表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/240

22 二人


 殺到する影との戦闘は、熾烈なものになった。


 何せ、あまりにも数が多すぎる。

 どれだけ撃破しても再生し向かってくる影の群れ。

 その上、一人一人が驚異的な個人能力を持つ一線級の相手なのだ。


 ついていくだけで精一杯。

 なんとか作り出した拮抗を懸命に維持する。


 しかし、私たちの決定的な差となったのは、疲労の有無だった。

 魔力にも集中力にも限界がある私に対し、迷宮遺物は消耗することがない。


 溜まっていく疲労。

 互角だった戦況が傾き始める。


 絶対に近づけさせない。


 そう思っていたのに、次第に押し込まれ始める。


「ぐっ」


 詰まり始める距離。


 無限に再生する影の群れはその勢いを増すばかり。

 限界が少しずつ近づいてくるのがわかる。


 耐えないと……耐えないといけないのに……。


 しかし世界は残酷に、影の群れを止められないという現実を私に突きつけてくる。


 ダメだ、持たない――


 背後からの踏み込み。

 すかさず反転し、放つ風の刃。

 二人を倒すがとても追いつかない。


 跳び込んできた影の群れの凶刃は、標的の女性に向け閃いて――



轟雷閃ライトニングブリッツ



 瞬間、炸裂したのは視界を焼く閃光だった。

 疾駆する稲妻。

 大地を揺らす雷轟。


 空気に混じる焼け焦げた匂い。

 影の群れは跡形もなく消失している。


 その圧倒的な速さと火力に、敵がたじろぐのが空気感でわかった。


 誰かが私のすぐ後ろに並び立つ。


 視線を向ける必要はなかった。

 見なくてもわかる。

 だってそこにいるそいつのことを、ずっと近くで見てきたから。


 ――ルーク・ヴァルトシュタイン。


 その優秀さを、努力を、私は誰よりも知っている。


「ごめん、遅くなった」

「いいよ。間に合ったから許す」


 学院時代ずっと一緒に競い合った親友。

 背中を合わせるように立ったその姿が、本当に心強い。


「背中は預けたから。フォローして」

「了解。そっちは任せた」


 二人、背中を合わせて取り囲む影と向かい合う。


風刃の桜吹雪エアレイドストーム

轟雷閃ライトニングブリッツ


 息を合わせての連係攻撃。

 炸裂する暴風と電撃。


 もう近づくことさえさせなかった。


 距離を維持することさえできず後退する影の群れ。

 放たれる二つの魔法は、無限に生み出される影の再生速度を圧倒している。


 自分の中に生まれた確信に、自然と口角が上がっていた。


 ――黒い影が何十体いたところで、私たち二人の方がずっと強い。


 もはや勝機はないと判断したのだろう。

 執事姿の犯人は影と共に身を反転させ、外へ逃げようとする。


 しかし、私は知っていた。

 私とルークでこれだけ時間を稼いだのだ。


 あとは優秀な先輩たちがなんとかしてくれる。


 瞬間、炸裂したのは業火の一閃。


「よくやった。最高の仕事だ、ノエル・スプリングフィールド」


 影の群れを一瞬で蒸発させ、敵との間合いを詰めるガウェインさんと、


「あなたがいてよかった」


 クールな横顔で追撃するレティシアさん。


 決着がつくまでさして時間はかからなかった。

 迷宮遺物が無力化され、取り押さえられた犯人の姿に私はほっと胸をなで下ろす。


「お見事。お手柄だね」


 ルークが微笑む。

 二人でやった最初の大きな仕事。

 背中を合わせて戦った充実感。


 ただの学生だった私たちは今、王宮魔術師として活躍してる。


『やってやった!』って気持ちで胸の中がいっぱいだった。


 あと、一番に駆け寄ってきてくれたのはちょっとうれしかったけど。

 本当は結構うれしかったけど。

 でも、そんなことは照れくさいから絶対に言ってやらない。


「ルーク」


 ただ、手のひらをさしだした。

 目配せをすると、ルークはうなずいて軽く手を打ち合わせる。


 喧噪の中で軽く響いたハイタッチの音。

 それはきっと私たちにしか聞こえないくらいに小さくて、だからこそ親友って感じがして、なんだかすごくよかったんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ5巻が11月12日に発売しました!】
(画像を押すとAmazon掲載ページに飛びます!)

『ブラまど』tobira

【ノベル版も6巻まで好評発売中です!】
(画像を押すとAmazon掲載ページに飛びます)

『ブラまど』カバー
― 新着の感想 ―
 異世界恋愛ですがハイファンタジーみたいなすごい魔法ですね・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ