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第4話 女騎士は話さない

「ペラペーラ、ペラペラ、ペラペラペー」


 街中。

 金髪をした耳の長い女が、通りすがりの女騎士アレインに声をかけた。


 麻でできた緑色のローブをまとっている。

 どうやら金髪の女は旅人らしい。


 彼女は、ここいらでは耳に馴染みのない言語で、まくしたてるように女騎士に何かを問いかけていた。


 ふんふんと彼女の言葉に聞き入る女騎士。

 ひとしきり話を聞き終えると、アレインは何を思ったか――。

 

 突然その場に膝を折った。


「くっ、殺せ!!」


「なに言ってるか分からないからって、死を選ぶことないじゃないですか」


 別行動をしていた彼女の従士トットがそこに戻ってきた。

 果物やパンのつまった麻袋を手に、あきれた顔で女主人に言い放つ。


 この世の終わりという感じにうずくまっていた女騎士。

 その顔が、おぉ、という声と共に明るくなった。

 対して従者の顔は、呆れと情けなさでどんよりと暗くなった。


 しかし、暗い顔をしていてもしかたない。

 従士は女騎士に代わって、旅人の女の前に立った。


「森から出てきたエルフさんですね。人間の言葉には不慣れなようです」


「ふん、そんな状態でノコノコとやってくるななんて無用心なエルフだ。悪い人買いにでも騙されたらどうするんだ、まったく」


 人間の言葉が分かっていても、騙されそうな人に心当たりがある。

 従士トットの顔がますます暗くなった。


「まぁ、この辺りはエルフの里も近く、準公用語みたいなものですから」


「やはり王都から離れるといかんな、これが文化文明の違いという奴か」


「というかエルフ語って、騎士学校の必修科目なんじゃ」


「アーアー聞こえない、何も聞こえないー、野蛮な言語は分からないー」


 耳を塞いで従者のツッコミをなかったことにするアホ女騎士。


 しかたがない。

 この娘、騎士学校でエルフ語の授業を寝て過ごし、挙句の果てに赤点、補習、再補修、再々補習を経て、最後は裏金で単位取得していた。


 彼女にエルフ語を教えた学校の女エルフは、その後地元に戻り、出所不明の資金で森を買い取りきのこ牧場をはじめたそうな。


「私は誇り高き人間の騎士だ!! エルフ如き亜人の言葉、口にするのは憚られるというもの!! 郷に入り手は郷に従え!! 人間の町に用事があるのであれば人間の言葉で喋られよ!!」


 ――と、伝えてくれ。


 どや顔で言い切ってすぐ、従士のトットに頼んだアレイン。


 あきれたという感じに溜息を吐くと、聡明な従士は女主人に代わって、流暢なエルフ語を話し始めた。


 言葉の分かる存在の登場に、エルフ娘が安堵して微笑む。

 どうにも話の弾んでいる様子に、アレインはむっと眉をひそめた。


「どうしたトット。彼女なんと言っているんだ」


「あぁ、すみません、アレインさま。いえ、僕も気になってたんですけどね」


「うん?」


「彼女、エルフ語使ってません。人間語が凄くなまってるだけです。その上で……」


 エルフと従士が女騎士の尻を指差す。


 誉れ高い女騎士様の純白のスカート。

 その中から、可愛らしいピンクのパンツが「こんにちは!!」していた。


「|スカートめくれてますよ《スッカト・メクリェヒェ・マス》」


「ひゃん!!」


 女騎士は、なまっているとはいえ、人の話も聞くことができなかった。

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