28 拾い物リリアン
紺色の髪に紺色の目をした、宵を想起させる少年。
手足が細く、けれど栄養の行き届いた肌をした少年は、商品として上質だった。だからこそ、本来なら奴隷として高値で売り飛ばされるはずだった。
けれどリリアンがそれを止めて、手元に置いた。
直属ではないが下っ端として、船にとどめた。
その理由は、語られていない。
「あれは、あなたが目を掛ける程の人間ですか」
甲板長として新人の仕事ぶりを観察していたヴェレは、真面目だが仕事を押しつけられても反抗できないフォンテに、リリアンが気に掛けるような気概は見付けられなかった。
アレはどこにでもいる、意気地のない子供だ。
真面目な顔で問いかけてくる甲板長に、無表情だったリリアンの口元に笑みが浮かぶ。
「どいつもこいつも私の動向を気にしすぎじゃない? 言うほど、構ったつもりはないんだけれど」
「依怙贔屓は頭の悪い船員を産むので感心しません」
「絞られた奴らの原因はアタシだって言うわけ? 人間性の問題までアタシに繋げないで欲しいわ。それと、別にアニタとセットにすることで苦労させて、船への貢献度を稼がせているわけじゃないわよ」
ヴェレの言葉からそこまで察していながら、そうではないとリリアンは言う。
「アタシが拾ってきたから、拾ったからには最後までってだけよ」
リリアンは奴隷商人として商売をしているが、商品を攫ってきたことはない。
主に普通の商船と勘違いして襲いかかってきた海賊。もしくは国で行き場をなくし、奴隷として生き延びる選択をした人間。単純に売られた人間を商品として取り扱っていた。
今回、密航したアニタを奴隷として扱おうとしたが、密航は犯罪なので奴隷にされても文句は言えない。文句は言わなかったが力業で飛び出して来た。本当に意味が分らない。
アニタは規格外だが、そもそもリリアンが人を拾ってきたのははじめてだった。
拾った認識だったから、最後まで面倒を見なければと思ったのだ。
「アンタもわかるでしょ。陸に上がるたび愛玩動物を増やしてくるんだから。今何匹よ」
「昨日二匹に減りました」
「何減らしてんのよ馬鹿なの? 同じ檻に入れるなって言ってるでしょ。アンタ本当に愛玩してる? アンタこそ最後まで責任取りなさいよ」
猫型モンスターは群れない。
縄張り争いが激しく、特に雄同士だと視線が合った瞬間バトルが勃発する。子を抱えた雌は特に激しく、寄らば斬るといわんばかりの尖り具合。
つまりどういうことか。
同じ檻に入れるなど言語道断だ。殺し合いがはじまってしまう。
だというのに躊躇わず同じ檻に入れるヴェレ。自分の部屋のスペースを圧迫してまで猫型モンスターを飼育しているのにこの蛮行を繰り返すので、コイツ本当は猫型モンスターに何らかの恨みがあるのではと思われていた。
世話をするとき、溶けるほど相好を崩しているのだが、やっていることが狂人のそれ。
「勿論最期まで面倒を見ています。彼らのモフモフは俺の癒やし。彼らが毛皮になってからも愛で続けます。命尽きてもモフモフは残る。素晴らしい存在です」
「アンタの愛玩って猟奇的よね」
「リリアン様がフォンテを愛玩動物と認識しているなら話がわかります」
「わかって欲しくないわね。絶対何かズレているわ」
「人の皮は長持ちしませんのでお勧めできませんがフォンテの毛並みはなかなかだと思います」
「剥ぎ取らねぇわよ」
どうしてそうなった。
リリアンは半眼になって真面目な顔をしているヴェレを眺めた。いたって真面目に発言している男に深く嘆息する。
この男、船一番のサイコパス、キューマに狂人と思われているだけある。
正直どっちもどっちである。
キューマとヴェレはお互いを狂人だと思っているけれど、周囲はどっちも狂人だと思っている。
まともな奴はいないが、それでも抜きん出ている。




