


「お前…スッ呆けた顔の割にやるじゃねえか…」

「痛てて…へへ…なかなか根性あるでしょ?」

「そっちじゃねえ…猿芝居はよせ、オレ様が見抜けねえとでも思ったのか?」


 どうやら鞭を密かに捌いていたことはマサムネにはお見通しだったらしい。

 ぺろりと舌を出してお道化て見せるとマサムネは愉快そうに笑う。

 そして、突然がしりと肩を組んでぐいいっと顔を近づけてきた。ほぼ密着する距離だ。


「ガキ…いや、サスケ…オレ様と組まねえか…?」


 囁くようにマサムネは言う。

 これユキムラちゃんが悪いこと企んだ時によくするやつだ…俺はデジャヴを感じる。

 正直、あまり良い予感はしない。だが拒否権はないのだろう。

 軽く溜息を吐いて問い返した。


「組むのはいいけど…何する気ッスか…」

「決まってんだろ、この地下牢生活脱出大作戦よ!」


 マサムネは不敵に笑い、鉱山の壁を指した。

 そこには貼り紙が張られてある。その内容は…―――


「この剣神主催の大武芸大会でな!」



【続く】

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