朝起きたら神になっていた
朝起きたら神になっていた。
なぜわかったのかって?
だってさ、
『おめでとうございます! 貴方は一日神さま体験プログラムに当選しました~!!』
って枕もとで天使に言われたから。いきなり大声出すからあやうく心臓止まるかと思ったよ。
それと――――関係ないけど天使めっちゃ可愛い、マジ天使。
『では早速お仕事していただきましょうか』
「えっと……神さまって何すれば良いんだ?」
『基本的には人々の願いを叶える感じですね』
なんだよ、やっぱ神さまって願い事叶えてくれる感じなのか!! マジかよ、もっと色々お願いしておけばよかった……。
「叶える願いはこっちで選んで良いんだよな?」
俺が神さまなんだし。
『いいえ、基本全部叶えてください、神は万能ですから』
いや……俺、ただのサラリーマンなんだけど?
「で、でもさ、世界を滅ぼしてください、とか叶えたらマズい願い事とかあるだろ?」
『そこは上手く神業で適当にそれらしく。たとえばお金持ちになりたいなら、小銭拾わせるとか――――予算に限りがありますので』
なんか急にスケールの小さい感じに……
まあ、でも――――こんな機会二度とないだろうし
「よっしゃあ!! せっかく神さまになったことだし、ばんばん願い事叶えちゃうよ!!」
『ふふふ、やる気があって素晴らしいですね、では本日の願い事、全部で33億六千万件あるのでお願いしますね。あ……リアルタイムでどんどん増えていきますので、効率重視でよろしくお願いします』
え……33億? む、無理!! 絶対無理いいいいっ!!!
『大丈夫、一秒間に4万件処理すれば余裕で終わりますって』
天使のようににっこり笑う天使。
仕事が始まった、無駄口を叩く時間も惜しい、一応、神さまなので人間を超越した処理能力を与えられている。
神さまなので食事や休憩をとらなくても死なないからと、二十四時間ぶっ通しで願い事を処理してゆく。ほとんどの願いは具体性がないものばかり。
(なるほどな、わかりやすくはっきり伝えるって大事なんだ)
それにしても――――
自分で何とかしろよって願いの多いこと多いこと。だんだんイライラしてきた。
「ああああ……終わったああああ……もう駄目、もう無理っ、願い事怖い!!」
『お疲れ様でした、よく頑張りましたね!! ご褒美にエナジードリンク一年分差し上げます!!』
「そんなに飲んだら体壊すだろっ!? 他の無いの?」
『仕方ないですねえ……それじゃあ神さまにお願い出来るチケット一年分!!』
「おお!! 凄いけど!! なんか使うの申し訳ないっ!! でも魅力的!!」
『まあ……お願い出来るだけで叶うわけじゃないんですけどね』
「ただの紙屑じゃねえか!!」
結局、俺はミックスナッツ一年分を貰って元の生活に戻った。
あれからというもの、出来るだけ自分の力で頑張っている。自分一人がやめたところで何も変わらないとわかってはいるが、気持ちの問題だ。
「神さま、今日もお疲れ様です」
それでも――――全員の願いが叶うことはなくても、神さまはいる。少なくとも俺たちの願いは届いていて、叶えようとしてくれている。
「おっ、自販機がホットに替わってる、朝晩冷えてきたからな」
ピッ…ウィーン…ガコンッ!
休憩時間に飲む缶コーヒーは至福だ。
チャララ〜ン!
「うおっ!? もう一本当たり……マジか」
もしかして……神さま?
「ありがたくいただきます」
うーん、でもせっかくの缶コーヒー冷めちゃうな。
「あ、先輩お疲れ様です!!」
「おう、お疲れ様、あ、コレ飲む? 当たったんだ」
「マジですか!! この自販機当たらないって噂なのに、先輩神っ!!」
もう神はこりごりだよ……。
「ミックスナッツもやるよ、意外とコーヒーと合うんだぜ」
「あはっ、なんでミックスナッツ常備してるんですか? なんかジワル」
ふと思う。
もし世界中の人が――――一日だけ自分のことじゃなく世界のことを願ったとしたら――――世界平和だって叶うのだろう。
「世界平和についてどう思う?」
「いきなりどうしたんですか!? 飴食べます?」
まあ……難しいよな、実際。
皆の願いを叶えることが神さまの仕事なんだとしたら――――神さまの願いは一体誰が叶えるんだろうな?
いや、もう叶っているのか……きっと神さまになりたいって誰かが願ったんだ。
この世界もきっと誰かの願いで出来ていて――――
なんでこんなことを考えているかって?
後輩とデートすることになったからだよっ!?
「神さま、どうかデートが上手く行きますように!!」
スコーンッ!! 空から空き缶が落ちてきて頭に直撃した。
どうやら神さまには頼れそうもないらしい。




