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大樹のこころを聴かせて  作者: 梅谷理花
第一章 道壱一族という呪い
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10 蘇芳

 そのあとは特になにかあるわけでもなく午前中が過ぎて、昼になったら部屋に昼食を持ってきてもらった。


 食べ終わると部屋着から小紋に着替えがあった。いよいよ相談役とやらと顔を合わせるのだ。


 緊張しながら待っていたら、のんびりした青年の声がふすまの外から聞こえた。


「入ってもよろしいでしょうかー?」


 あたしのそばに控えていたつるばみがすっと立ってふすまを開ける。


「お、つるばみさんこんにちは」


「準備はできてらっしゃいますよ」


 つるばみは赤い着物の青年と言葉を交わすと出ていってしまう。青年が部屋の入り口でニカッと笑った。


「赤道蘇芳(すおう)です。初めまして」


「初めまして……涼音、です」


 爽やか系、という第一印象。そんなに長くない髪をワックスかなにかで整えてあって、見た目にも気を遣っているのかなと思う。


 赤い着物の下には、晃麒とは違ってきちんと襦袢を着ているのが見える。透け感も意識した着こなしだ。


「顔合わせの準備ができたんで、迎えに来ました。晃麒と練が先に会ったって聞いて羨ましくなって!」


「はあ……」


 そういうもんだろうか。なにはともあれ、迎えが来たなら行くほかない。


 あたしは座布団から立ち上がって入り口に向かう。蘇芳と名乗った青年が手を差し伸べてきた。


「同い年らしいんで、仲良くしてほしいな。よろしくお願いします」


「……よろしく」


 握手を返す。蘇芳はぎゅっとあたしの手を握ると、なぜかぺろりと舌を出した。


「ふーん、なるほどね」


「?」


 舌をすぐにしまって、蘇芳はまた人の好さそうな笑みを浮かべる。


「なんでもありません」


「そ、う」


 今のはなんだったんだろう。蘇芳は笑顔を崩さない。


「ていうか同い年なら敬語外してもいいかな?」


「別に、いいけど」


「やった。じゃ、行こうか」


 蘇芳は握手したままだった手を左手で握り直して歩き出そうとする。


 あたしは恥ずかしくなってそっと手を引き抜いた。蘇芳は不思議そうに振り返る。


「ん、嫌だった?」


「……少しだけ」


「そっか。ごめんごめん」


 蘇芳は軽く謝ったあと自分の着物の胸元にある羽根のついたネックレスをいじった。


 整った和服には似合わない、インディアンっぽいネックレス。


 蘇芳はあたしの怪訝な視線をものともせずに、左手でするりと羽根をなぞる。


「それは?」


「うーん、リセット用というか……お守りみたいなものかな。触ると落ち着くんだよね」


「そう……」


 あたしの曖昧な返事はスルーして、蘇芳は大仰な手つきで廊下の先を指し示した。


「改めて、行こうか」


 あたしはとりあえず頷いて、蘇芳の斜め後ろについて廊下を歩き出した。

次話は7/15投稿予定です。

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