22 二人
殺到する影との戦闘は、熾烈なものになった。
何せ、あまりにも数が多すぎる。
どれだけ撃破しても再生し向かってくる影の群れ。
その上、一人一人が驚異的な個人能力を持つ一線級の相手なのだ。
ついていくだけで精一杯。
なんとか作り出した拮抗を懸命に維持する。
しかし、私たちの決定的な差となったのは、疲労の有無だった。
魔力にも集中力にも限界がある私に対し、迷宮遺物は消耗することがない。
溜まっていく疲労。
互角だった戦況が傾き始める。
絶対に近づけさせない。
そう思っていたのに、次第に押し込まれ始める。
「ぐっ」
詰まり始める距離。
無限に再生する影の群れはその勢いを増すばかり。
限界が少しずつ近づいてくるのがわかる。
耐えないと……耐えないといけないのに……。
しかし世界は残酷に、影の群れを止められないという現実を私に突きつけてくる。
ダメだ、持たない――
背後からの踏み込み。
すかさず反転し、放つ風の刃。
二人を倒すがとても追いつかない。
跳び込んできた影の群れの凶刃は、標的の女性に向け閃いて――
《轟雷閃》
瞬間、炸裂したのは視界を焼く閃光だった。
疾駆する稲妻。
大地を揺らす雷轟。
空気に混じる焼け焦げた匂い。
影の群れは跡形もなく消失している。
その圧倒的な速さと火力に、敵がたじろぐのが空気感でわかった。
誰かが私のすぐ後ろに並び立つ。
視線を向ける必要はなかった。
見なくてもわかる。
だってそこにいるそいつのことを、ずっと近くで見てきたから。
――ルーク・ヴァルトシュタイン。
その優秀さを、努力を、私は誰よりも知っている。
「ごめん、遅くなった」
「いいよ。間に合ったから許す」
学院時代ずっと一緒に競い合った親友。
背中を合わせるように立ったその姿が、本当に心強い。
「背中は預けたから。フォローして」
「了解。そっちは任せた」
二人、背中を合わせて取り囲む影と向かい合う。
《風刃の桜吹雪》
《轟雷閃》
息を合わせての連係攻撃。
炸裂する暴風と電撃。
もう近づくことさえさせなかった。
距離を維持することさえできず後退する影の群れ。
放たれる二つの魔法は、無限に生み出される影の再生速度を圧倒している。
自分の中に生まれた確信に、自然と口角が上がっていた。
――黒い影が何十体いたところで、私たち二人の方がずっと強い。
もはや勝機はないと判断したのだろう。
執事姿の犯人は影と共に身を反転させ、外へ逃げようとする。
しかし、私は知っていた。
私とルークでこれだけ時間を稼いだのだ。
あとは優秀な先輩たちがなんとかしてくれる。
瞬間、炸裂したのは業火の一閃。
「よくやった。最高の仕事だ、ノエル・スプリングフィールド」
影の群れを一瞬で蒸発させ、敵との間合いを詰めるガウェインさんと、
「あなたがいてよかった」
クールな横顔で追撃するレティシアさん。
決着がつくまでさして時間はかからなかった。
迷宮遺物が無力化され、取り押さえられた犯人の姿に私はほっと胸をなで下ろす。
「お見事。お手柄だね」
ルークが微笑む。
二人でやった最初の大きな仕事。
背中を合わせて戦った充実感。
ただの学生だった私たちは今、王宮魔術師として活躍してる。
『やってやった!』って気持ちで胸の中がいっぱいだった。
あと、一番に駆け寄ってきてくれたのはちょっとうれしかったけど。
本当は結構うれしかったけど。
でも、そんなことは照れくさいから絶対に言ってやらない。
「ルーク」
ただ、手のひらをさしだした。
目配せをすると、ルークはうなずいて軽く手を打ち合わせる。
喧噪の中で軽く響いたハイタッチの音。
それはきっと私たちにしか聞こえないくらいに小さくて、だからこそ親友って感じがして、なんだかすごくよかったんだ。






