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百魔の主  作者: 葵大和
第十四幕 【世界が動き出す日】
202/267

198話 「今こそ、その名に誇りを」

 最初にその光に気づいたのはサーヴィスだった。

 夜。

 街を照らすのは街路の術式灯と天に浮かぶ無数の星々。

 しかし数秒経って、それらの光が急に霞んだ。


「え?」


 ふと空を見上げたとき、そこに天から降りそそぐ白い光を見た。

 まるで流れ星のよう。

 しかしその星は、人を傷つける形をしていた。


「ッ!」


 うち一つの白光が、こちらへ落ちてくる。


「メレ――」


 サーヴィスはいつも自分たちを助けてくれる主に、とっさに声をかけようとした。

 しかしメレアは今、気を失っている。


 ――なに考えてるんだ、サーヴィス。


 サーヴィスはとっさにメレアに助けを求めようとしてしまった自分を戒めた。


 ――お前も『魔王』だろう。


 護られるというのは心地よい。

 でも、いつまでも主に頼っていては前に進めない。


 ――今こそ、お前がなりたいと願った『護る者』になるんだ。

 

 サーヴィスは急いで仲間たちの様子を確かめる。 

 ララとカルトはそれぞれの方法でメレアを癒すのに集中している。

 リリウムも疲弊していてとても動ける状態ではなさそうだ。


 ――俺がやるしか、ない。


 ありきたりな防御術式であの光を止められるか。

 その光はかつてリンドホルム霊山で見たムーゼッグ術式兵団の〈白光砲〉に似ている。


 ――でも大きさは桁違いだ。


 おそらくあれは、『大陸を越えてやってきた』。


「落ち着けサーヴィス、考えろ」


 サーヴィスはそこで意識を切り替えた。


 ――受け止めるのではなく、相殺する。

 

「っ」


 そこでさらに白光が巨大化した。

 まるで獲物を見つけた獣のように、ぐんぐんと落ちる速度を増してくる。


「なに、あれ……」


 そのあたりで周りの仲間たちも異変に気づいたようだった。


「サ、サーヴィス!」

「わかってる!」


 ララの呼びかけに答えながら、サーヴィスは頭の中で一つの可能性を導き出した。


 ――これしかない。


「集中しろ、サーヴィス=エル=フロンティア」


 しかしこの方法は、絶対に失敗が許されない。

 失敗すればおそらく、この街が吹き飛ぶ。


「――〈クロウリー=クラウンの矛盾術式〉を使う」


 リリウムとギルバートが知の闘争の中で触れた、あの成立することがない夢の術式。


「術式、展開」


 サーヴィスはまずギルバートが自力で編み出したという〈クロウリー=クラウンの矛盾術式〉の改良型を手元に展開させた。

 一度見ただけの術式。

 しかも内容はひどく複雑。


「やれる、やってやる」


 しかしサーヴィスはそれを一片の狂いもなく再現する。


「ここを切る、次にこの図象式を繋げて――」


 さらにサーヴィスは〈術王の五指〉を使い、次々に術式を改変していった。


「落ち着け、間違えるな」


 あたりを照らす白光が強くなるたび、手元の震えが大きくなる。


「……リリウム様、あとで怒らないでくださいね」


 この時点でサーヴィスは天から落ちてくる白光の術式がメレアに勝るとも劣らない術士によって生み出されたものであることを疑わなかった。

 

 ――いったいどこから飛んできた。


 白光から飛び散る構成術式と術素の破片が、これを撃った者の常軌を逸した力を表している。


「最後に、ここを繋げれば――」


 頭上に圧倒的な威圧感を感じながらも、ようやくサーヴィスは矛盾術式の改変を終えようとしていた。

 あと一本、線を繋げれば完成する。

 しかし最後の最後で、サーヴィスの指が止まった。


 ――たしかにこれは危険な術式だ。


 あのときはここから先をリリウムに止められた。

 あとになって自分もこの術式の完成図を予測し、肝を冷やした。


 ――この術式は魔王の秘術とも少し毛色が違う。


 構成術式には美しさすら見て取れるが、一方でこの術式が生み出す結果は至極原始的なもの。

 構成と結果、どちらもが総体的に整った秘術たちとは比べるまでもない。


 ――これは炸裂したら最後、その力を後付けの術式でコントロールできるような代物ではない。


 事象を表現するという術式の基礎概念にのっとるなら、まさしくこれは破壊という事象そのものだ。


 ――だからなんの工夫もなく地上で最後の線を繋げるわけにはいかない。


「考えろよ、お前は〈術王〉だぞ」


 サーヴィスは自分に言い聞かせる。

 父親のことは好きではない。

 しかしこの力を残してくれたこと自体には感謝している。

 この力で自分は誰かを護ることができるから。


 ――母さん、見ていてくれ。


 自分は、父の子であると同時に母の子でもある。

 母は人に感謝されるような、優しく、そして優秀な術士だった。


「ここからは、俺のオリジナルだ」


 サーヴィスはクロウリー=クラウンの矛盾術式を完成させる前に、さらなる改良をその術式に加えた。

 白い光はもうアイオースの領空にその身を乗り込ませている。

 

「二秒でやれ」


 編む。

 組む。

 志向性を持たせ、あるべき姿を表現する。


「俺は、〈術王〉だ」


 そしてサーヴィスは矛盾術式の最後の線を繋げた。

 術式はやがて事象に転化する。

 サーヴィスの手の中に現れたのは――ほんの小さな光球だった。


「サーヴィス? な、なに、それ……」


 光球を見たララが、目を見開いて震えた声をあげる。

 

「悪い、今、話しかけないでくれ」


 その光球は、アイオースの全域を内から発せられるエネルギーの波動のみで揺らしていた。

 光の中では別の小さな光球が高速で回転している。

 赤と青。

 それは目にも留まらぬ速さでどんどんと回転加速していき、やがて中心へと迫っていく。


「第二術式、解放」


 そこでサーヴィスは自分で加えた術式を遅れて発動させた。

 ある一定の回転力を中の光が持ったら、その術式を手動で発動できるようにしておいた。

 サーヴィスは手のひらを天に向ける。

 小さな光の玉はすでにその圧力で周囲の家の窓を割りはじめた。


「行け」


 手のひらの光球がふわりと浮き、ゆっくりと空に打ち上げられる。

 最初はゆっくりだった飛翔は、やがて状態が安定すると一気に速度を増した。


「衝突のタイミングを間違えるな」


 サーヴィスはまだ手のひらを上に向けたまま、じっと空に昇って行く光球を眺める。

 

「まだ」


 サーヴィスがクロウリー=クラウンの矛盾術式に組み込んだのは、回転加速する内部の粒子がぶつかるタイミングを任意にする制御式。

 使った理論はさして難しいものではない。

 しかしそれを矛盾なく組み込むには術式を切り結ぶ〈術王の五指〉が必要だった。

 ゆえにこの術式はサーヴィスにしか扱えない。

 そして内容を理解し、衝突のタイミングを操作するには、この術式を頭の中で狂いなく理解していなければならなかった。


「三万二千」


 サーヴィスは光球の中で回転加速する粒子が今何回転したかを正確に測る。


「四万」


 もはやアイオースは地震に見舞われているといっても過言ではない揺れに襲われている。

 あるいは空から落ちてくる白光を見ている者なら、この揺れがその光によって起こされていると思ったかもしれない。


「五万三千」


 しかし事実は異なる。

 サーヴィスが生み出した光球こそ、天から落ちてくる白光とは比べ物にならないほどの悪魔的な破壊力を内包していた。


「七万」


 限界だ。

 これ以上力を光球内に留めておけない。


「まだ、近い」


 光球は空に昇ってはいるが、十分な高さではない。

 この高さでは街を巻きこむ可能性がある。


 ――どうにか……ここから遠隔で術式を加算するしかない……。


 だが、もし失敗すればその刺激で光球が破裂してしまうかもしれない。

 そうなればすべてが泡と消える。

 考えて、思わず指が止まった。


「大丈夫、お前ならできるよ、サーヴィス」


 そこでふと、後ろから声が聞こえた。


「お前は俺よりずっと術式の扱いがうまいんだ。だから……自分を信じろ、サーヴィス」


 メレアだった。

 いつの間に目を覚ましたのかはわからない。

 体は血にまみれたまま。

 息は絶え絶えで。

 術式を扱うどころか指一本動かせなさそうな状態で、それでもメレアは――自分を安心させるような柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「メレア様」


 サーヴィスはメレアが無事に目を覚ましたことに気づいて、思わず涙を流しそうになる。


「……これが成功したら、一つお願いごとを聞いてもらってもいいですか」


 けれどその前に、やることがある。


「お願いごと? ――いいよ、なに?」


 魔王の主。

 みなの王。

 誰にとっても等しく救世主であるその人。

 サーヴィスは年上の魔王たちを兄や姉のように思っていた。

 その中でもメレアは、特にそうだ。

 

 ――こんな兄がいたらいいなと、いつも思っていた。


「これを成功させたら、メレア様を兄って呼んでもいいですか」


 もう自分は家族の繋がりを持たない。

 でも魔王連合にいる仲間たちはみな家族のようだった。

 彼らもまた自分を弟のようにかわいがってくれたが、いざ真正面から言うとなると少し気恥ずかしくてなかなか言い出せない。


 ――俺だけ、子どもみたいだ。


 でも、本心からそう思うからこそ、今は最後のわがままを言おうと思う。

 きっとそれが、力になるから。


「――いいよ。お前の好きにするといい、サーヴィス」


 メレアは少し嬉しそうに、それでいて少し恥ずかしそうに笑っていた。

 その表情を見て、サーヴィスは決意した。


 ――絶対に、成功させる。


「第四術式加算。今ここで、遠隔的に術式を書き加えます」


 サーヴィスは〈術王の五指〉を宙に泳がせる。

 空間を隔てた術式への干渉は、はじめて行う方法だった。

 しかしこれまでの経験と極度に研ぎ澄まされた集中力が、サーヴィスに力を与える。

 サーヴィスは瞬き一つせず天に昇っている光玉を凝視し、針の穴を通すような精度で内部の術式に干渉した。


「行け」


 上へ、上へ。

 どこまでも昇り、仲間を守るために。


「――行けッ!!」


 そしてついに、サーヴィスは限界を越えて圧縮された光球を天にて炸裂させた。


 大地が震え、天が鳴く。


 アイオースの天に現れた破壊の光は、落ちてくる白光もろとも、空のすべてを食い尽くした。



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