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僕に彼女(♂)ができました~僕の彼女は男の娘!?~  作者: 真上誠生
~第二章~

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20/20

夢と現実

「──小春、シートベルトを着けなさい」


 突然、男の人の声が聞こえてくる。僕はそれでハッとなり、気が付く。いつの間にか視界が真っ白に染まっている。


「──うん!」


 子供の声が聞こえてくる。それが誰の声だか、真っ白な靄に覆われて何も見ることが出来ない。その中で男の人はこう言った。


「楽しみだな()()


 誰かが僕の名前を呼んだ。その声を僕は聞いたことがあったのか、心が締め付けられるような気になってしまう。ああ、そうだ。この夢はきっと──。


「うん! 楽しみだね、()()()()


 子供──僕の笑い声は聞こえ、一気に視界が晴れた。真っ白な靄の中を抜けた先、そこは飛行機の中だった。そうか、これは多分……父さんと行った最後の旅行──。


「あんた達、騒ぎすぎ! 周りの迷惑も考えなさいよ。すみません、ウチの者が……」


 僕達の後ろの座席に座っていた母さんが周りに謝っている。こんな時もあったんだ……夢の中だからどこまで正確かわからないけど。


 ……それにしても、なんでこんな夢を見てるんだろ? ……ああ、そうか。最近、父さんの甚平とか着てるからつい気になっちゃうんだよなぁ。


 なんで父さんが死んだのか、結局わからずじまいだ。僕は夢の中で父さんの顔を見ている。しかし、その顔は影で見えなかった。それがなんだか寂しく感じる。


 ──久々に父さんの写真でも見るか。……覚えていたらだけど。


 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、子供の頃の僕は座席に座り、足をぷらぷらと振っていた。その姿を見ると日和を思い出す。


「小春、日和ちゃんは好きか?」


 あ、ダメだ……父さんが変なこと言い始めた。それで、なんか輪郭があやふやに……。




「──ハッ!?」


 弾かれたように目を覚ます。なんか、変な物を見た気がする。思い出そうにも思い出せない。夢だから仕方はないが。


 薄っすらと額に掻いていた汗を手の甲で拭い、時計を見た。今は十一時、昼の真っただ中。外は太陽から直射日光が降り注いでいる。そして、窓は外からの風を入れる為半開き。


 ──ミーン。ミーン。と窓の外ではうるさく蝉が鳴いていた。うるさくて窓を閉めたかったが、今閉めると死んでしまいかねない。僕はその理由である原因を睨めつけた。


「なんでこんな時に壊れるんだよ……」


 そこにはクーラーがある。それが今はもう動かなくなってしまった。夏休みの間の相棒はお亡くなりになってしまわれたのだ。


「あっちぃ……」


 こんな熱い部屋ではパソコンも動かすことが出来ず、クーラーが治るまでは何もすることが出来ないのだった。


 僕はのそりと上半身を起こし、近くにある携帯を取る。日和に連絡を入れようか迷い、そしてやめた。最近、日和の携帯に連絡を入れても繋がらないのだ。解約をしたのか、されたのかはわからないが、「お掛けになった電話は──」と無情な機械音声だけが聞こえてくる。


「日和……会いたいよ……」


 最後に会ってから二日は経っている。僕達は正式に恋人になったのだから会いたくて震えている。でも、ゲームで日和に会う度「ごめんね」と言われていた。


「日和ぃ……なんでなんだよぉ……」


 本当に僕達は会ったことがあるのかわからなくなってしまった。ただ、何となく前よりも壁を感じるということだけは鈍感な僕にもわかる。


「照れてるとか? ……な、わけないか」


 ──強引に誘ってみてもいいだろうか? でも、日和の意見を優先したいしなぁ……。


 考え始めると、思考がループしてにっちもさっちも行かなくなってしまった。日和を大切に思えば思う程、行動が縛られる。何とも言い難い気持ちだ。


「……なんか飲むか」


 寝起きで喉がカラカラだ。冷蔵庫へと行くとしよう。僕は起き上がり、頭を掻きながら冷蔵庫へと向かった。






「……ウッソだろおい」


 台所へと降り冷蔵庫を開けると、飲み物が一つも無い。そういえば昨日飲み切ってしまったんだった、そろそろ買い出しに行くべきか……。僕は一つ溜め息を吐いた後、コップに水を入れて一気に飲み干した。うわ、生温い。せめて氷を入れるべきだった。


「顔でも洗ってすっきりするか……」


 僕は洗面台へと向かおうとした──その時、電話が急に鳴り始めた。僕は慌てて、発信主の名前を見る。そこには、環とだけ簡潔に一文字書かれている画面があった。


 それを見た僕は、携帯をそこら辺の柔らかい場所へ放り投げる。何だろう、嫌な予感しかしないんだが。出るべきか、出ないべきか……出なかったら滅茶苦茶うるさいんだよなぁ、こいつ。


 僕は考えた末、渋々電話に出ることにした。その瞬間、耳をつんざくような大声が受話器越しに聞こえてくる。


「おーい!!! 小──!!! ──!!!」


 耳がキーンとなり、僕は受話器を遠くにやる。受話器の向こうではまだ環が喋っているのだけはわかるが、何を言ってるか聞き取れない。


 僕が聞いていないにも関わらず、環は何かを喋り続けている。その電話を見ながら、僕はキレてこう言った。


「もっとトーンを落とせ! うっせぇんだよ!!!」


 こいつはどうでもいい存在だからぞんざいに扱ってもいい。──こいつの名前は木平環(きひら たまき)……一応、僕の友人である。


「で、なに? 何か用事なの?」


 鬱陶しいので、さっさと話を切り上げるに限る。僕はそう思い、適当聞くことにした。しかし、僕の言葉には反応しない。何故かと思い、面倒なので電話を切ろうとしたタイミングで声が掛かる。


「あの、さ。少し話いいか? 家に行っても……」


 やけに大人しい。何があったのかわからないが、こんなに殊勝な環は初めてだ。でも、家か……「今はクーラーが壊れてるから来ない方がいいぞ」僕は少し考えてこう言う。こんな暑苦しい部屋に男二人でいたら更に暑苦しいこと請け合いだ。そんなもの、僕は嫌だ。


 ──日和なら。いいかも知れない。というか、かなりいい。


 頭の中で汗を掻いた日和の姿が浮かんでくる。ダメだ、これじゃただの危ない奴じゃないか。僕は危険な妄想を頭の中で振り払った。


「じゃあ、近くのマックに来てくれ。それならいいだろ?」


「ああ、あんまりにも汗だくだから少し風呂入ってからな」


「わかった、待ってる」


 僕は環と約束し、そのまま風呂場へと向かう。──それにしても、環の奴何の用なんだ?


 環の様子がおかしかったことに首を傾げながら、僕は服を脱ぎ始めたのだった。


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