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53 エピローグ1


 元気になった私は、王宮魔術師団と冒険者ギルドの事情聴取を受けることになった。


 覚えていることを正直に伝える。


 全力で巨竜の咆哮ブレスを迎え撃ったこと。

 注意を惹きながら木々の合間を走り、町から離れるよう誘導したこと。


解呪ディスペル》で隠蔽魔法を解除して、あやしい光を放つ首輪を破壊し、ドラゴンさんを元に戻してあげたこと。


 待ち時間には、ニーナともたくさんお話しした。


 別々の道を行っていた私たちだから、話したいことはたくさんあって、

 時間はあっという間に過ぎていく。


「王都に来ることがあったら絶対連絡してね」

「うん。絶対する」


 ニーナは微笑んでから言う。


「でも、悔しいなぁ。もう少し早く出会えてたらよかったのに」

「どうして?」

「ノエルと一緒に冒険がしたかったなって」


 唇をとがらせるニーナ。


「実は一緒にパーティーを組めたらいいなって思ってたんだ。先越されちゃった」

「いいじゃん! やろうよ!」


 私は前のめりになってその手をつかむ。


「いいの? 王宮魔術師の仕事で忙しいんじゃない?」

「大丈夫! うち、びっくりするくらいホワイトだから。有休も取れるし長期休暇もある。また、予定教えて。私も冒険者のライセンス取っておくよ」


 ニーナと一緒に冒険ってすごく楽しそう!

 胸の高鳴りをそのまま言葉にする私に、ニーナはにっこり笑った。


「ありがと。約束ね!」

「うん、約束!」


 笑いあう私たち。

 不意に声をかけてきたのは、一緒に事情聴取を受けていた冒険者さんだった。


「すみません、ノエルさん。ひとつお願いがあるのですが」


 なんだろう?

 首をかしげる私に、冒険者さんは言う。


「うちの実家、魔法の教室をやってるんですけど、一度講演してくれませんか?」

「講演……?」


 言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。


「いや、私は駆け出しですしそんなことできるような立場じゃ――」

「巨竜を撃退した大魔法使い様が来たらみんな絶対によろこびます。お願いします」


 真面目な顔で言う冒険者さん。

 戸惑う私の後方から割り込んできたのは別の冒険者さんだった。


「ずるいぞお前! 抜け駆けしやがって!」

「そうだぞ! 俺だって声かけたいの我慢してたのに!」

「北部の伝染病問題でも活躍されたのよね? 私の務めてる魔法薬師ギルドも一度見ていただけたらうれしいなって」

「バカ、俺が先だ! うちの魔導書店を――」


 押し合い、もみ合う冒険者さんたち。

 からかわれてるのかな、と思ったけど、どうやらそういうわけでもない様子。


 本気で私に講演やお手伝いを依頼してくれているみたいで。

 目の前の光景が信じられなくて、呆然と立ち尽くす。


『君のような出来損ないを雇っていたこちらの身にもなってほしいよ』


 初めて就職した魔道具師ギルドで全然通用しなくて、解雇されて。


『申し訳ありませんが、今回貴方の採用は見送りたいと思います』


 どこにも働かせてもらえなくて。

 誰にも必要とされてないのかなって落ち込んでいたあの頃。


 でも、今はこんなにたくさんの人が私を必要としてくれている。


 あきらめなくてよかった。

 続けててよかった。

 生きていて、よかった。


 にへら、と頬をゆるめる。


 冒険者さんたちの楽しい小競り合いを、しあわせな気持ちで眺めていた。



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