第四十話 南部連合国対合衆国 その9
はい、前回の続きを話します。
化学肥料を大量に積み込んだ双発機は、南部連合国空軍戦闘機一機に監視されながら南部連合国首都リッチモンドに向かっていました。
双発機の機内ではある作業が行われていました。
化学肥料を爆薬に加工していたのでした。
詳細な方法は悪用されるおそれがあるので、ここでは話せませんが、現在でもテロリストが爆薬製造のために使っている方法です。
そして、双発機は南部連合国大統領官邸にと進路を変えました。
監視していた戦闘機は無線で進路を戻すように警告しました。
もちろん、双発機は警告を無視しました。
現在ではよくこの戦闘機のパイロットの行動が「双発機が大統領官邸に進路を向けた時点で何故撃墜しなかったのか?」と批判されます。
テロリストが民間機で重要施設に体当たりをするのは現代では常識ですが、当時はまだそういう事例はありませんでした。
当時、南部連合国は合衆国の民間機が重要施設を空撮することを怖れていました。
そして、当時はまだ開戦前だったので、戦闘機のパイロットだけの判断で双発機を撃墜することはできませんでした。
防空総司令部に状況を連絡して判断を仰がなければなりませんでした。
防空総司令部は混乱しました。
軍用機であれば警告を無視した時点で問答無用で撃墜するのですが、相手は民間機でした。
そして、双発機が離陸した時の検査では非武装だったことが報告されていました。
大量に化学肥料が積まれていたことが報告されていれば、そこから爆薬に加工したことに気づいたのかもしれませんが、積み荷の内容については防空総司令部には報告されていませんでした。
南部連合国は合衆国がすでに開戦を決意していることを知りませんでした。
南部連合国軍は自分の方から開戦の切っ掛けをつくることを怖れていました。
民間機を撃墜してしまえば自分たちの方が「悪役」になってしまいます。
防空総司令部は、双発機が大統領官邸に向かっているのを「大統領官邸上空を飛行する示威行為」と判断して、それをただちに大統領官邸に伝えました。
報告を受けた官邸スタッフの一部は、大統領に官邸からの待避を進言しましたが、大統領は「示威行為であれば、大統領である私が怯えて逃げ出したなどと合衆国に宣伝させるわけにはいかない」と待避せずに、毎日の予定通りに朝八時からの朝食を始めました。
双発機は大統領官邸に進路を固定すると、乗員は全員パラシュートで脱出しました。
続きは次回に話します。
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