第20話「勉強会とはうちで遊ぼうという意味である」
本日2話投稿! 1話目です。
今日の2話分はまったり日常回。
「水臭いこと言うなよ、ハカセ! 俺が警察官になる夢を叶えるところを間近で見てもらわなきゃいけないからな! どこだろうとついて行くに決まってるだろ!」
「もちろんアタシも一緒だよ! せっかく仲良くなれたのに、1年ちょっとで別れ別れになっちゃうなんて悲しいもんね!」
「2人とも……!」
ニコッと笑いながら僕と同じ高校を目指すと言ってくれる2人に、僕は何かが心の奥底から湧き上がってくるような不思議な気分になった。
「それで、どこの高校行くんだ?」
「芳華高校」
「「えっ」」
まだどこに行くとも言ってないのに安請け合いした2人は言葉を詰まらせた。
「芳華って……あの県内で一番全国偏差値高い芳華……?」
「うん。ありすがそこに行きたいっていうから」
「あそこって普通科あったっけ? あるよね?」
「ないよ。偏差値65だよ」
「オゥ……ジーザス……」
にゃる君とささささんは口元を引きつらせている。やはり無理があっただろうか。
「やっぱ無理……かな?」
僕が上目遣いに言うと、にゃる君はぐぐっと胸を反らせた。
「バッキャロー、男が一度口にしたことをひっくり返せるか! 見てろ、偏差値47からの逆転劇を見せたるわい!!」
おっ、にゃる君はやる気だぞ。やったぜ。
ささささんはちょっと困っている様子だが。
「ささささんは来ない?」
「う、うーん……。ちょっと目標が高すぎるかも」
「そっか……そうだね」
なんか金持ちのお嫁さんになるのが夢なんだっけ。
そんな平穏な日常を望む彼女には、わざわざ苦労する必要を感じないのだろう。
「進学校に行けば将来お金持ちになる有望な男と学生時代から恋仲になったり、コネを作ったりできると思ったんだけどな」
「うっ……!?」
「進学校なら風紀もいいだろうからいじめグループがはびこってることもないだろうし、のびのび過ごせるとも思ったんだけど」
「ううっ……!!」
「でもささささんが無理だって言うのなら仕方ないよね」
「待って! やっぱりアタシも行くから!!」
おや? ささささんが何やら燃えている……。
一体このわずかな時間にどんな心変わりがあったんだ?
「アタシは悟った! 若い頃の苦労なしで掴める理想はないと……! 幸せな将来のために、アタシも頑張る!!」
「えっ、こいつなんかすげー邪悪な理想抱いてない?」
なんかにゃる君がささささんからじりじりと遠ざかりながら呟いている。
まあ別に将来の夢を変えたりしてないから仕方ないね。にゃる君は将来あまりお金持ちになりそうにないから大丈夫、無害だよ。
「じゃあとりあえず……勉強会でもやってみる?」
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その週の土曜日の昼下がり、早速2人を僕の家に呼ぶことにした。
そういえばにゃる君がうちに来るのは初めてだっけ。去年の夏休みに僕の家で遊ぼうって話もあったけど、結局実現しなかったんだよな。
「お邪魔しまーす」
「お、お邪魔しまーす……」
にゃる君が乱雑に玄関先に靴を脱ぎ捨て、ささささんが散らばった靴を丁寧に置き直している。
ささささんって意外と礼儀には細かいんだな。外見がちょっとギャルっぽくなっているので、少しギャップがあった。
「……えっ!? 誰!?」
1階の奥からバタバタとくらげちゃんが出てきて、目を丸くした。
「誰って、僕の友達だよ。これから僕の部屋で勉強会するから邪魔しないでね」
「……!? 友達ッ!? お兄ちゃんに友達ッ!?」
くらげちゃんはわなわなと震えながら、にゃる君とささささんを見つめている。
「こんにちわ。ハカセの妹さん? 新谷流といいます」
「佐々木沙希です。うわぁ、ハカセ君の妹ちゃんってなんか思ったよりもオシャレでかわいいね。ハカセ君の家族ってもっとこう……無機質な感じかと思ってた」
「僕を何だと思ってるんだ」
無機質な家族ってなんだよ。メタリックに光ってるのか?
人をロボットみたいに言うんじゃない。
そんなやりとりをする僕たちを、くらげちゃんはじりっと後じさりながら震えて見ている。
「そ、そんな……ありえない……!! しかも女の子がいる……!? マ、ママー! 大変だよぉ!! お兄ちゃんが存在しないはずの友達を連れてきたー!!」
「ええっ!? ひ、ヒロくんに友達が!?」
くらげちゃんがバタバタ走りながら引っ込み、台所の方からお母さんが何やら叫ぶ声が聞こえてくる。
なんか騒がしいなあ。
「落ち着きのない家族でごめんね。さ、勉強会しよう。僕の部屋2階だよ」
「……お前の家族、俺たちと同じ目でお前を見てんだな……」
「ご家族はマトモそうで安心したわー」
僕の部屋に入った2人はきょろきょろと物珍しそうに周囲を見渡している。
そんなに興味を引くものなんてないと思うけど。
「いやー、てっきり机とパソコンしかないんじゃないかと思ったけど……。いろいろポスターとかもあるんだな。雪の結晶のリストとか虹とかオーロラとか三角州とか……なんか風景写真ばっかだけど」
雪の結晶は世界一美しい図形のひとつだと思う。形もいろいろあって飽きない。小学生の頃に雪が降ると、黒のセーターを着て外に立ち尽くし、袖に落ちた結晶を夢中で見ていた。
ほっとくとそのまま風邪をひくまでやるので、最終的にはありすが僕の手を引いて教室に連れ帰っていた。手が柔らかくて、温かったことを今も覚えている。
「へー、ゲーム機もあるんじゃん。……あああああああっ!? こ、これは『ネヌオの鍋物語』!? あの伝説のソフトが何でここに!!」
勝手に部屋の隅をごそごそしていたささささんが大声を上げた。
「……何だそれ、聞いたことないゲームだな」
「知る人ぞ知る超良ゲーだよ! 世界で一番おいしい小動物のネヌオがその肉を狙う敵から逃げて、自分をもっともおいしく料理するために伝説の食材を集めて鍋に飛び込むという3Dアクションゲーの傑作なの!!」
「なんだその猟奇的なストーリーは……!?」
えっ、そのゲームそんな話だったの?
小学生の頃何回も繰り返してやってたけど、ストーリーなんて気にしたことないから全然知らなかった。道理でエンディングにおいしそうな鍋料理が出て来るなーと思ってたが、あれ主人公の成れの果てだったのか……。
「動物愛護活動家にやり玉に挙げられて、発売後すぐに自主回収された幻のソフトなんだよ! そのゲーム性と難易度の高さからRTA大会では必ず出て来るけど、多くの人がプレイしたことのないプレミアソフトなの! アタシも動画でしか見たことない……まさかこんなところでお目にかかれるなんて!!」
パッケージを手に取ったささささんはキラキラした瞳でまくしたてている。
ささささんってゲーム好きだったんだなあ。
にゃる君はそんな彼女を、何か珍獣でも見る目で見ている。
「……お前って、もしかしてオタクに優しいギャル枠とか狙ってんの?」
「は? 狙ってねーし」
オシャレになったささささんはかなり可愛いし、なんかオタクっぽい人たちにゲームうまいのすごーいとか言ってるだけで姫扱いになりそうな気がするな。
まあそうなったら彼らの成績は落ちるだろうから、彼女のターゲットからは外れてしまうのだろうが。
ささささんはソワソワしながらパッケージを胸元に寄せ、こっちを上目遣いで見てきた。
「ね、ねえ……ちょっとだけこれで遊んでもいい?」
「おお、俺がやってみたかったゲームもあるな……」
2人はゲームが入った棚を前に動かなくなってしまった。どうやら2人とも相当なゲーム好きのようだ。僕も小学生の頃はかなりのゲームファンだったから気持ちはわかる。
僕はふうっとため息を吐き、駄々っ子のような2人に言い聞かせた。
「ダメだよ、何しに来たの? 勉強会が終わったら遊ぼうね」
「……ハカセにまともな説教をされるという斬新な屈辱を味わった!?」
この家族から何故ハカセが生まれたのかわからない?
逆に考えるんだ。
この家族に囲まれていたからこの程度で収まったと考えるんだ。
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