第三十八話 南部連合国対合衆国 その7
はい、前回の続きを話します。
南部連合国と合衆国が開戦した日のことを話しましょう。
第二次世界大戦が開戦すると、南部連合国は中立を宣言しましたが、合衆国は南部連合との国境近くに「不測の事態に備えて」大兵力を集めました。
それに対抗して、南部連合国も「不測の事態に備えて」大兵力を集めました。
当初は前線に配備された兵士たちの間には「いつ?開戦するのか?」と緊迫感にあふれていましたが、日が経つにつれてゆるんでいきました。
民間の鉄道・自動車は国境を越える時のチェックこそ厳しくなりましたが、双方の国を行き来していました。
お互いの首都に着陸する民間の航空機に対するチェックは厳しいものでした。
例えば、合衆国領土内から離陸して、南部連合国首都リッチモンドの飛行場に着陸する航空機の場合は次のようになります。
航空機の乗客と貨物のリストを事前に南部連合国側に提出して、出発する飛行場で南部連合国が派遣した係員のチェックを受けなければなりませんでした。
乗客と貨物のリストに不備があると判断すれば、係員は飛行そのものを差止めすることができました。
飛行が許可されて合衆国の民間航空機が南部連合国領空に入ると、南部連合国の戦闘機が表向きは「護衛」ということになっている「監視」が付き、事前に定められた飛行コースをはずれると場合によっては「撃墜」されることになっていました。
逆に、南部連合国領土内から離陸して、合衆国首都ワシントンの飛行場に着陸する航空機も同じあつかいでした。
そして、南部連合国と合衆国が開戦する数時間前、その日の早朝、合衆国領土内にある飛行場から南部連合国首都リッチモンド行きの民間の双発機が南部連合国が派遣した係員のチェックを受けていました。
提出されたリストによると乗客が数名と貨物はすべてが化学肥料でした。
化学肥料は航空機の貨物室だけでなく、客席のほとんどを埋め尽くしていました。
係員は「何故?航空機でこんなに大量の化学肥料を運ぶんだ?」と質問しましたが、その答えは次のようなものでした。
「乗客は全員が化学肥料製造会社の社員です。今日、リッチモンドで多数の農家との商談があります。化学肥料は商品サンプルで、数日前にトラックで運ばれているはずだったのですが、連絡ミスで運ばれていませんでした。商談に間に合う方法が、この航空便しかなかったのです」
その答えに納得した係員は飛行を許可しました。
双発機は飛び立ちました。
南部連合国首都リッチモンドの上空に到達するのは午前八時ごろになる予定でした。
午前八時は南部連合国大統領がリッチモンドの大統領官邸で朝食をとっている時刻でした。
続きは次回に話します。
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