後日談「執事喫茶は文化の極みだから」(前編)
お久しぶりです。
文化の日なので頭の良い内容を書こうと思いました。無理でした。
「それではクラスの出し物はお化け屋敷に決定しました」
クラス委員の宣言に、パチパチとやる気なさげな拍手が上がる。
多分みんなどうでもいいと思ってるんだろうな。
僕も文化祭の出し物なんてどうでもいいし……。
クラス替えから1カ月しか経ってない、ほぼ見ず知らずのクラスの人たちと何かするよりも、ありすやにゃる君たちといろいろ見て回ることの方がずっと楽しそうだ。
そんななかで、ささささんは机にぐでーと突っ伏した。
「あー、執事喫茶通らなかったかぁ!」
未練たっぷりに呟かれる彼女の言葉を聞きながら黒板を見ると、『お化け屋敷』の隣に『執事喫茶』『メイド喫茶』『合唱』『演劇』といった出し物の候補が書かれている。
何やら執事喫茶を猛烈にプッシュしたささささんによれば、高校の文化祭での定番中の定番なのだそうだ。
『このクラスには高身長イケメンがいるから、執事喫茶やるといいと思いまーす!』
『おっ! 任せろよ、この俺の筋肉執事っぷりを見せつけてやるぜ!』
『ハァ? 誰がキミのことだって言ったのさ。ハカセくんのことに決まってんだろ、自意識過剰すぎ。自分で高身長イケメンとか……。この皐月に草生い茂りて緑萌ゆるわ(笑)』
『雅やかに笑ってんじゃねーぞ、いつの時代の人間だオメー!』
『おっと、つい教養が漏れ出ちゃったかな? ふふん、ボクはどこかの筋肉バカとは違うので』
『うるせー! お前こそメイド喫茶でもやって俺に仕えろや! はいはいはーい! このクラス美少女がいるのでメイド喫茶やるといいと思いまーす!』
『ちょ……自分のカノジョを美少女とか……//// 素直すぎだろ、んー?』
『ああん? ありすサンのことに決まってんだろ、このちんちくりんが』
『ああ、そう言うと思ったよ! 帰ったらブッ潰してやるよぉ! ゲームでなぁ!』
……とまあ、にゃる君とささささんがいつものようにガルガルむきーと口喧嘩しながら出てきた候補なわけだが。
今年から同じクラスになった人たちは目を点にしていたし、去年からの同じクラスになった人たちは砂糖でも吐きそうな口元と半笑いをミックスしたような表情を浮かべていたのが印象的だった。
あれはどういう心境なんだろうか? 僕も今までよりは随分ヒトの心が読めるようになったと思うけど、まだまだわからないことは多いな。
ちなみに今は5月だ。11月に文化祭をやるところも多いそうだけど、僕たちの高校は進学校だから3年生を受験に集中させるために初夏のうちに手間のかかるイベントをやってしまう。
高校2年生になっても4人同じクラスになれて本当にありがたい。
何気なく皐月晴れの空を眺めようと窓に視線を向けると、窓際の席からじっとこっちを見つめていたありすと目が合った。
ありすがにこっと笑って小さく手を振るのを見ていると、頬の筋肉が自然に緩んでしまう。
あれ、ちょっとありすの頬が赤くなった気がする。僕のだらしない顔が恥ずかしいって思われなかっただろうか。
ありすの自慢の彼氏でいるために、僕も少しはしっかりしないとなと思う今日この頃だ。
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「はぁ……でも本当に残念だよねぇ」
僕の家のたまり場(元は応接室)に置かれた自分用のクッションに座って、ささささんはため息を吐いた。
「まだ言ってんのか、しつこすぎだろお前……」
にゃる君が呆れた顔をすると、ささささんはだってーと唇を尖らせる。
「だって見たかったんだもん、執事服着たハカセくん! ね、ありすちゃんだって見たかったでしょ?」
「うーん、そうね。ちょっと見てみたかったかもね」
ありすはそう言いながら、ティーカップを机の上に置いてにこっと微笑んだ。
……最近のありすは何だかちょっと物腰が穏やかになったような気がする。これまでよりも心に余裕が出てきたというか、ちょっと気品が出てきた感がある。
また一段と大人の女性になっていくありすに、僕は置いて行かれないかと戸惑うこともあるけども。2人きりになると子猫モードで物凄くベタベタと甘えてきたりして、安心したりもする。
相変わらず僕にとってありすの考えは読めないことばかりで、だからこそいつだって僕はありすに夢中だ。
僕がそんなことを考えていると、ささささんは何やらありすにジト目を送っていた。
「ありすちゃんの嘘つきー。ボクが執事喫茶やりたいって言ったとき、机をガタつかせてめっちゃ食いついてたじゃん」
「……しっかり見てるのね」
ありすがカーッと顔を真っ赤にして俯くのを見ながら、ささささんはやれやれと肩を竦める。
「すーぐ私興味とかないですけど? そこのバカップルとは違いますけど? みたいな顔してかっこつけるんだから」
「や、やめたげてよぉ! ありすちゃんのHPはもうゼロだよぉ!」
ちゃっかりと輪に混ざったくらげちゃんが、ささささんに縋りつくようにして止める。……いや、これ止めてるんじゃなくて煽ってるのかな。
場の空気ってやつは相変わらず僕にはさっぱりだ。
「でもお兄ちゃんの執事姿かぁ……私も見たいなー」
「でしょー? やっぱ見たいよね!」
「うんうん! キリッとしたお兄ちゃんとか見たい! ね、ありすちゃん?」
「すっごく見たい……!!」
「あー、でも今みたいな無造作ヘアで低クオリティ執事感も逆に悪くないかも?」
「わかる。いやー、くらげちゃんも通だねー」
「でもささ先輩だって、本当はにゃる先輩みたいにワイルド感ある執事も悪くないと思ってるんじゃないのー?」
「ぐうっ……!? いきなり刺してくるじゃん、くらげちゃん……!」
「えへへ、くらげには毒の一刺しがあるんでさあ……!」
「ふふっ」
女子3人は僕に執事服を着せるの着せないのできゃいきゃいと盛り上がっている。
そんな彼女たちを見ながら、にゃる君は砂糖をどっさり入れた紅茶を渋そうな顔で啜った。
「執事喫茶ねぇ……。何がいいんだか。こいつや俺に執事服を着せたところで、別に愛想も良くならねーぞ。特にハカセなんか、仏頂面で『お帰りなさいませお嬢様』って抑揚もなく呟くのが目に見えてらぁ」
むっ、そんなことはないぞ。
僕は執事文化にはちょっと詳しいのだ。
ありすやくらげちゃんがオススメしてくれた少女漫画によく出てきたからね。
そう反論しようとした矢先、ささささんははーっとため息を吐いてオーバーアクション気味に首を振った。
「わかってない! わかってないよにゃるは! それがいいの! 不愛想だからいいんだよ!」
「あ?」
「ベタベタ馴れ馴れしく愛想振りまいてくるのは解釈違い! そういうのはホストにやらせることなんだよ! 執事っていうのはもっとこう、距離感が必要なのよ!」
「きょ、距離感……?」
「そう! あくまで慇懃に丁重に! ともすればよそよそしささえ感じさせながらも、態度の端々から垣間見える主人へ向ける慕情……! それが胸キュンポイントなのよ!」
拳を握りしめて力説するささささんに、こくこくこくとありすとくらげちゃんが力強く頷く。
なるほどなぁ。少女漫画にたくさん出てくるけど、やっぱ女の子ってそういうのが好きなんだなあ。
「わ、わからねぇ……。メイド喫茶の男バージョンやっときゃいいんじゃねえのかよ」
「浅いわッ! メイド喫茶なんぞと一緒にするなッ! 男はミニスカ履いたメイドが馴れ馴れしくすりゃそれで満足だろうけど、ボクたちはそうじゃないんだよっ! もっとスピリチュアルな栄養素を吸って、ボクたちは生きてるッ!!」
「でもイケメンにお帰りなさいませお嬢様、って紳士的に扱われるだけで嬉しくねえのか?」
「それは嬉しい……! イケメンは別腹だから……!」
言い負かされるささささんを眺めながら、にゃる君はため息を吐く。
「語るに落ちてるじゃねーか……。というか、執事喫茶でそんな重たい感じ出すキャストとかいるわけねえだろ。そういうのは本職の執事に期待しろ。……いや、主人に色目使うのがデフォとか、それはそれで執事への偏見じゃねえのか? 主人のこととか全然恋愛対象に思ってない執事が普通だろ」
「それはほら、男オタクがメイドはみんな主人に惚れてる! って思ってるのと同じだから」
「男女平等にオタクの業が垣間見えたな」
「たはは……」
なんかオチがついたらしい。
正直みんなが何言ってるのかさっぱりわからなかった。
「ハカセはわからなくていいのよ」
「うんうん」
これでいいらしい。
愛する彼女と妹がそう言うのなら、理解しようとするのはやめておこう。
「はー、しかしホンット残念……」
そう言いながら、ささささんは部活用の鞄から執事服を取り出した。
「せっかく準備してきたのに」
「お前何やってんの?」
真顔のにゃる君に、「ん?」とささささんは小首を傾げた。
「いや、プレゼン用に用意してきたんだよ。折角だから企画の良さをみんなに説明したいでしょ? 時間なくてできなかったけど」
「マジか……お前マジか」
「えー、何で引いてんの? コスプレ用だから3000円で買えたよ?」
「だからといってホントにやるかどうかわからん出し物のために、小遣いから3000円で自腹切ってくるやつがいるか。いたわ。俺のカノジョだわ」
ささささんは心底残念そうにため息をつきながら、2着目を机の上に置いた。
「にゃるにも着せようと思ってたのにね」
「6000円払ってるーーーッ!?」
うーん、ささささんはすごいなあ。
高校生にとって6000円って決して安い金額じゃないと思うけど。
執事について力説してたし、よほどこだわりがあるんだろうなあ。
「アホだ! アホがいるぞ! こんなことに6000円ドブに捨てたS級のアホだ! 囲め囲め!」
「誰がアホだよ! これはボクの見据えるビジョンのための必要なアセットだよッ!! アジェンダにアグリーしてアライアンスしろッ!!」
「用語の意識は高いのに中身が意識低いわッ!」
「くっ……このプレゼンのために意識高い用語を勉強してきたのに!」
「一生使わない方がいいぞ、アホが際立つ。皆さん、このアホが将来教師を目指そうという人間です。拍手でお迎えください」
「やあやあどうもどうも」
「来たな! 未来の生徒に謝れ!」
僕にはイマイチ理解できていないのだけれど、この漫才がにゃる君とささささんにとってのイチャつきにあたるらしい。ありすとくらげちゃんが言ってたからそうなんだろう。うーん、口喧嘩したり漫才したりがイチャついてることになるなんて、ヒトの愛情表現って千差万別なんだな……。
僕なんかはありすを膝の上に載せて抱きしめてるだけで満たされてしまうけど。
むしろそれだけで3時間くらいすぐ消えてしまって、1日がもっと長ければいいのになと思わずにいられない。1日30時間くらいは抱きしめていたい。
そういえば今日はありすを抱きしめるデイリーミッションがまだ終わっていないな。
最近は1日1回はありすの体温を感じないと胸が痛くなる謎の病気にかかってしまったので、そろそろありすを抱きしめたい……。
そんな僕の発作を知る由もなく、「これが3000円かぁ……。高いのか安いのかわかんないわね」とありすは物珍しそうに執事服を手に取っている。
すると、くらげちゃんがぽんっと手を打ち鳴らした。
「あ、じゃあさ。今からお兄ちゃんとにゃる先輩にこれ着てもらおうよ!」
「「は?」」
文化の日にちなんで書き始めたら1回で終わらなかったので続きます。えへへ。




