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百魔の主  作者: 葵大和
第十五幕 【天に掲げよ、その名の意味を】(第四部)
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242話 「赤き星と黒き世界蛇」

「ぐっ……‼」


 直撃。

 フランダーの体にかかった荷重は、並みの人間であれば瞬きのうちに圧潰(あっかい)してしまうような殺人的な力だった。


 ――体がもたない……‼


 砲撃の先端こそ〈氷魔の六枚盾〉によって遮られているが、その黒い炎の砲撃にかかっている力を受け止めきれそうにない。

 土神の三尾がアンカー代わりとなって彼方へと吹き飛ばずにはいられるが、その三尾ごとすでに数十歩ほどの距離を引きずられている。

 それに耐えるように風神の翼を羽ばたかせるが、むしろその前方への推進力と前からの圧力で自分の体の方が先につぶれてしまいそうだった。


 ――〈帝門〉を開くしかない…っ。


 フランダーは脳裏で念じる。

 タイラントのように生まれながらに肉体の強靭度の(たが)が外れているわけではない自分がこの場で生き残るには、やはり術式によってどうにかするしかない。

 〈暴神の憤怒〉による限界突破術の第三門の解放。


 ――あなたの力が僕の想像をはるかに超えていたことに、逆に感謝するべきかな。


 フランダーは自覚する。


 ――僕は、あなたよりも弱い。


 ただ、人より術式を扱うのがうまかった。

 肉体をそれで補強することはできても、生まれながらに常人の枠を超え、古代の戦場で頂点に君臨したような英雄と比べれば、人の想像できる範囲内にしか留まれない。

 だから――


「――〈三門封解〉」


 やはりその御業によって、今一時(いっとき)だけ、人の枠を超えよう。


◆◆◆


「――ほう」


 黒い炎の砲撃が天へと昇っていく。

 まっすぐに打ち出した砲撃が、おそらくフランダーの手によって軌道を逸らされた。

 それを見たフラム=ブランドは、笑みを浮かべていた。


「クルザの精神活性術でさらにもう一つの〈門〉をこじ開けたか」


 瞬間、砕け散り舞い上がった瓦礫の狭間から白い光の砲撃が走ってくる。

 ムーゼッグの術式兵団が連携してよく使うあの〈白光砲〉だ。


「いつみてもよく整った術式だな」


 フラムはそれを蠅でも払うかのように片手で弾く。


「お褒めに預かり光栄です」

()いものは良い。それを口に出すことを憚るものはなし」


 砲撃の影から黒い雷が散る。

 セレスターの術式を反転し、黒雷として纏ったフランダーが、砲撃とほぼ同じ速度で突進してきていた。


「まあ、体術に関してはまだ向上の余地はあるがな」


 眼にも止まらぬ高速の接近戦。

 常人の枠を超えた者同士の一打一打が、接触のたびに激震と力の波動を周囲にばらまく。


「セレスター‼」


 フランダーの声に呼び寄せられるように、瓦礫の山から今度は白い雷が飛んできて攻防に加わった。

 黒い雷と白い雷が眼にも止まらぬ速さで空間を舞い踊る。


「接近戦は分が悪いな」


 おそるべきは黒白(こくびゃく)の雷と化した二人の超高速近接戦をたった一人でいなし続けるフラムであったが、さすがのフラムもそこから攻勢に転じることはできなかった。

 だが――


「ハハハ、悪くない。久方ぶりに戦いの愉悦(ゆえつ)を感じる」


 フラムの体から炎のようにゆらめく赤い術素が可視化するほどの濃度で燃え上がり始める。

 その顔には笑みがあった。

 フランダーとセレスターはその笑みに背筋がゾっとした。


「いいぞ、もっと私を追い詰めてみろ……!」


 パン、と、一瞬の攻防が連続される狭間に柏手(かしわで)の音が鳴った。


「――〈日輪胎動(にちりんたいどう)〉」


 〈炎神〉による新たな術式の起動。


「くっ‼」

「ぐあッ‼」


 瞬間、フラムの体から真っ赤な炎の波動が広がり、周囲一帯を吹き飛ばす。

 さらに、


「〈天理開闢(てんりかいびゃく)の赤き星〉」


 フラムがまっすぐに天を指さした。

 そこに――


「本当にこの国を地図から消し飛ばす気ですか……‼」


 真っ赤に輝く小さな星が浮かび上がっていた。

 それはどくりどくりと心臓が脈打つように鼓動を重ね、そのたびに周囲一帯に地震のような揺れを起こしている。

 熱風に吹き飛ばされたフランダーが珍しくその声を荒げた。


「ハハハハハ‼ ()いではないか! 我こそは〈魔王〉! この星に住む万民にとっての災厄である‼」


 フラムが哄笑(こうしょう)をあげる。


「かつて一国の王というしがらみに縛られ使うあてのなかった我が術式を、今ここで試そう!」


 そして、数度の胎動を経た天の赤き星が、今まさに爆散しようとしたところで()()は来た。


◆◆◆


「やりすぎですよ、炎国の王よ。――〈星を喰らう(エストレージャ・)黒き世界蛇よ(アングイス)〉」


◆◆◆


 それは、地平線の向こうから首をもたげるように現れた。

 巨大という言葉ですら足りない、遠近感が狂った果てに見えたなにか。

 おそらくこの大地に住まうすべての生物がこの世界のどこかからそれを視界に捉え、同時に呼吸を止めただろう。

 それは、この星を破滅させる不吉なものに見えた。

 直後、世界が夜になる。

 世界に夜を呼び込んだそのなにかは、大口をあけて爆散しかけた赤い星を呑み込み、そのまま地平線の彼方へと消えていった。

 その後、まるでなにごともなかったかのように一人の女が空から降りてくる。


「……クリアか」

「お久しゅうございますね、フラム=ブランド」


 〈土神〉クリア=リリス。

 彼女は音もなく地面に着地すると、そのまま構えもせずフラムへと歩み寄る。

 そして――


「はしゃぎすぎです。少しご自重なさってください」


 その頬を軽く(はた)いた。

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