外伝「にゃるささのクリスマス」
1週間ぶりのご無沙汰です。
にゃるささ特別編でございます。
「まったくキミってやつはさぁ、本当にとんだヘタレだよね……!」
沙希はぷりぷりと怒りながら流の手を引っ張り、クリスマスの雑踏の中を歩いていた。
どこに行くかなんて考えていない。とりあえず博士とありすとは逆の方向へと歩みを進めている。
流からクリスマスイブに一緒に遊ばないか、と言われたときは嬉しかった。
『ふーん? にゃるは一緒に過ごしたい子とかいないわけ? あっごめんごめん、訊くまでもなかったよね。仕方ないなー。ボクも別に暇ってわけじゃないんだけど。キミがどうしてもクリぼっちの孤独に耐えきれないっていうんなら、仕方なく貴重な時間を割いて付き合ってあげようかな』
そんないつもの憎まれ口を叩いたけれど、心の中ではウキウキだった。むしろ誘われなければ不機嫌になっていたかもしれない。
出会ってからかれこれ2年、博士とありすのじれったい関係を共に見守り、ときにはケンカしたり、仲直りしたりした仲だ。
休みの日には一緒に街に出てゲームで勝負したり、罰ゲームでラーメンを奢らせあったり、相手に罰ゲームで着せるコスプレ衣装を見に行ったりもした。
ちなみに世間一般ではそういう行為はデートと呼ぶ。
お互いにコミュ力が強くて顔が広いから、男女問わず友達も結構いるわけで。相手が異性と一緒に楽しく話しているのを見て、なんだか心がモヤモヤすることもあった。
流は沙希をちんちくりんとか壁とか呼び、沙希は流を非モテ筋肉だとか暑苦しすぎる歩くサウナとか呼んでからかうけども、別にこの2人はモテないわけではないのだ。沙希は間違いなく美少女のカテゴリに入るし、流のような明るくて頼り甲斐のあるコミュ強が女の子に好かれないわけがない。
単に周囲が沙希と流はとっくに付き合ってるのだと思って、遠慮してるだけの話だった。特に沙希は女子の間では困ったときの相談役だと周知されているので、横から流に手を出して彼女の機嫌を損ねるようなバカな真似は誰もしない。
だが沙希や流と親しい者たちは2人が未だに付き合っていないことを知っていて、お互いに悪態をついたり張り合ったりするのを見ては「いいからお前らとっとと告れよ」と思っていた。
要するに沙希と流も、いつの間にか傍から見ればじれったいカップルになっていたわけだ。
もちろん沙希も流も、互いを意識していないわけでない。むしろ自分の恋心にはとっくに気付いている。それでも告白に至らないのは、
(でもやっぱ自分から告るのはちょっと……。こういうのはにゃるから言わせないと負けみたいな感じあるし)
(やっぱり男として生まれたからには、一度でいいから女の子から告白されてみたいよな……。それに俺から告ると負けた感あるし)
揃って恋愛弱者の思考であった。
とはいえ、理由はそれだけではない。
(それに、にゃるはありすちゃんが好きなんだもん。ボクだって自分が可愛いって自覚はあるけどさ。ありすちゃんと比べられちゃ、ね……)
(沙希が好きなのはハカセだ。もちろんハカセにはありすサンがいるから、沙希の恋は実らないだろうけど……。フラれた女の心の隙間に割って入るような不実な行為はできねえ。そんなの漢のするこっちゃねえよ)
要するに相方が別の相手に横恋慕していることを知っているから、遠慮してしまっているのだ。
傍から見ればそんなのいいから告ればいいものを、と思ってしまうが、人間の心の機微は繊細なもの。相手を尊重しているからこそ、心のデリケートな部分に土足で踏み込むような真似はためらってしまうのだった。
そんなこんなでお互いへの恋心を自覚してからもう1年。
いつか相手が告白してくれないかなと心のどこかで期待しながら、デートを重ねる日々が続いていた。
だけど今日はクリスマスイブ。恋愛が一番盛り上がる特別な日、メディアだってこぞって恋愛を推奨しているし、ネットではこの日にデートする相手がいなければ敗者だとまで言われている日だ。
そんな日ににゃるから誘われて、沙希だって期待しないわけがない。
今日こそは2人の関係が進展するかもとドキドキしながら、とびっきりおめかししたのだ。口では「まあにゃるのためにそこまで気合入れる必要なんてないけど。まあここ一番の可愛いボクを見て喜ばせてやるのも悪くないかな」なんてひとりごと言ってたりしたけど、めちゃめちゃ本気でコーデした。
実際デートも楽しかった。
やってることはゲーセンで対戦したり、行きつけのラーメン屋でマンガ談義をしながらお腹を膨らませたり、アニメショップをぶらぶらしたり、露店のアクセサリー屋を冷やかしたりといつもとまるで変わらなかったけど、元々沙希はオタクなのでまるで問題ない。むしろ変に気取ったことするよりそっちの方が楽だ。
(やっぱコイツといると楽しいな)
今日の流は沙希のスタイルに合わせてくれていることが感じられた。
別に流だってゲームやマンガだけが趣味というわけではない。興味の幅が広いスポーツマンの流は、やろうと思えばバイクのことで数時間話すこともできるし、スポーツで汗を流すこともできる。実際沙希は流と一緒にボウリングやバッティングセンターで勝負したこともある。
でも今日の流は沙希が一番気楽に楽しめる場所に連れて行ってくれている節が感じられて、その心遣いが沙希には嬉しかったのだ。
「さ、次はどこに行くわけ?」
(ま、どこだっていいや。にゃるとならどこでも楽しいもん)
そんなことを思いながら、沙希はにっこりと流を見上げたものだ。
もっとも流は内心かなりテンパっていた。
(ま……間が持たねえ……!)
流としてはもっと気の利いたデートコースを用意したかったのだ。
なにせ今日はクリスマスイブ。ここぞとばかりにデキる男を演出して、バシッとキメたいと思っていた。ラーメン屋じゃなくてシャレオツなレストランに連れて行ってやりたかったし、ゲーセンとかじゃなくてプラネタリウム水族館みたいなキラキラしたデートスポットを案内したかった。
しかし悲しいかな、高校生の流には予算も少なく、デートスポットもレストランも予約が取れなかった。
だから仕方なく安牌としていつものゲーセンやラーメン屋、アニメショップといった、沙希がとりあえず楽しんではくれるだろう場所に連れて行ったのだ。
しかし実際に行ってみたらそれはあくまでも『いつもの』日常の延長でしかなく、盛り上がりに欠けていると流は思ってしまった。折角のクリスマスデートなのに、こんな代り映えしない場所にしか連れてこれない情けない男と思われていたら……と考えると、流は気が気でない。
(ぐおおお……! すまん、沙希……俺がふがいないばかりにこんな退屈なクリスマスデートになっちまって……!)
そんなことを思っていたところに、次はどこに行くの? と沙希が尋ねてきた。それがなんだか『ハァ……。もういつものとこばっかで飽き飽きだよ。ホンッとキミって引き出し少ないよね』と言われているようで、追い詰められた形である。
本当はものすごくリラックスして楽しんでくれているのだが。
返事に窮してさあどうしよう、と困って周囲を見渡した流。その瞳に飛び込んできたのは、雑踏の中を仲良さげに歩く博士とありすだった。
助かった!
というよりむしろ助けを求めるかのように2人に声をかけてWデートを持ちかけた流だったが……。
これが沙希の逆鱗に触れた!
(何言ってんのコイツ!?)
沙希からすればそれは絶対にありえないだろという選択肢である。
沙希はありすがどれだけクリスマスデートに勝負を賭けているか知っている。どんなコーデをすればいいのか相談を受けたし、お弁当のために練習で作った料理だって食べているのだ。
ありすと博士にはこのクリスマスデートでくっついてほしい。親友としても、好きな人の幸せを願う少女としても、うまくいきますようにと心の中で何度も祈っていた。自分たちの存在は、今日に限ってはノイズでしかない。
しかも、よりにもよってありすとWデートとはどういう了見なのか。
そんなにボクと一緒にいるのがつまらないわけ? 憧れのありすサン見てた方が楽しいってこと? ふーん、へえー? そりゃありすちゃんは美人だし、ちんちくりんのボクなんか比較にもならないけどさぁ。いくら心が広いボクといえども、クリスマスデートにそんな態度取られちゃ黙っていられないよ?
……乙女のプライドを傷付けられた沙希は、内心ブチギレていた。
そんなわけで早々に流の手を強引に引っ張って、雑踏の中をプリプリ怒りながら早足で歩いているのが今の状況なのだった。
流は一度は手を振り払って何やら博士に耳打ちしていたが、戻って来てからは何も言わず、大人しく沙希に手を引かれるままについてきている。
女の子が怒っているときはうかつなことは言わない方がいいという判断だろうか。
そんな背後を歩く流に、沙希は怒りのままにお説教する。
「にゃるは本当にさぁ。ありすちゃんとハカセ君の幸せを考えたら今日だけは邪魔しちゃいけないってわからない? いつもコミュ強ぶりを自慢してる割には肝心なところでデリカシーないよね。いくら自分がヘタレだからって、親友の邪魔するとかありえないし。クリスマスイブに部外者がずかずか割って入ってくるとか、馬に蹴られて地獄に落ちろってなもんだよ」
てこてこ。
「ホントにゃるは、だからそういうところが非モテ筋肉なんだよ。そういう配慮に欠けるところが見透かされてるから女の子にモテないんだよ。いざというときは筋肉に頼ればいいなんて脳筋思考とか暑苦しすぎるでしょ。もっとスマートにいかなきゃ。今からそんな感じじゃ、ボクはキミの将来が心配だよ」
てこてこ。
「きっとにゃるは女の子にモテなくて一生独身とか寂しい末路を辿るだろうけど、だからこそボクは今からそこを糺すべきだと思うよ。にゃるはどんな女の子が好きなのか知らないけどさ。いや言わなくていいよ、どうせありすちゃんみたいな子だろ? そりゃありすちゃんは美人だよ。頭もいいし、オシャレだし、頑張り屋さんだし、健気だし、女の子としてのグレード高いよね。ボクが男の子に産まれてたとしても付き合いたかったと思うよ。でもいくらなんでも高望みが過ぎるでしょ」
てこてこ。
「にゃるはもっと等身大の女の子を好きになった方がいいよ。自分に釣り合うようなさ。だからボクが練習に付き合ってあげてるってのに、キミときたらホンッットとんだヘタレだよね。たかだかボクくらいの女に気後れして助けを求める程度の度胸で、よくもありすちゃんに憧れてるとか言えたもんだよ。もっとにゃるは度胸を着けたほうがいいと思うな。じゃないと本番で好きな子に想いを告げられないままフェードアウトするみたいな、サビしい失恋しちゃうんだから」
てこてこと歩きながら、沙希は自分がどこを歩いてるかなんか見えていない。
ただひたすら怒りを説教という形でぶちまけながら、遠回しに流のヘタレっぷりを非難しまくっていた。怒りながらでもよく口が回る女の子だなあ。
とはいえ不満を口にしているうちに段々と頭もクールダウンしてきて、怒りも収まって来た感じである。にゃるも大人しく聞いてるようだし、まあお説教もこのくらいでいいかな……と思った沙希は、くるりと振り返った。
「ボクの話、ちゃんと聞いてた?」
「ああ、聞いてた」
そう返しながら、流はガシッと沙希の肩を掴んだ。
これまでに見たこともないような真剣な顔で、彼女の顔を見つめている。
上背があって筋肉質な流が見下ろしてくるととても迫力がある。
不意に好きな男の子からそんな態度を取られてドキッとした沙希に、流が続ける。
「好きな相手に度胸を見せろって話だな。わかった。俺はお前が好きだ」
「へっ?」
今、なんて言ったの……?
思考がフリーズした沙希が、その場に固まる。
そんな彼女の瞳をまっすぐに見つめたまま、流は告げた。
「沙希が好きだ。俺と付き合ってほしい」
何の予防線もない、ド直球火の玉ストレートな告白に沙希の方がうろたえた。
一瞬で顔が真っ赤になり、瞳にぐるぐると渦が巻く。
まさかこんな急に切り込んでくるとは思わず、あわあわとどう返そうかと混乱する。瞳を逸らしながらどうにか口にできたのは、
「でも……にゃるが好きなのはありすちゃんでしょ?」
そんな逃げの言葉だった。
(あああああ……! ボクの馬鹿! 馬鹿馬鹿、念願の告白してもらっておいて、他の女の子の名前を出す馬鹿とかいる!? 絶対ありすちゃんと比べられるじゃん! 自分からみじめな思いをしようとかホントバカだよ!!)
だけど流は首を横に振り、沙希の細い肩を掴む手に力を入れる。まるで決して逃がさないとでもいうように。
「俺が恋人になってほしいのは……沙希、お前だ」
「ぁぅ……」
「確かにありすサンは俺の憧れだ。美人だし、カッコイイし、ちょっとおっかないけど素晴らしい女性だと思う。でもな、あの人が俺の恋人になって一緒に歩いてるところなんて、まるで想像できねーんだわ」
……そこまで怖いかな?
ありすの親友をやっている沙希は、意外とポンコツで可愛いところがある子だと知っている。というか割と可愛げの塊である。
確かに中学生の頃はものすごく恐ろしかったし、殺されるのではないかと思ったこともある。一言命令すればいつでも相手を殺せると噂され、ハートの女王と呼ばれるにふさわしいおっかない女だと思っていた。
しかし今の沙希にとっては、もうありすは愛すべき友人だ。一緒に笑い合い、ふざけあい、困ったときは手を取り合って協力する相手を、怖いなんて思わない。
だけど男の子にとっては、やっぱりありすは近寄りがたい存在に感じるのかもしれない。友達として普段一緒に過ごしている流ですらも。
きっと恋人としてありすを受け止められるのは、常人とは感性がズレてて、スペックも底知れない博士みたいな男の子だけなんだろう。むしろ彼以外の男に相手が務まるなんてまったく思えない。
流は沙希に顔を近づけ、真摯な顔で言う。
「俺が恋人として一緒にいたいのはお前なんだ。お前といるとホッと安心する。お前とゲームで対戦してるとワクワクする。お前を見ているのが楽しいんだ。俺にとって等身大の女ってのは、お前なんだよ」
「……ホント、にゃるって脳筋。言いたいこと言ってるだけじゃん。そんなので女の子は口説けると思う? もっとロマンチックに言葉を選びなよ。それじゃ全然ドキドキしないし」
死ぬほどドキドキしながら、沙希は強がってみせた。
押されたら逃げるのが恋の駆け引き……などと高度なことを考えてるわけではまったくない。
(はわわわわ……! こんなの心臓破裂しちゃう……! ちょ、ちょっと待って、間合いを取らせて……!)
単に急に押されてビビってるだけであった。
何しろ催眠で陽キャにクラスチェンジしてから2年になるとはいえ、元は他人の顔色をビクビクうかがって生きていた臆病な子ネズミ系女子である。ヘタレなのは流だけではない。むしろ沙希の方がよっぽどヘタレであった。
だが流は停まらない。一度エンジンがかかれば、脳筋にブレーキはない。
そもそもヘタレぶりを沙希に指摘されての告白である。押せるところまでとにかく押す! 思ったことをド直球でぶつける、それが流という男の子なのだ。
「あのな、お前さっきから女にモテないとか散々言ってるけどよ。正直俺はモテなくていいんだ。お前にだけ好かれればそれでいい。全人類の女の中でただ一人、佐々木沙希が俺を好きになってくれるなら、もう残りの一生は他の女にモテなくても構わない。それくらいお前が欲しいんだ!」
「あ……」
胸を撃ち抜かれたのかと思った。
それくらい、沙希は衝撃を受けた。
それはまさしく、沙希が心の底から言ってほしかった言葉。
ありすと親友となってからも、沙希は心のどこかでずっとコンプレックスを抱き続けていた。いくら自分を磨いても、ありすと並んで立っていれば男は絶対にありすを選ぶだろうなと思っていた。そう諦めていた。自分が男に生まれたとしても、ありすを選ぶだろうと思っていたから。
だけど流は自分を選んでくれるという。
ありすでも数多いる他の女の子でもなく、自分だけが欲しいのだと。
胸が温かくなる。救われた、と思った。
心のどこかでその言葉を言われたくて、これまで頑張ってきたのかもしれない。
ぽろりと我知らず涙がこぼれた。
そうだ。
自分はかつて他人を妬んで陰口を言うような、誰からも嫌われる女の子だった。
そんな沙希が一番大嫌いで仕方なかったのは、他ならない自分自身だ。臆病で意気地なしで、他人を妬むことしかできないドブネズミのような自分が嫌いで嫌いで仕方なかった。こんな女の子を選ぶ男なんて現れるわけがない。自分ですら願い下げなのだから。……だけどそうでなくなるためには、どうすればいいのかがわからなかった。
自分を嫌いなまま、世の中を憎んだまま、ひとりぼっちで一生を生きていくしかないのだと諦めていた。
そんな沙希に、ある男の子が魔法をかけてくれた。
こんな自分でも、他人を助けることができて、人から好かれる素敵な女の子になれるのだと教えてくれた。他人を助けることで、自分を好きになれるようにしてくれた。
なりたかった。ドブネズミだったときから、本当はそうなりたくて仕方なかった。
自分を好きになれるような人間に生まれ変われるのなら、どんなことでもやろうと思った。いつか誰かに好きになってもらえる日が来ることを心から願った。
だから頑張ってきた。他人のいいところを探して、相談に乗り、ケンカを仲裁して、人と人の絆を結び続けてきた。
救われたかったから。
そして追いつきたかったから。魔法をかけてくれた男の子、そんな男の子に愛される太陽のような女の子、そして沙希と同じように自分を変えたいとあがいている愛すべきもう一人の男の子に。
自分を変えようとあがいているという意味で、流は沙希にとって鏡に映った自分のような等身大の存在で。溢れんばかりのコミュ力を持っているという意味では、自分にとってのお手本となるような存在で。
だけどちょっとヌケてて、負けん気が強くて勝負好きで、ちょっとオタク入ってて、だからこそ誰よりも親しみが持てる男の子で。
気が付いたら世界中の誰よりも大好きな男の子になってしまっていた。
そんな彼が、自分を選ぶと言ってくれた。
いつか誰かに好きになってもらえる女の子になりたくて頑張ってきた沙希に、世界で一番好きな男の子が自分が欲しいのだと告白してくれた。
願いは叶った。
沙希の瞳から流れ落ちる涙を見た流が、どうしたのかと慌てている。
そんな彼に、沙希はぽろぽろと涙を零しながら微笑んだ。
「いいよ。ボクが恋人になってあげる。にゃるがボクを好きでいてくれる限り、ボクがにゃるを愛してあげるよ」
「あ……」
一瞬ぽかんと口を開く流。
その顔がなんだかマヌケで、沙希はまた笑ってしまう。
「ホ、ホントか!?」
「こんな嘘言うわけないだろ」
「……沙希!!」
勢い込んだ流がぎゅーっと抱きしめにかかるのを、沙希は軽くステップを踏んでかわした。
悲しそうな顔をする流を見て、沙希はため息を吐く。
「ボクを抱き潰す気? ボクが大切なら、もっと大事に扱ってよ。宝物を扱うみたいにさ」
「おう。お前が今日から俺の宝物だからな!」
「バッ……! 馬鹿……」
どうしてそういうキザな表現を告白のときにしないのかなあ、と沙希は顔を火照らせながら内心でぼやく。
そのときにわかに周囲が明るく照らし出された。夕刻になり、クリスマスのイルミネーションが輝き始めたのだ。
お説教に夢中で歩いていた沙希と、彼女の言葉を聞きながら告白の決意を固めていた流は、そのときようやく自分たちがどこにいるのか気付いた。
「………………」
「………………」
煌々とネオンが輝き始めた、夕方のホテル街。
そのうち一軒の玄関先で、2人は抱き合うほどの至近距離で話していた。
「ち、ち、違うぞ!? 俺はその、決してやましい下心があって口説こうとか、そういうわけじゃないぞ!?」
クリスマスに彼女をホテルに連れ込もうと必死に口説いていたと思われるんじゃないかと恐れた流が、あわあわしながら両腕をバタつかせて弁解する。
その仕草を見た沙希は、なんだかおかしくなって笑ってしまった。
こんな童貞臭いムーブしといて、本当にエロいことしたいだけだったら逆にすごいでしょ。
沙希はホテルのネオン看板を見ながら、クスッと笑いかける。
「寄ってく?」
後編は書いてみたけどイマイチだったので没にしました。




