第40話「屋台のたこ焼きを一番おいしく食べる方法」
「じゃあ花火までちょっと屋台見て回ろうよ」
「そうだな、腹減ったし」
ささささんとにゃる君の提案に乗って、屋台巡りをすることになった。
ちなみに全員ちゃんと晩御飯は食べてきている。しかし高校生の食欲は無限なのだ。いくらでも入ってしまう。
僕にはいまいちその感覚が理解できていなかったが、最近催眠中に運動するようになってよくわかるようになった。とにかく腹が減ってたまらない。
最初のうちは胃袋に異空間への穴が空いたのかと思うほどだった。運動の消費カロリーとまだ終わらない成長期が連れ立って、胃袋にもっと食い物を入れろと囁いてくる。
催眠中に顔に怪我をした頃から、そこまで空腹に苛まれることもなくなったが。きっと環境の変化に慣れたんだろうな。
「じゃあ行くわよ、ハカセ。はぐれないでね」
ありすが僕の手を握ってきたので、僕は素直にその手を握り返した。
何せ人が多いので、はぐれてしまいやすい。ありすはとても可愛いので人ごみの中で痴漢される可能性もある。そうなれば腸が煮えくり返るほど腹が立つのは必至なので、僕がしっかりエスコートしなくては。
どうもありすからは、僕が迷子になりそうと思われている気もするが……。
僕とありすが手をつなぐのを見たささささんは、ふむと頷きながらにゃる君に手を差し出した。
「ほれ」
「いや、なんだよその手は」
「握っていいよ? にゃるって迷子になりやすそうだし」
「俺をなんだと思ってんだお前……」
「んー、図体のデカイ幼児かなぁ。見た目の割に好奇心旺盛で、お菓子をくれた悪いおじさんにほいほいついていきそうなイメージあるよね」
「ねえよッ!?」
僕から見るとにゃる君は頼りになるお兄さんって感じなんだけどなあ。
ささささんにとっては別の見え方をしているようだ。興味深い。
そんなこんなでぶらぶらと4人で連れ立って、人ごみの中を歩いていく。
「ありす、何が食べたい?」
「うーん……たこ焼きの気分かな」
「たこ焼きね。わかった、じゃああっちに……」
「あーーーっ!!」
ありすと行き先を決めていたら、ささささんが突然大声を上げた。なんだなんだ。
ささささんが指さす方を見ると、にゃる君の浴衣が人ごみに揉まれながらフラフラと遠ざかっていく。
『電球ソーダ』という看板が書かれた屋台に吸い込まれるように向かっているようだ。へえー、電球型の器にジュースが入ってるのかな?
「あんの幼児ーーー!! だからはぐれるなって言ったばかりだろぉ!!」
ささささんはプリプリと怒りながら、にゃる君の背中を追っていく。
僕たちも後に続こうとしたら、ささささんは振り返って「ついてこなくていいから!」と叫んだ。
「あいつ興味があるものができたら、ボクを置いてすぐフラフラ見に行くんだ! 連れ戻してくるから、先にたこ焼き買って食べてて!」
「わかった」
「ボクを置いて、ねえ。ふーん……結構2人きりでデートしてるんだ」
「で、デートとかじゃないから……!」
ありすの言葉に赤くなった顔を隠すように、ささささんは人ごみの中を走っていく。小柄な体格で、ちょろちょろと人の隙間を縫っていってるようだ。器用だなあ。
そうか、2人はよくデートしてるのか。なるほど。…………。
「……え? にゃる君とささささんって付き合ってたの?」
僕は目を丸くした。確かによく2人でゲームしてるという話は聞いていたが、いつの間にそんなことになってたんだ?
「ううん、まだ付き合ってないと思うわよ? 多分恋人未満って感じじゃないかな」
「そうなんだ。ありすは何で知ってるの? ささささんから聞いた?」
「聞いてないわよ。でも女のカンでわかるの、そういうのって」
「へえー」
女の子ってコイバナ好きだもんなあ。
ありすは中2までそんなことはなかったのだが、ささささんとつるむようになってからは2人で盛り上がってるのをよく見る。ささささんは高校だと女子グループ渡り歩いて噂を集めてるくらいだし、相当コイバナが好きなんだろうなあ。
そんなことを思いながらありすと連れ立って、たこ焼きの屋台にたどり着く。
んー……たこ焼きかぁ。
視線を横に向けると、隣には焼きそばの屋台が出ていた。うん、いいな。
「焼きそばが食べたくなってきた」
「いいわよ、じゃあハカセは焼きそばの方に並んで。私たこ焼きね。新谷君と沙希の分も買わなきゃ」
たこ焼きと焼きそばの屋台にそれぞれ手分けして並び、ブツを買い求める。
ありすは分担作業になると、いつも自分は何をすると名乗り出てくれる。おかげで作業が非常にスムーズに進むのだ。効率が良いことはとても好ましい。
さて、品物は入手したがにゃる君とささささんはまだ帰ってこないな……。
「先に食べちゃおうか」
「そうね。冷めるともったいないもんね」
屋台が並ぶ一角にベンチがたくさん並べられたスペースがあったので、そこに2人で腰かける。フードコートのイートインスペースのように、ここで買ったものを食べられるようだ。
僕はたこ焼きのパックを開けると、爪楊枝をさっと抜いて、自分の袖の中に投げ込んだ。
そして焼きそばのパックについていた割り箸をたこ焼きの上に置く。
これでよし。
「いつもありがと」
「うん」
ありすの言葉に頷きかけて、ちょっと考えた。
できたてほやほやのたこ焼きは、熱そうな湯気をあげている。このまま食べると口の中をヤケドしそうだな……。
それにもしありすが手を滑らせたら、きれいな浴衣がソースで汚れてしまう。
じゃあこうしよう。
僕はありすが手に取るよりも早く割り箸に手を伸ばすと、たこ焼きをつまみあげてフーフーと息を吹きかけた。
「えっ……」
ほどよく冷まさないとな。
湯気が出なくなったのを確認してから、僕はたこ焼きをありすの口元に持っていった。僕がしっかりたこ焼きを持って食べさせてあげれば、ありすの浴衣が汚れることもない。これは冴えたアイデアだぞ。
「はい、ありす。あーん」
「ええ……と」
ありすは何やら上目遣いになって、たこ焼きと僕の顔を交互に見ている。
どうしたんだろう?
何やら耳が真っ赤になっている。熱射病じゃないよな……。
少し心配していると、ありすは意を決したように目を閉じ、差し出されたたこ焼きをかぷっと口に収めた。
目を閉じたままもぐもぐとたこ焼きを咀嚼しているありすの様子に、思わず口の中で笑いが漏れる。なんか雛鳥みたいだな。
続けてもう1個食べるかな? と次のたこ焼きをつまもうとした矢先、すごい勢いでありすが僕から箸を奪い取った。
僕があっけに取られている間に、ありすはつまみあげたたこ焼きにフーフーと息を吹きかける。
そしてずいっと僕の鼻先にたこ焼きを突き付けてきた。
「あーん」
「……えっと……」
「ア、アンタも食べなさい。私ばっかり恥ずかしい真似させないでよね」
いや、僕は別に浴衣が汚れても気にしないのだが……。
しかしありすがむーと口をとがらせて僕の顔を見つめているので、なんだか食べないといけないような気分になってきた。
……な、なんだ!? なんか急にすごく恥ずかしいことをしてる気分になってきたぞ……!? クソッ、顔が熱い! どういうことだ!
こうなれば……一息にたこ焼きを食べて、恥ずかしい気分になるこの謎の現象から逃れるのが最善というものだろう。
僕は意を決して、ありすが差し出したたこ焼きを口に収める。
もぐもぐ……。
「おいしい?」
嬉しそうにニコッと笑うありすの顔を見ると、僕はなんだかますます恥ずかしい気分になってきた。居ても立っても居られない。
ありすめ……! よくも僕に恥ずかしい思いをさせたな。仕返ししなければ!
僕はありすの問いにうんと頷き、彼女の手から箸を取り返す。
そしてたこ焼きをつまみ上げると、再びフーフーと息を吹きかけた。
さあ、くらえっ!
「あーん」
「あ、あーん……」
……あれ? こんなことするくらいなら、普通に自分でつまんで食べればよかったんじゃないのか?
そんな当たり前のことに気付いたのは、1パックを交互に食べさせ終わってからのことだった。
ありすはハンカチで自分の口元についたソースを拭いてから、裏返して僕の口元も拭いてくれる。
屋台の赤い光の加減か、その紅に染まった顔はいつもよりもなんだか艶めかしい。くそっ、見つめているとどうにかなりそうだ。
そんな僕のドキドキを知る由もなく、ありすは自分の胸元に持っていたハンカチを両手で握って、照れたように微笑んだ。
「ごちそうさまでした」
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