一人きりの電車
数話前に、父の話をしたのだが。その時に出てきたA県の公園に関連する話になる。
子供の頃、読んだ少女漫画でこういった話があった。
深夜の電車、一人きりの車両で転寝をしていた主人公。ふと目が覚め、何気なく前を見ると窓に映った自分の後ろに誰かがいる。悲鳴を上げると手が伸びてきて、そのまま首を絞められた。
実体験だったか記憶はないのだが、それを読んだ私は”車両に一人きりになってはいけない”と、覚えた。
さて。
A県の都心から電車に乗って自宅へ帰る場合、例のいわくつきの駅を通過せねばならない。
一つ目は、父の友人の視力を奪った祠のある公園の駅。
二つ目は、G県最大の心霊スポットと思われる火事で全員が亡くなられた旅館が佇む駅。
どちらも、快速に乗れば停車はしない。
私はその日、一人で電車に乗っていた。駅には父と母が車で迎えに来てくれている。電車に揺られ、普通に座っていた。
やがて都心から離れると、乗車人数が減っていった。問題の駅の手前が、結構大きな駅なのでそこで大概は降りてしまう。
その日は、快速電車。ふと見渡せばその車両に私は一人きりになっていた。
『これはいけない、移動しよう』
さりげなく立ち上がり、隣の車両に移動する。一人座っていたので、安心して隅に座った。
問題の無人の駅二つを通過し、トンネルを超えると明かりが見えてくる。
私の生まれ育った街だ、到着した。
ここが終点だった、電車が停車し扉が開く。私は立ち上がり、ドアを目指した。
その時になって気が付いたのだが、一緒に乗っていた人がいない。
改札口へと急ぐ為に、前の車両に移動していたのだろうか?
いや、それはない。もしそうならばその時に一人きりになるからと私もついていくはずだ。
ならば気が付かない内に、もう降りてしまったのだろう。
改札口を目指して歩く、私が乗っていた電車が今日の最終電車だった。母と父が立って待っていた。
「お待たせ」
「一人きりだったんだね」
母がそう言ったので、私は笑った。
「そうだよ、一人で出掛けたからね」
「違う違う、電車に一人だったんだね。早く着いたからここで待っていたけど、誰も来ていないから」
そんな馬鹿な。
私は血の気が引いた、一緒に乗っていた人がいたはずだ。人がいたから私はその車両に留まったのだ。
さらに血の気が引いた。
そういえば、その人。私は男性だったか女性だったか、中年の方なのか若い方なのか、とにかく何も覚えていなかった。うつむいていたような気はするのだが、思い出せない。
……私は何を見たのだろう。何に安心したのだろう。
だから以後電車に一人で乗ることが怖くなってしまった、特に夜のあの駅近辺。





