⑧Love Letter
今日は久々に彼と会える。
だから昨日の夜は何を着て行こうか悩み、姿見の前で一人ファッションショーをしたせいで、部屋は酷い有り様だ。
「泥棒にでも入られたのか、私の部屋は」
なんて自分にツッコミを入れながらも彼に会える事の喜びの方が勝っていた。
「そうそう。今日は“これ”を忘れちゃ意味がないのよ」
“これ”とは彼からもらった手紙のことだ。
何故それが必要なのかと言えば──
私の彼は口下手な上に、感情を表すことも少ない。
そんな彼の前で、彼自身が書いた手紙を読めば、どうしたって動揺するだろう。
「私って意地悪かな? たまにはいいよねぇ?」
彼から手紙と一緒にもらったぬいぐるみに言葉を掛け、私は出掛けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
いつもの時間より早く彼のいる場所に着いた。
「今日は、早く来ちゃった」
そう明るく話しかけ彼に笑顔を向ける。
「最近忙しくてさぁ。中々会えなかったでしょ。今日は久しぶりにたくさん話そうね。それにしてもホント、天気よくてよかったわぁ」
鳥の鳴き声や、風が葉を通り抜ける音が心地よく聴こえる。
「ねぇ、寂しかった?」
彼が、寂しがるわけないかっ。自分で答えまで出して自己完結して笑いが漏れる。
「ねぇねぇ。ところでさぁ? これ、何だかわかる?」
鞄から取り出した手紙は、かわいい封筒に入っていた。
「これってさぁ、護が選んだんだよね?」
ちらりと彼に視線を送る私。
「こういうかわいいの選ぶんだぁ。へぇぇ……それでね、今日はお返事かいてきたんだぁ。聞いててね」
そう伝えて私はゆっくり読み始めた。
「聞き上手、そう言えば聞こえはいいけど、口下手の護。大事なことは口に出さないと分からないのよ? そう言ったこと覚えてる?」
私はひとつずつ思い出しながら口にする。
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
たまに彼の方を見て確認する。そしてまた続きを読み始める。
「あぁ、えっと……そうそう。けど、意外とその無口が原因でケンカになったことはなかったよね。だって私が一方的に言うだけ……いやじゃなかった? 酷いこととか言っても護は、怒らなかったでしょ。そのあといつも、ごめんて思ってた。あっ、ごめんを口にしてないから護と一緒だ。私達って案外、似た者同士だったのかもね」
自然と笑みがこぼれる。
「ふふっ。今頃気付くなんてね。私っていつまで経ってもダメだよね。こういうところ。ちゃんと気づけたから明日から……いや、今日から気をつけます。なんてね」
一呼吸置いた私は、手紙の締めくくりを読むことにした。
「私って筆無精だからさ。こうやってお手紙書くの苦手なんだよ。それにさぁ……文字に残したら、全てがそうなってしまいそうで。ほら、決まりきった未来なんて、面白くない……でしょ? ……私は一歩踏み出すよ! だから、見ててよね? うまく歩けるように」
読み終えた便箋を、護に向かって見せた。
「今の私の気持ちを、背伸びせずに伝えることが出来たと思う。どうかな? 流石に白紙の便箋には驚いたみたいね。だって護、言葉もないもの。この手紙は帰りにお焚き上げをお願いしていくから、ちゃんと受け取ってよね。空の上で」
最後に彼に向かって微笑んで、立ち上がる。そして彼の元を離れ歩き出した時、ふわりと風が頬を撫でた。
「もしかしてわかったって言う返事なのかな?」
もう迷わないし立ち止まらない。しっかり前を向いて歩いていくよ。
「ありがとう、護」




