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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
不滅の六文銭
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第百四話 北部連合、神と鬼そして竜の巻

 ガハラカーン平原・北方…

 北部連合軍、そして徳川軍、激戦を繰り広げていた筈の両軍は奇妙なことに戦いの手を止めつつある。

 理由は戦場中央…紅炎と氷雪が互いに絡み合い紅白の柱となって渦巻く超常現象が原因だ。

 その渦の根元では神権ちーとを発動して異形化した剣神と井伊直政…その両者が一歩も引かずに斬り結んでいる。


「おおおおッ!!」


 井伊直政の姿は若武者の様相からすっかり変わり果て、赤銅色の皮膚に炎のような赤髪の鬼の姿と化している。

 纏っていた赤備えの具足は激戦により弾け飛び筋骨隆々とした上半身を晒していた。露になった半身は古傷だらけだ。

 形相は恐ろしく、剣神の一挙一動を見逃すまいと必死に両の眼をかっ開き脳神経が焼き切れんほどに集中していた。

 甲斐あって遥かに格上である筈の剣神の動きに対応している…常人には目に見えぬ速度で剣閃の応酬が行われている。


「ははっ!やるな…赤備えを纏うだけのことはある!」


 一方で剣神は艶やかな黒髪が氷原の如き白銀に染まりきり、黒の瞳は神々しい黄金の瞳に変貌を遂げていた。

 北部地方の最終決戦でユキムラとやりあった時の氷神形態…超常の力を一転に収束した人外の様相である。

 心底愉しそうに笑いながら姫鶴一文字を振るい、時折頬を掠める炎の刃にぺろりと舌なめずりする。

 ほぼ互角の戦闘は互いに競い合うようにして力を高め合い、両者を中心にして渦を巻き、巨大な氷炎の柱を形成していた。


「ハ、ハンベエ殿!これは…このままではいけませんッ!剣神殿を止めましょう!」


 切羽詰まったように叫ぶのはタイクーンの影武者、第二軍の指揮官ラキ。

 剣神のあの姿は北部戦線で見たことがある…感情が昂りすぎ剣神自身でも力の制御が利かない非常に危険な暴走状態だ。

 今は直政の力と均衡を保っているからこそ周囲に影響を及ぼしていないがそれも時間の問題。

 一度均衡が崩れ、あの力が解き放たれればガハラカーン平原ごと絶対零度の死の世界と化してしまう。

 しかし、ハンベエは珍しく苦い表情を浮かべて首を横に振った。


「…剣神殿一人を止めた所で結果は同じ…おそらくあの井伊殿も暴走している…」

「ええっ!?」


 赤鬼と化した直政は剣神に対応するばかりに周囲のことが一切目に入っていない。

 おそらく彼もまた暴走している…剣神を倒す形で均衡を崩せば今度は直政の力が解き放たれ、周囲一帯は焦土と化すだろう。

 だからこそ敵もまた直政の攻撃支援に踏み切れずにいる。本能的にこの拮抗を崩すことの危険性を察知しているのだ。

 言うなればこれは神権二つによる時限爆弾…どちらかが倒れた時、この戦場は崩壊する…!


「大変でち!これじゃあ戦どころじゃないでち!」

「ウサミ殿!」


 手出しできない戦況に歯噛みする本陣へとウサミが帰還した。

 超常の光景を目前にして戦意を失った獣人兵団を指揮し一旦引き上げてきた形だ。

 徳川軍も氷炎の柱を越えてまでは追撃してくる気はないらしく、戦場は剣神と直政を挟んだ膠着状態にもつれ込んだ。


「ったく…またこれかよ!困った神様だぜ!」

「マ、マサムネ殿!」


 続いてぼやきながら本陣へと帰還してきたのは伏兵隊を率いていたマサムネ。

 十六神将二人相手に立ち回っていたところ、剣神と直政の超常戦闘のあおりを受けて部隊が壊走した形だ。

 装備のあちこちが凍りついたり焼け焦げたりと満身創痍の有様だが、見た目に反して口ぶりはまだ軽い。

 敵の十六神将…平岩と渡辺はどうなったか、どちらも氷炎の渦に巻き込まれて生死不明だ。いくら十六神将と言えど無事ではあるまい。

 二人に対してラキが手短に状況を説明すれば、マサムネは舌打ち一つして頷いた。


「あいつらを止めねえとここで全員心中って訳だな…葬式代がとんでもねえ額になるぜ」

「言ってる場合でちか!ああ…剣神さま…!」

「何か手はないのでしょうか…今から各軍に伝令を走らせても到底間に合いません…!」


 動揺するウサミとラキを尻目に、マサムネは沈黙思考するハンベエへと目を向ける。


「おい、ハンベエ!この軍で保管してるありったけの蓄魔晶をオレ様に回せ!」


 一言でハンベエは全てを理解した。マサムネは“再転生”の力を使ってあの氷炎の渦の中に突入、止めようとしているのだ。

 だがそれには大いなる危険が伴う…失敗すればこの戦場の将兵諸共全滅だ。


「…力の均衡を崩してはなりません…いけますか?」


 問いに対し、マサムネは不敵に笑った。

 マサムネは決して剣神や直政に対して決して武勇が勝るわけではない…前世では数多くの戦を制してきたが全て苛烈な采配と緻密な計略によるものだ。

 だがどんな過酷な状況でも生き残ることに関して言えばまさしく戦国一…石を齧ろうが泥を啜ろうがいずれ天に昇る独眼竜。

 その竜の嗅覚が言っている…ここは死ぬべき場所ではない。活路は未だここにある、と。

 マサムネは大見得を切り、言ってのけた。


「当ッたり前よォ!オレ様は“転生独眼竜”マサムネちゃん!こんなトコで死ぬようなタマじゃねェ!」


 ハンベエもまた覚悟する。

 この状況、頼れるのはマサムネのみ…であれば彼女にすべてを賭けるしかない。


「頼みました…―――全ての蓄魔晶をここへ!」


 兵に命じれば少しの間を置いて赤く輝く宝石が詰め込まれた木箱がマサムネの眼前へとどすんと置かれる。

 マサムネは静かに深呼吸した後…木箱ごと抱え上げ、叫ぶ。


「“超転生いくしぃど・りびるど”!!」


 轟!!

 膨大な魔力によって天から呼び寄せられた蒼雷がマサムネへと直撃…魔力による依代が作り変えられていく。

 マサムネは幾重にも形成される外殻によって魂器が圧砕されかける衝撃に歯を食いしばって耐える。消費する魔力が膨大な分、魂器にかかる負荷も並大抵のものではない。

 しかしマサムネは根性と気合、そしてダサい死に方はするものかという反骨心で耐え抜く。やがて肉体形成が終われば蒼電光は霧散した。

 その中から現れた姿はまるで竜人…鱗のように硬質化した皮膚と強靭な膂力を得たマサムネはバチバチと放電する息を吐く。

 これならば、僅かな時間であれば剣神や直政に対抗できるはず…―――


「じゃ、行ってくらァ!!」


 ラキ、ハンベエ、ウサミの三人が見守る中、マサムネは地を強く蹴って疾駆。

 誰もが恐れて近づかない氷炎の柱へと迷いなく飛び込みながら両手に二丁の馬上筒を召喚する。

 そして渦の中、互いしか見えずに斬り合っている剣神と直政を目視すればさらに加速。

 まるで嵐のように繰り広げられる赤と白の剣閃の中に…躊躇なく飛び込んだ!


「ぐああああああッ!!」


 無謀!

 神と鬼の争いの中心地とも言えるど真ん中に飛び込めば、いくら超転生していようとタダで済むはずもない。

 両側面からの斬撃を受け止めたマサムネは…しかし両断されることはない。竜の鱗で二人の刀を身に食い込ませて止め、歯を食いしばって耐え抜く。

 一瞬、暴走する剣神と直政の戦いが止まった。


「なっ…!」

「伊達…!?」


 二人は高速思考し、突如乱入してきたマサムネの意図を探る。

 身を呈して我々の戦いを止めに来たのか…だが誰かが犠牲になったところで昂った闘争心は抑え切れない。どちらかが倒れるまで戦い続けるのみ。

 それにコイツはそんな殊勝なタマではない、一体何を企んでいるというのか。

 コンマ数秒…両者が困惑した隙はマサムネにとって最大の活路と成る!


「伊達の軍法に、敵味方の区別はねェ!!」


 雷鳴が如き銃声が…二つ。

 不意を打たれた剣神に、呆気に取られた直政に、マサムネの手にした二丁筒から竜牙の弾丸が襲いかかる。


「なっ…!?」

「お前ッ…!!」


 マサムネは己を犠牲にして止めようなどと言う気はこれっぽっちもない。

 神だろうが鬼だろうが関係ない、暴走しているのなら横からブン殴って強制的に停止させてやろうという考えだけだ。

 二つの弾丸は過たず剣神と直政の額を直撃、着弾地点より蒼き電光が迸る!

 その結果は、果たして…―――



【続く】

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