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99 国別対抗戦

 第3章スタートです!


 帝国が主催する国別対抗戦――


 なかなか情報が入ってこない田舎育ちの私がその存在を知ったのは、王都の魔術学院に入ってすぐのことだった。


 国の代表として戦う凄腕の魔法使いさんたち。

 たちまちその姿に、私は魅了された。


 いつかあんな風に誰かを感動させられるくらいすごい魔法使いになりたい……!


 誰にも言わず密かに胸に秘めては、毎日学院の裏庭でこそ練してたっけ。


 なかなか簡単にはできないことばかりで。

 だけど、繰り返していると少しずつ、少しずつできるようになって。


 うまくなる自分がうれしくて、もっと練習して。


 毎日がきらきらして見えたなつかしい日々。


 だけど、次第に現実が見えてくる。


 代表選手に選ばれるのは王宮魔術師団の中で際だった成果を出したほんの一握りの最精鋭だけ。


 平民出身の女性が選ばれた前例はないし、そもそも王宮魔術師団だって最難関でとても入れそうになくて。


 私には無理なんだなって思ってた。


 それでも魔法が大好きで。


 お金が少ししかもらえなくてもいい。

 自分の時間がなくてもいい。

 行きたい場所に行けなくていいし、ほしいものが買えなくてもいい。


 だから、どうか神様。

 魔法が使えるお仕事を私にください。


 そう祈ることしかできなかったあの頃。


 そんな経験をしているからこそ、とても信じられない。


 私が代表選手に選ばれたなんて……!


 後から聞いたところによると、ガウェインさんと剣聖さんが私を推薦してくれたとのこと。


 まだ一年目で何の後ろ盾もない私を推すのは相当のリスクも伴うはずで。


 それでも、選んでくれたのだ。


 こんなの、期待に応えられるよう全力で挑むしかないでしょうよ!


 待ち構えるのは各国を代表する世界最高水準の魔法使いさんたち。


 しかし、敵が強ければ強いほど燃えてくるのが私の性格である。


 目指せ世界一!


 張り切る私は、炊事洗濯掃除ゴミ捨てその他すべての家事をお母さんに頼り切る残念女子界のトップランナーとして魔法以外の一切をがんばらずに日々を生きている。


「あの方はこれのどこがいいのかしら……」


 初等学校時代と同じ部屋着(だってまだ着れるし。もったいないし)で永遠にごろごろする私に、お母さんは声をふるわせていた。


 い、いや、外ではがんばってるんだよ!


 だからこそ、人目のない家では思う存分ゆっくりしたいというか。


 そんなわけで、休日は十時間寝て二度寝とお昼寝もしている私は、しかしひとつ問題を抱えている。


 それは働くところがなくて途方に暮れていた私を拾ってくれた親友――ルークのこと。


 大迷宮での激戦のあと、初めて経験した不思議な胸の高鳴り。


 あの気持ちはいったいなんだったのか。


 豊富な専門知識を持つ七人の私によって行われる脳内学会では日々激論が交わされていたけれど、近頃ついにその謎が解明された。


 その正体は――危機感。


『おそらく、聡明な私は近い未来で彼と戦うことになることを本能的に察知していたのです』

『ルーク・ヴァルトシュタインは国別対抗戦において、間違いなく最強のライバルの一人』

『あいつにだけは絶対に負けたくないって気持ちは我々の総意ですからね』

『動悸というのはストレスから発生するものだと本に書いてありました!』

『間違いありません。原因はライバルに対する警戒心です』


 さすがは豊富な専門知識を持つ七人の脳内私と言わざるを得ない。


 負けたくないあいつとやがてぶつかることに気づいていたのだとすれば、警戒心から心臓の鳴り方が普段と違っていたのもうなずける。


 対等なライバル関係だと言いながら、なんだかんだ助けられることは多いし、実績でも残念ながら差をつけられている私だ。


 ここでぶっ倒して、一気にあいつに追いついてやろう。そうしよう。


『すごいわ、ノエルさん。ルークくん以上の天才だったなんて』

『えへへ』


 レティシアさんに褒められる自分の姿を妄想し、頬をゆるめる。


 そういうわけで、私は張り切って国別対抗戦に向けて準備を続けている。



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