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第9話 女騎士は守らない

 王都の広場。

 その噴水前に女たちが数人立っている。


 誰も彼もめいっぱいのおめかしをしている妙齢の女性たち。

 しかしながらその着飾った姿とは裏腹に、どこからぎすぎすとした苛立った雰囲気が彼女たちの上には漂っていた。


「待ち合わせの時刻からもう四半刻も過ぎたわよ!!」


「なにしてるのよあの人は!!」


「今日ってアレインさんてば寮に居たんじゃないの?」


「私が出てくる時にはまだ寝てたけど」


「そういやトット君って今日見たっけ?」


「言われてみれば見てないね」


「なんか今日は用事があって来れないとか言ってたよ」


「ちょ、それ大事」


 女達――アレインが住む女騎士寮の住人達は、青い顔をお互いに向けた。


 激務である女騎士。

 アレインでなくっても、その朝はどうしても遅く重くなる。

 従士が起こしてくれないと起きられない女騎士は意外と多い。


「じゃあなに、アイツ、まだ寝てるってこと?」


「ちょっとヤダ。相手の男騎士たちに、八人って連絡してあるんだけど」


「けどお局さまいないほうが合コン盛り上がるんじゃない?」


「そうかも」


「名案」


「そうしよっか」


 ダメよ、と、強い口調で言ったのは、一番苛立っていたリーダー格の女。


 アレインの次に古株の女騎士だ。

 彼女は、年下の女騎士達を眼力だけで黙らせた。


 そして、はぁと溜息混じりに口を開いた。


「アレインさんには早くいい人見つけてもらって、それで、女子寮出て行ってもらわないと困るのよ。そのための合コンでしょ」


「アレインさん大飯ぐらいだしね」


「いびきうるさいし」


「洗濯物とかも外とか干してて恥さらしだし」


「ゴミもトット君くるまで部屋に溜めてるものね」


「最近ちょっと加齢臭も」


「ちょっとやだ、それ本当?」


 言って全員が顔を見合わせる。

 ううん、と、眉をしかめたのは、流石に同じ釜の飯を食う中。

 言葉にせずとも共有できる何かがあった――。


 ふとそのとき、女騎士の一人が街の方に何かを見つけて顔色を変えた。


「あ、あれ、アレインさんじゃない?」


 とてとてと、夕日を背負って広場に向かって歩いてくる、女騎士の姿。


 そう、女騎士の姿。

 なぜか鎧姿の彼女は、さわやかな微笑を浮べながら、ドレスを身に纏った女達の集団に合流した。


「いやぁ、参った参った。まさか、今日トットの奴が来ないとは知らなくって、洗濯するのをすっかり忘れててだな。これしか着るものがなくって」


 白けた顔をする女騎士たち。


 後輩達の冷たい視線。

 しかし、それに微笑を返すアレイン。

 微笑みながら――やはりというか、なんというか。


 彼女はその場に膝を折った。


「くっ、殺せ!!」


 鎧しか着る服がなかった。

 それが、寝坊をごまかすウソか、それとも本当なのかは定かではない。


 なんにせよ、後輩達に冷ややかな視線を向けられて、豆腐メンタルのアレインが耐えられるはずもなかった。


 哀れ女騎士。

 この女騎士には、後輩からの信頼も尊敬もなかった。

 なにより女子力がなかった。

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