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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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さようなら、私の楽しい船旅

ゾルゲを見つけた…。


イルルの言葉にこのまま朝まで待てないと、皆を強引に呼びつけてダイニングに集合させた。

そしてイルルからその言葉を告げられるとサードは顔を引き締め、問い詰めるように早口でイルルに聞く。


「奴はどこにいる」


もしかしたらイルルが「お手をどうぞ」と手の平を上に向けてイルル目線でその時の状況が見られるかと思いきや、イルルは手を出さずサードの問いに応える。


「こことは別の枠」


「何それ」


即座にリビウスが聞き返す。けどサードは私たちに言い聞かせるように続けた。


「ラーダリア湖の精霊の国とマダイの塔みてえなもんだろ。同じ世界線にいても薄皮一枚向こうにあって俺らが簡単に行き来できず手出しできない場所、ゾルゲはそこにいるってことだ」


「…」


イルルが言いたいことは分かった。でもそれだとしたら…。


「私たち、どうやってゾルゲを倒せばいいの?精霊の国はレンナが連れて行ってくれたから行けたし、マダイの塔は魔法陣で隠れてるのをたまたま私が気づいて見つけられたけど」


そこで口をつぐんでからイルルに視線を動かす。


「イルルはどうやってゾルゲと接触できたの?イルルの協力があれば私たちでもその枠とかに行って対等に戦える?」


イルルはニヤケた顔ながらも首をかしげて困ったようにしてる。


「それは今のところハッキリ言えやせんな。あっしはたまたまおかしい所を見つけて、そこに入りこんで見つけたんでございやす。いやはやゾルゲというエルフは中々に老獪(ろうかい)な御仁でございやすな、あらゆる魔術を使い自身は発見できないよう防壁を張り、そして見えない場所から魔術を発動し続けていて」


その言葉にアレンが軽く聞き返す。


「魔術を発動し続けてるってことは、今も俺たちを殺そうと何かやってるってこと?」


イルルは「その通りで」と軽く頷く。


「うわー、こえー」


アレンは顔をしかめて身を引いた、でもそんな「こえー」程度で流せるレベルの話じゃないのよ。


「何をしようとしているのですか、ゾルゲは」


私が質問したいことをガウリスが先に言うとイルルは腕を組み、鼻で息をついて上をかすかに見あげる。


「残念ながらそこまでは分かりやせんでした。しかし何かしらの術を発動しかけていたのは違いありやせん、それを止めようとしやしたが…逆に攻撃を喰らった挙句逃げられやした」


すると今度はマイレージが眉間にしわを寄せながら質問する。


「攻撃?どんな攻撃を受けたんだよ」


イルルは左腕を上げた。


ゾルゲを見つけたって話で今まで気づかなかった、でもその袖は焼け焦げていて、その焦げた服をめくりあげると火傷を負ったのか腕は真っ赤になっていて、ボコボコと火ぶくれができていている。


「腕で防いだらこうなりやした。恐らくエルフが使う聖なる魔法の一種でございやしょう」


軽く言っているけどこれって魔族からしてみたらかなりの大ダメージなんじゃないの?

魔族は人間が即死する攻撃を喰らっても「あ、イッタ」ぐらいで回復も早いけど、こんなに傷を負って未だに治ってないってことは。


「イルル…痛いわよね?これ治るの?」


ドレーはヤーラーナの光に当てられて全身火傷を負った状態になっていたんだもの、魔族が聖なるものの攻撃を受けたらその後どうなるのかなんて私には分からない。


「…まあ痛いには痛いですがね、これくらいなら数週間もあれば治るかと思いやす」


餓死寸前だったイルルがフラフラ歩けるまで回復したのが約半日…。


それなら数週間かけて治る傷ってのはかなり重症の部類なのよね。聖剣で脇腹を薄っすら切られたファジズの傷は数ヶ月たってもすぐ血が出そうなぐらいしか治っていなかったし。

…あの、傷今はどうなっているのかしら。


色んな考えが浮かんでいるとサードはイルルの腕をジッと見てから眉間にしわをよせ真剣な顔で目だけイルルに動かす。


「少しでも覚えてるもんはねえか?呪文でも、魔法でも、何かしらの動作でも奴が何をしていたか」


イルルはその時のことを思い出すかのように明後日の方向を向きながら考え込んで、サードに視線を戻す。


「空中に羊皮紙のようなものを浮かんでいたのと、何かしらの星座のようなものが描かれた丸い物が足元に転がっていて、それを見ながらブツブツ言っていたぐらいしかあっしには分かりやせんでした」


「その丸いのは占星術などで使うものではありませんか?」


ガウリスがそんなことを言うから皆の視線がガウリスに集中する。


「私の国でも星を読み、星になった先人の教えを受け取るなどをしていました。その星読みの得意な方はアーミラリースフィアという星座の描かれた丸い水晶玉のようなものを使っていたはずです」


「占星術?だったらそれに詳しいの出せるぜ、ほれ」


カーミがそう言うと、側にいさせていたらしいネズミをモワンッと人の姿にする。


「え、何これ、誰これ、どっから来たの、何者なの、どうしてカーミが出したの、つーかカーミいつの間に船に乗ってたの」


アレンがあれこれカーミに迫るように質問していく。けれども今はそういう話を聞いている場合じゃない。


「それ後で説明するから」


アレンの服を引っぱって椅子に座らせ、カーミがネズミから人にした人物を見る。


質素で地味なローブを身にまとった長い黒髪の、ひょろっと背の高い幸薄そうと思えるほど肩を落とした影の薄い女の人。その手には丸い水晶玉のようなものを持っている。


カーミはその女の人を指さし、


「この人、ネストって名前の凄腕の占星術士だぜ」


なるほど、と頷きつつもなんとも微妙な気持ちだわ。

だってカーミがこうやってネズミを人型に変えられるってことは、この女の人はカーミに殺された人ってことだから…。


それでも自分を殺したカーミが隣にいてもネストという人は何を言うでもなく、頭ぐらいの大きさの星座の描かれた丸い球を抱え、こねるように動かしている。


「イルルさんが見たのってこんなの?」


ネストの持つ水晶玉を指さしカーミが聞くとイルルは頷いた。


「まぁ…少々形は違いやすが大体同じようなものでございやしょうか」


するとカーミはネストに向かい、


「ネストさん、その…なんだっけ、アーミーマフィアとか使って悪さとかできるもんなの?」


「アーミラリースフィア、です…」


落ち込んだようなか細い小声で言い直しつつ、ネストはアーミー…なんちゃらをゆっくり回して、カーミをチラと見る。


「これ自体で悪いことを引き起こす事はできません…。これは天の動きを見るためのもので呪術用ではないので…、これ単体で人に災いを与えるなんてまず無理な話ですが…相手を運気が下がる場所に追い込むとか、そのようなことはできますね…」


ボソボソとした声でよく聞こえなくて、気づけば皆が少し身を乗り出し耳を澄ませていた。


サードはチラとイルルを見る。


「ちなみに羊皮紙に書かれてたもんは見てねえか?」


「…」


イルルはニヤけた顔で、軽く肩をすくめた。そこまで見ていないってことね。


それを確認しサードはネストに視線を向ける。


「ネスト、てめえそのアーミラリースフィア使ってゾルゲが何をして来るのか分かったりしねえか?」


よく普通にそうやって話かけられるわね、サードは。けどこういうのってカーミ以外の人の問いかけにも答えるものなのかしら。


そう思っているとネストは口を開いた。


「分かりません…でも…」


「でも?」


「何かしら悪い場所を探している可能性はなきにしもあらず、です…」


「それはつまりアーミラリースフィアを使い、私たちに都合が悪い所を探しているということですか?」


ガウリスが質問するとネストはうつむくように何度か頷きながら、


「特定の条件が合わさった時に訪れると災いが起きる場合もあります…。魔力があり星を正確に読める者であればそんな場所を見つけ次第その場に誘い込む、おびき寄せる、召喚や転移で人をその場に移動させ不幸の落とし穴へ導くこともできるのではないか。…ということは言っておきましょう…」


するとネストはゆるゆると顔を上げて、ニィ…と笑いだす。


「その災いを除けたいのであれば私の占星術と魔術で回避することができます…お望みであれば皆さんの生年月日、名前、生まれた地域、分かるなら生まれた時間を教えていただけますか…」


「あ、もういいよ。バイバーイ」


カーミがそう言うとネストがモワンと消えてネズミになると、チューチュー鳴きながら去って行った。


それを見て私は、どうして!?という気持ちでカーミをバッと見る。


「ちょっと、回避できることならしたほうがいいのに」


するとカーミはそれは楽しそうにニコニコ笑っている。


…カーミのこの顔は、恐ろしいことを言う時の顔…。


「あのなぁ、生年月日と本名教えたら完全にネストさんの手の内から逃げられなくなるから教えたらダメなんだぜ。教えたら死ぬから」


「え、なんで?」


アレンが聞くとカーミはニコニコ答える。


「ネストさんは最初『この人の占い当たる~』って信じさせておいてから少しずつ悪いアドバイスを与えてどんどん人が落ちぶれて死んでく姿見るの楽しんでた性悪なんだよね。特に生年月日と名前を覚えられたら自分の運命…いわゆる命握られるも当然になっちゃうんだ。だから絶対教えちゃダメなの、ネストさんには」


サードは今までの会話を頭の中で整理するように黙り込んで、呟いた。


「ってことは、ゾルゲは占星術にも長けていて、それで俺らを都合の悪い場所へ追い込もうとでもしている…ってところか?」


「へー、俺らどこに行かされるの?」


あっけらかんと言うリビウスの言葉にサードは顔をしかめ頭をかく。


「分かんねえよそんなもん。だが…そのネストとやらより魔術の力も知恵も確実にあるだろうゾルゲがどう出るか分かんねえのが不気味なんだよ」


そこでシン…とその場が静寂に包まれ、サードは頭をガリガリかいてから立ち上がる。


「まずこれ以上話しても何もねえな。一旦寝るぞ、細かい話し合いは明日からだ」


そう言ってさっさと去って行くサードに、皆もボチボチと動き出して二階のダイニングから自分たちの部屋がある一階へと降りていく。

私も一階に降りて自分の部屋へ行こうとして…でも何となく甲板のほうを見たら夜風に当たりたくなって皆と違う方向へと歩き出した。


甲板に出ると涼しい海風が吹いていて、満点の星空が見える。


「星読み、ねえ…」


このたくさんの星のどれをどう見たら先人の教えを受け取って、悪い運気の場所が分かるんだか。それともネストの持っていたアーミーなんちゃらを使えばすぐ分かるものなのかしら。


船べりに腕をかけ、スゥー…と大きく息を吸って、大きくハァーア…と吐く。


あーあ…。ゆったりした船旅をエンジョイしたかったのに、こうなったら心から楽しむこともできなさそうだわ。

それでもゾルゲが見つかったって話なんだから船旅がエンジョイできなくなって残念とか考えちゃダメよね、とりあえず良いほうに進展したって思わないと。


んー、でもやっぱり素直に船旅を楽しみたかったなぁ…。


もう一回ため息をつきながら船べりに腕をついて真っ暗な海を眺める。

周りには何の明かりもなく真っ暗で、波の音が聞こえるだけ。


またため息が漏れた。


私はゾルゲが作り出した病気…イルスに殺される寸前まで追い込まれた。

サードもゾルゲが何をするのか分からなくて不気味だって言っていたけど、多分サードや私だけじゃない。皆も今一体ゾルゲが何をしようとしているのか…それが分からなくて不気味に思っているんじゃないかしら。


「…不安だわ」


呟くと隣にスッと人が立った気配がして横を見た。でも隣を見て思わず私は「えっ」とのけ反る。


だって隣に現れたのは単体では絶対に隣にいない人。


「ベルーノ…!?」


隣にはベルーノが立ってる。ヒズに入っているわけじゃない、本当に一人で、それも私の目に見えるように隣に立ってる。


「どどどどどうして、どうやって」


混乱しすぎてものすごくどもって聞くと、ベルーノは落ち着いた目で私を見てから手を上に向け「光」と一言いった。

するとそこにはランプの明かりみたいな光が現れ、ベルーノはメモ帳とペンを取り出して文字を綴る。


『私の言葉の魔法で私の幻影をあちらに残し私一人離れてきた』


「できるの、そんなこと」


『できた』


できたんだ…。


そう思いながらジロジロとベルーノを見る。改めて見るとベルーノって私より少し背が高いくらいなのね。それとも猫背だからそこまで身長が高く見えないだけ?


ジロジロ見ていたらベルーノもこっちを見て目が合った。とても落ち着いてる眼差し。


でもすぐさまベルーノはスッと目を逸らす。

…サードの言った通り、すぐ目を斜め下に逸らすわ。


でもそこで前々から思っていたことを聞く。


「思えばベルーノってなんで口を布で覆っているの?」


ベルーノは文字を走らせる。


『これはある程度声を外に漏れないやうにするマジックアイテム。これがあれば多少の悪態を吐いても声は漏れない』


なるほど、自分の言葉の魔法で周りに被害が出ないようにするための自衛策ってわけ。


ベルーノはそれ以上文字を綴ることもなく、私も船が波を切る音に耳を傾け、海に視線を移す。


「…エリー」


ベルーノが急に口を開いてビクッと体が震える。


だってベルーノが声を出すのって攻撃態勢に入った時だっていうもの、まさか何も言わないで無言になった私に急激にキレたの!?


「な、何…?私何かした…?」


「いいや。生前に半年程度喋らないでいたら言葉が出なくなったからたまに意識して喋るようにしている。冒険していた頃はナディムとこうしてたまに話していた。マイレージとリビウスはうるさいし一方的に話すし、少し私が口を開くと変に騒ぎ出すから面倒くさくて話相手に向かない」


「ああそう…」


ベルーノはそう言いながら縁に腕をかけ、最初の私みたいに真っ暗な海を見ている。そしてゆっくりと口を開いた。


「…最近エリーが挙動不審気味に私に謎の質問をしてくるから、何か聞きたいのかと思ったんだ。そうしたら一人甲板へ向かったのが見えたから追いかけてきた」


ベルーノを見る。目が合って、ベルーノは視線を逸らす。


「大体聞きたい内容は想像がついている。どうして皆の記憶を消したのか、どうしてそれを言わず隠しているのか、だろう」


その言葉に私はベルーノに一歩詰め寄り、


「その通りよ。サードが言うの、ベルーノが隠しているその内容は知っていたほうが良い、知っていないままインラスと会うとなったら嫌な予感がするって…」


そこまで言って、私はベルーノに打ち明けた。


「ここで素直に言わないと、サードがあの手この手でベルーノの嫌がることをして吐かせようとするわよ?」


「嫌がること…?」


「ベルーノは女の人が苦手そうだから、私に隣に座ってベルーノの耳に息を吹きかけろとか散々言われてる」


「…!?」


ベルーノは両耳をバッと手で隠しながらザッと距離を取った。

それを見て慌てて付け加える。


「私だってそんなの進んでやろうとしてないわよ!?だからどうにかこうやって話し合いで聞き出そうと思って今まであれこれと質問していたんだから!」


「…」


ベルーノは何とも言えない顔でゆっくり手を降ろし、


「あんな質問で核心に迫る内容が引きずり出せるわけがないだろう、周りに皆がいたからそれができなかったんだろうが」


それでも真っ暗で何も見えない水平線を眺めるように遠くを見ると、軽く息をつく。


「…しかしマイレージたちの記憶は旅をする途中で思い出すと言われていたんだな?」


うん、と頷くとベルーノはまた軽く息をつく。そのまましばらく黙っていたベルーノは、意を決したように私を見た。


「それならばマイレージたちには言わない。だが…まぁ、エリーも不本意なことをさせられそうになっているのなら、エリーと…サードか?君たちには明かそう」


ちなみにインラス一行の現時点の見た目年齢と身長↓


マイレージ…23歳、193センチ。インラスに連行されてる途中の年齢

リビウス…28歳、180センチ。クジラ追いかけて死んだときの年齢

ナディム…人間換算で22歳、174センチ。実際千年以上生きてるダントツ年長者

ベルーノ…18歳、165センチ。インラスに連行された年齢

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