第27話「にゃる君専属応援団・さささちゃん推参!」
「Go!にゃる Go! ごーごーれっつごーにゃ~るっ!!」
チアガール姿のささささんが、ポンポンを持って柔道場を飛び跳ねている。
他にチアガールはひとりもいない、単身チアリーディングであり、エールを送る相手もにゃる君ただひとり。
応援する側される側、共にたったひとりの異様な光景であった。
「にゃるにゃるれっつごー! フレフレにゃ~るっ!!」
ささささんはヤケクソ気味に声を張り上げ、自作の応援歌を歌いつつミニスカートをはためかせて応援を続けている。
柔道部のむくつけき男たちがおおっと声を上げて身を乗り出すのを、にゃる君はなにやら顔を赤らめながら睨んでいた。
にゃる君の向かいに立つ上級生の男子は、ギギギと歯噛みしている。
「新谷ィ……! てめえ1年のくせに選抜試合に彼女連れて来るとはいい度胸だなオイィ……!!」
「あ、いえ、彼女じゃないッス。ただの友達ですんで」
「ウソつけやぁ! 個人のためにチアガールするような友達がいるわけねーだろぉ!! こちとらチア部に一度も応援に来てもらったことねぇんだぞ、むさくるしいだの汗臭いだの言われてよぉ!!」
「そりゃ先輩たちの問題だと思うんスけど……」
「うるせえッ! 柔道部に彼女がいるような軟弱者はいらねぇんだよッ! 性根叩き直したらあああああッ!!」
頭に血が昇った先輩男子は凄まじい勢いでにゃる君に掴みかかるが、そこからのにゃる君の瞬発力はその上を行っていた。目にも留まらぬ速度で襟を掴み、相手の勢いを乗せたまま軸足に蹴りを叩き込んだ。
相手は一瞬踏みとどまろうとするが、自分の余勢をそのまま投げの威力に変換され、スパン! といい音を立ててにゃる君の大外刈りが決まる。
「一本! 1年、新谷!」
文句のつけようのない鮮やかな決着に、審判がにゃる君の勝利を宣言した。
「いいぞ! いいぞ! にゃる~~!!!」
腰をフリフリさせて踊るささささんが、にゃる君の勝利に歓声を上げる。
先ほど投げられた先輩男子が、ギラリと鋭い視線をささささんに向けた。
「新谷ィ! 彼女ちょっと黙らせろ、気が散る!!」
「だから彼女じゃないんですが! 沙希、お前マジでちょっと黙れよ!? なんか変な誤解されてんだけどさあ!!」
「はぁ? にゃるがやれって言ったんでしょ! 嫌がるボクに無理やり、こんな恥ずかしいカッコさせて! この鬼畜! 人でなし! スケベ!」
「……いいから黙って! お願い!! 先輩たちの目が怖いから!!」
ギロリと睨みつける先輩たちの視線に身震いしながら、にゃる君が懇願した。
今日はささささんやありすと一緒に、にゃる君が入部した柔道部の選抜予選を応援に来ている。ささささんがひとりチアリーディングという気の触れた真似をしているのは、例によってゲーム勝負でにゃる君に負けたためであった。
チア部からコスチュームを借りてきたささささんは、自作の応援歌とダンスでにゃる君の試合を応援するという罰ゲームを遂行させられている。しかし柔道部というのはなかなかモテない集団らしく、そこに女子の応援を受けてやってきたにゃる君は見事に浮いてしまっていた。
「……ああ言ってるし、チアリーディングじゃなくて普通に応援すればいいんじゃない?」
「んー、ハカセ君がそう言うのなら」
「じゃあみんなで応援するわよ。ほら、ハカセも」
「あ、僕も?」
「当然でしょ、何しに来たのよ」
ありすに言われ、僕は手でメガホンを作った。
「いくわよっ、せーのっ」
「「「頑張れ~!!」」」
3人で声を張り上げて、にゃる君にエールを送る。
その声援に、試合を見届けている柔道部男子たちが何やらギリギリと歯を噛みしめた。
「新谷の野郎、美少女2人に応援されてよぉ……!!」
「彼女だけじゃなくて、学校一の美人と噂の天幡まで連れて来るとは……!」
「許せんッ……! 俺たちと同じ筋肉ダルマのくせに、何だこのモテの差は……! 神は何故かくも不平等に人間を作りたもうたのか……!?」
僕もいるんだけどなあ。彼らの目にはありすとささささんしか目に入ってないようだ。まあ高校に入ってありすもささささんも、一段と美人になったから仕方ないか。
おっ、にゃる君と先輩男子の試合がまた始まるようだ。3本勝負だから2本先取で勝ちということだが。
すぱーーん!!
「一本! 1年、新谷!! 選抜予選突破!!」
にゃる君がまたしても先輩男子を投げ飛ばし、勝利をもぎ取った。
「やったやった、にゃる君が勝ったわよ!」
「いえーい! やるじゃん!! まッ、ボクがここまで応援してやったんだから当然だけど!!」
「おめでとう、にゃる君」
ありすとささささんは飛び跳ねながらハイタッチして、にゃる君の勝利を祝っている。僕はその横でパチパチと拍手を送った。
対戦相手に一礼し終えたにゃる君は、そんな僕たちにニカッと笑って応えたのだった。
僕たち4人が高校に入学して、もう2カ月が経った。
僕は相変わらず、暇があればタブレットで読書する日々を過ごしている。
一方にゃる君は賑やかな三枚目キャラであちこちの男子グループに顔を出し、陽キャ・陰キャを問わず仲良くなっていた。陽キャ特有のハイテンションなノリの会話にもついていけるし、興味の幅が広くマンガやゲームが好きという一面でオタクたちとも話題を共有する。陽キャとも陰キャともうまく付き合える、真のコミュ強と呼べるだろう。
柔道部にも入部し、まだ1年というのに高い実力を示している。
ささささんもポジティブ思考と押しの強いキャラで、さまざまな女子グループと付き合っている。あちこちのグループから仕入れた噂話を他のグループに教える情報屋のような立ち回りをしているが、決して他人を傷つけるような悪口は言わないし、他人の弱みになるような情報も漏らさない。その一線を守るスタンスが各グループの女子から信頼され、悩みを相談されることも多いようだ。
そしてありすはと言えば、さらに成熟を増した美貌と文武両道な才能、そして謎のカリスマから早くも多くの生徒の注目を集めている。1年生のみならず上級生にもその噂は届き、ものすごい数の告白を受けたがすべて断ったということだ。
しかし、中学生の頃と違って多くの生徒を従える女王様ムーブはしなくなっていた。少なくとも取り巻きを引きつれて行列を作るようなことはしていない。
もしかしたら、僕と入学式で交わしたあのやりとりのせいだろうか。
「ありす、高校でも女王様みたいに振る舞うの?」
僕がそう言うと、ありすは首を横に振りながらうんざりとした顔をしたのだった。
「もうあんなのこりごりよ、絶対にしないわ」
あれ、と僕は意外に思った。生来の女王気質のありすがこんなことを言うとは。
「本当に? 他人を土下座させるのってすっごく気持ちいいわ、オホホ! とか言わないの?」
「アンタ私を何だと思って……いえ、そういうことをしたのよね、私……」
ありすはそう呟いて、何やらしゅんと肩を落とした。
あれ、なんか思ってた反応と違うぞ。
僕としてはあのときのように高慢に振る舞ってくれた方が、復讐心が燃えたぎって研究が捗ってありがたいのだが。
「あのときのことは、本当にごめんなさい。私、調子に乗って……あんなことになるなんて思ってなくて……」
「謝らなくていいよ」
僕は小さくなって俯くありすに囁いた。
頼むから謝らないでくれ。
謝られたら復讐心がなくなっちゃうだろ! もっと僕をやる気にしてほしい。
「ハカセ……でも……」
「泣くなよ、おろしたての制服を涙で汚す気か? もっと強気の、いつも通りのありすでいてくれよ。謝罪なんてされるより、そっちの方が僕は嬉しいんだ」
「……うん!」
ありすは涙がうっすらと光る瞳をたわめ、ニコッと微笑んだのだった。
……満開の桜の下で微笑むありすの笑顔は、本当に綺麗で心に残ったなあ。
まあ、あのやりとりは別に関係ないか。単にありすも大人になったというだけのことなのかもしれないな。
中学時代とは打って変わって控えめな態度をとるようになったありすは、今度は高嶺の花とか神秘的な美少女とか呼ばれているようだ。元華族の深窓の令嬢とか英国王室の遠縁なんて噂も立ってるとにゃる君が教えてくれた。
いくらなんでも盛りすぎだろ。
そんなわけでありす、にゃる君、ささささんは間違いなく1年生でも屈指のトップカーストで、多くの生徒に影響力がある存在なのだが、気付けば3人とも僕の近くに戻ってきてのんびりと4人組を作っている。
むしろトップカースト3人組の中に何故か場違いなぼっち陰キャが混ざっているわけで、こいつは一体なんなのと逆に話題になってるよとささささんが笑っていた。
180センチの身長しか特徴もなく、誰とも交流せずにいつも教室の一番後ろの席で本を読んでいるガリガリのっぽ。言われてみれば不気味な存在だよなあ。
ある日の帰り道、僕がそう言うと3人は小さくため息を吐いたり、ケラケラ笑ったり、思い思いの反応をした。
「まったく世の中、見る目がない奴ばかりだよな。俺みたいな外面だけの男よりもよほど大したヤツだってのに。もっと内面を見ろよ内面を!」
「あの子たち、もしハカセくんがあの『ワンだふるわーるど』の作者だって知ったらどんな顔するんだろーねぇ。今や世界中で爆発的大人気! SNS連動機能で愛犬自慢するのが一大ムーブメントになって、ずっとSNSトレンド上位を占拠し続けてる超ヒットアプリだよ? 手のひらクルックルだろーなー」
「……私はハカセが人気者になんかならなくていいと思うけど」
ありすの言葉に、にゃる君とささささんはいやいやと首を振った。
「その気持ちはわかる、わかるよ。俺らだって独占したい気持ちはあるけど……そりゃダメだろありすサン」
「そうだよ。ハカセくんは今は正体を隠したとしても、いずれ絶対に有名になっちゃうんだもん。その日の心の準備をするためにも、応援してあげなきゃ。ありすちゃんだって、ハカセくんが認められたら嬉しいでしょ?」
「嬉しいよ、嬉しいけど……。うう~、ジレンマぁ……」
真新しいスカートの裾をぎゅっと掴むありすを、ささささんはそっと抱擁してよしよしと軽く頭を撫でた。
この3人も仲良くなったなあ。
当初はにゃる君とささささんに軽く邪魔者を見るような目を向けていたありすも、いつの間にかにゃる君の試合を応援したり、ささささんと並んで座りながらおしゃべりするようになった。
……もしかしたら、ありすにとっても対等な友達というのは僕以外ではこの2人が初めてだったのかもしれない。
できればこの関係が長く続いてほしいものだ。
そんな気持ちを込めて僕は言った。
「よくわからないけど、何があっても僕はみんなと一緒にいるよ? 何か僕らが離れ離れになるようなことがあっても、僕が必ず排除するし。だから心配いらないよ」
僕は絶対に大事な被検者から離れるわけにはいかないのだ。
彼らにありすが心を許しているというのなら、なおのこと。
その言葉を聞いたにゃる君たちは、はぁーとため息を吐いた。
「張本人がこんなこと言うんだもんなぁ……」
「でもやっぱ安心するよね。どんだけ成功しても、お金持ちになっても、ハカセくんはハカセくんのままって確信したもん」
「アンタって本当にもうちょっと……いや、まあいっか。それもまたいいところなのよね、本人はこれっぽっちも自覚ないだろうけど」
そう言って、3人はふふっと笑い合った。
「ありすちゃん、これからはボクたちがいるかんね。もう1人で背負わなくていいよ」
「任せてくれよ。俺も情報集めて、こいつを守るからな」
「うん、頼りにしてる。3人で頑張ろうね」
……あれ? なんか僕を仲間外れにしようとしてる?
うーん……。誰に無視されても僕は傷ついたりしないけど、なんかこの3人にハブられるのは……ちょっと心がざわっとするな。
「何かするんなら僕も力になるよ?」
僕がそう申し出ると、3人は目を丸くして一斉に吹き出した。
うーむ、何かみんなのツボに入ったことを言ったのかな。
相変わらず僕は彼らが何を笑ってるのかよくわからなかったが、3人が仲良くしているのならそれが何よりだろう。
そして、それから数日後。
真剣な顔をしたにゃる君が僕に告げた。
「ヤバいことになった。お前の妹が狙われてる……!」
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