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性分ではありません  作者: 紫音
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第16話

……行きましょう。


授業が終わってすぐに私は行動に移します。

サーシャ様は動き出す前に取り巻き達が集まるのを待つ習性があるのです。これは幼なじみとして古い付き合いのために気が付いた事ではあり、常日頃の物事の観察は重要なのだなと改めて思います。

行動に移した私は早急に教本などを片付けて教室を出ます。サーシャ様は逃げたと喚き散らしそうですが私も彼女の相手ばかりしているほどヒマではないのです。

なぜならば、先ほど、ヴィンセント様から聞いた低温対策など農作物に試したい事があるからです。決して、サーシャ様の相手をするのが面倒だからではありません。

言うなればこれは戦略的撤退です。何度でも言います。話が通じないから相手をするのが面倒になったわけではありません。マージナル家令嬢として領地運営の方が重要だからです。優先度の問題です。


急ぎ足ではありますが決してマージナル家令嬢として恥じないような態度で教室を出ます。

見ようによっては他の方達には逃げたと思われるかも知れません。それで教室に残されたサーシャ様が尻尾を巻いて私が逃げ出したと言って1人で勝手に勝利宣言をするかも知れません。

ですが、私にはまったく関係ありませんし、興味もありません。勝ち負けの無い物で勝手に優越を付けて勝ち誇る事はサーシャ様のただの自己満足です。


背中越しに聞こえるサーシャ様の勝利宣言を聞きながら、歩を進めます。


ここまでくれば大丈夫でしょうか?

勝利宣言は聞こえていましたし、ラグレット侯爵家令嬢として廊下を全速力で走って追いかけてくるような恥ずかしいマネはしないでしょう。

そう思い、胸をなで下ろした時、私は自分の失敗に気が付きます。なぜならば、私の耳にある方の声が届いたのです。

この学校は有名商家や貴族達の子息子女が通う場所、廊下を全速力で走り抜けるような非常識な事をするような者がいるわけもない。

誰もがそう思うはずです。実際、私に勝手な敵対心を抱いているサーシャ様ですら、そのような非常識な事はされません。

ですが、私は忘れていたのです。私の側にそのような事をするご令嬢が1人居た事を……


「お姉様、お帰りですか?」

「アメリア様、お願いします。背中に飛びつくのはお止めください。それに廊下で大声を出すのはあまり良い事とは思えません」

「はい。お姉様、気を付けます」

「お願いします」


可愛らしい声と同時に鈍い痛みと衝撃が背中を襲いました。その衝撃と声には心当たりがあります。

間違いなく、アメリア様です。衝撃に負けて吹き飛ばされてしまえば、ケガをするのは私とアメリア様だけではありません。この勢いでは間違いなく、廊下を歩いている他の方達にも迷惑がかかります。そう考えて何とか吹き飛ばされないように耐えます。

こちらは変わり者や変人と噂されようが領民達と一緒に農作物や農機具を運んだりしている身、下半身の強化は自然にされています。

背中の痛みに耐えながら、私の背中に抱き付いたアメリア様に注意をすると良い返事があるのですが、間違いなく、数日後にも私の背中には同様の衝撃を受けるでしょう。そんな確信があります。


「お姉様はお忙しいのですか?」

「そうですね。ヴィン……から」

「ヴィン?」


アメリア様は定位置だと言いたいのか当たり前のように私の腕に抱き付くとこの後の予定を聞いてきます。

私の予定はすでに領地運営で埋まっています。ヴィンセント様から教えていただいた事を実行しようと思っているのです。

領地運営に取り入れる事が出来る事があるかも知れないと言う事に浮かれていたようで危なく、ヴィンセント様の名前を出してしまいそうになります。

慌てて彼の名前を飲み込むのですがアメリア様の耳にはしっかりと届いていたようです。やってしまったと思い、視線が泳いでしまいそうになりますが何とか我慢します。


「お姉様、ヴィンと言う方は誰ですか? おかしな方でしたら、私達は……」


……一瞬、いつものアメリア様とは違う気配がしました。背中に冷たい物が伝った気がします。

アメリア様はヴィンセント様とは面識があるとは言え、彼女はあの方がこの国の皇太子様とは知らないのです。

ヴィンセント様は身分を隠して国内を歩き回っており、病弱で城の中に引きこもっているとも噂されていますから表舞台にはなかなか出てこないでしょうし、会う機会はないと思うのですが……私はヴィンセント様の正体を知っているのです。そして、あまり、長くは話してはいませんが彼の場合、平然と学園の中を歩き回っている可能性も高いと思えます。

彼女の様子から騒ぎになっては困ります……ですが、どこまで話をして良い物でしょう?

私達がヴィンセント様と出会った日にサーシャ様から助けていただいた事は説明していますし、ヴィンセント様を見つけ次第、血の気が多そうな親衛隊を語る者達が動き出す事はないはずです。

そんな希望的観測を持ってアメリア様に皇太子だと言う事を伏せながら説明したいと思います。


「おかしな方ではありませんよ。先日、サーシャ様から助けてくださった方です。先ほど、カフェでお見かけしましたので先日のお礼をしたのですが」

「先日のですか……」


あくまでも偶然出会ったと言う形で説明をしようとするのですがアメリア様は疑っているようにも見えます。

……実際、嘘を吐いているわけですから、疑われても仕方ないのです。ですが、何とか誤魔化さなければいきません。

さすがに学園内を皇太子様であるヴィンセント様がうろついていると知られると騒ぎになりかねません。


「はい。お仕事でこの国を歩き回っていると言う事でしたので、興味深いお話をたくさん聞かせていただきました。領地運営にも役に立ちそうなお話でしたので早速試してみたいと思いまして」

「そうですか。それは良かったです。お姉様、途中まで一緒に帰りましょう」


ヴィンセント様の正体を伏せて旅の方から興味のある話を聞いたと説明するとアメリア様はすぐに笑顔に変わりました。

その笑顔に完全に私とヴィンセント様の関係への疑惑は完全に晴れたと言う確信はあるのですが、なぜか、納得がいきません。

ただ、私は納得がいかないのですがアメリア様はすごく楽しそうです。


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