㉒目が覚めたら森って何ゲー?
ピピピ クエ~クエ~ シギャーシギャー……
目を開けたらジャングルにいた。
「…………ぅ、ええええええっ!?」
お!おおおお落ち着け俺!
Q.ここはどこだ?
A.わからん。森っぽい。とにかく外だ。鬱蒼として薄暗いけど確実に昼だ。
Q.名前は?
A.永橋太彦。命名はじいちゃん。
Q.職業?
A.県立七川高校二年八組十三番。 剣道部所属。
Q.家族構成?
A.父、母、妹、弟、祖父、祖母、犬、猫、鶏。
Q.一番新しい記憶は?
A.夜中の0時にゲームの電源をオフにしてベッドに入った。よし、記憶喪失ではない。
Q.どうしてこうなった?
「わ・か・る・かああああっ!!!」
脳内Q&Aは無駄に終わった。
「やべぇ、こんなところで一人とか普通に不安だ……いや!近くにも誰かいるかも!おーい!誰かいませんかー!…………返事はない……じゃねぇよ!?ゲームじゃねぇよ!?それだと屍だろ!?近くにあったら余計に怖いわ!!」
焦りのせいか大声を出すと息が切れる。
自分の持ってる服のどれでもない、ファンタジーゲームで冒険の始まりの軽装備のような格好だ。胸当て?肘と脛も一応のガードがある。
なんでだ、わけがわからない、怖い。
何かないかと焦ってその場をぐるぐるしながらまわりを見ると、どうやら足下は道っぽいと気づいた。他に比べて土が見えるし、生えてる草も短い状態が細長く続いている。獣道、というよりは人も通っているだろう。前に山菜採りでじいちゃんに教えてもらった獣道は全然「道」には見えなかった。
「よしどうする、二択だ」
右か、左か。右の先は鬱蒼とした森、左の先も鬱蒼とした森。
「……テストの二択よりキッツいなぁ……よし、こういう時は利き手の右!」
駄目だったら戻ればいい。明るいうちに何かを見つけたい。できれば平和的なものを。
ピピピ クエ~クエ~ シギャーシギャー……
「……クエーだのシギャーって鳴き声はどんな鳥だよ……鳥、だよな?上の方から聞こえるし……うーん全然見えねぇ……姿がわからないって、こえぇなぁ……とりあえず、移動するにしても目印をつくらないとな」
腰の左側に剣がある。鞘はベルトに繋がれていて、ゲームのキャラはこうやって剣を持ってるのかとちょこっとテンションが上がってしまった。
柄の色はくすんだ金。家の物置の南京錠みたいな色は何色って言うんだろか。安い剣なのか使い古されたのかまではわからない。冒険ゲームの初期装備なんてクソだし、もしかしたら刃こぼれしていて鞘ごと殴る専用かもしれない。それどころか中身はただの木かもしれない。
この状況でオモチャとか、マジどうすりゃいいんだよ。いや、それならドッキリってことで誰かが出てくるはず。
ドキドキしながら柄をそろりと握ると妙に手に馴染む。あ、これはオモチャじゃないわ。
鞘から抜くとシャラリと微かな金属音がする。やっぱりくすんだ鉄のような色の両刃の剣。ゲームやアニメでよく見る剣。宝石とか凝った飾り模様はないが刃こぼれはなさそうだ。たぶん。
「竹刀と全然違うなぁ……真剣……だよな?……そしてやっぱり誰も出てこない……はぁ、返せ俺の期待」
とりあえず足下に生えている草は勢いをつければ切れたから、まあまあの切れ味だ。草刈りは楽そう。
あぁ、真剣なんて怖い。
ビビっていても何も変わらないので、目印用にと決めた太めの木に向かいそれっぽい構えをする。木の表面に軽く触れる程度に袈裟懸けに振り下ろした。
が。力が弱すぎたのか切れただろう線も見えない。長剣の先だけで作業するとか難易度が高過ぎる。小刀か彫刻刀が欲しいが無いものはない。息を吐き、一度だけで傷にならないなら何度かやらないととまた構える。すると。
……ズ、
ん?「ズ」?
切りつけた木の上部が斜めにゆっくりと滑り落ち、枝を周りの木に引っ掛かけながら、絡まっていた蔦がゆっくり切れながら、わりと静かに向こう側に倒れた。
…………ふぅ……
慎重に剣を鞘に収め、右に走った。全力で。
「加減がわからねぇ真剣なんて怖えええええよおおおおおっ!! 誰か助けてええええええっ!!!」




