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151 チームワーク


 精鋭揃いの会議室。

 まだ一年目の私がしたのは、無視されても当然の大それたお願いだったけど、先輩達は快く提案にうなずいてくれた。


(みんな人間ができたいい人……!)


 キャリアが浅い女性魔法使いの意見なんて、ちゃんと聞いてくれない職場も多いというのが王国の現実。


 前職だった魔道具師ギルドもそうだったし、学院の同級生からもそういう話は当たり前のように聞く。


(さすが王国屈指のホワイトな職場環境……!)


 改めて感動しつつ、先輩達と協力して作業を開始する。


「ラードナー先輩はこの部分の解析をお願いします。たしか大学時代近い分野を研究されてましたよね。ニコルズ先輩は力学的平衡状態での魔法式を検証してください。いつも五番隊でされてる検証法が効果的だと思うので」


 みなさんの得意分野を意識しつつ作業を振っていく。


(ふっふっふ。会議の前に各隊で聞き込みをして、それぞれの得意分野の情報を収集しておいたのだ)


 みなさん、各隊で結果を出している精鋭の方なので、個性や特徴を掴むのに時間はかからなかった。


 状況把握とそれに合わせた対応は私の得意技。

 人手が絶望的に少なく、混迷を極めていた前職の現場における苦労の賜物だ。


『追加発注! 新たに必要な水晶玉が七百個増えた! 今週中に納品しろ!』

『ええええええええええええ――――!?』


 あのときは仕事を回すために必死だったなぁ。

 目の前のことに追われて寝る間もなかったけど、その経験は間違いなく今の私の力になっている。


「ノエル。悪いがこの部分について資料を作って――」

「必要だと思って用意しておきました。使ってください」


「この魔法式反応について書かれた論文がほしいんだが」

「それなら、去年魔導国の研究チームが発表したものがいいと思います。要点をまとめたのでどうぞ」


「誰か、非平衡状態における魔法式反応について詳しいやつはいないか」

「必要になると思って、専門にしてる王立魔法大学の先生を呼んでいます。もう少し待ってください」


 周囲の様子を見ながら、動きを先読みして働きやすいようにサポートしていく。

 それぞれの得意分野を任せた結果、作業の進捗度は格段に向上していた。


(すごい。さすが王子殿下を救うために召集された精鋭王宮魔術師さんたち)


 思わず感動してしまう見事な働きぶり。

 何より、そんなすごい人たちを私が動かしているというのがたまらなかった。


(なんだか、巨人の肩の上に乗ってるみたいな気分)


 一人ではとても越えられない壁でも、みんなで力を合わせれば越えられる。


 充実した時間はあっという間に過ぎていく。


 一日が過ぎて。

 二日が過ぎて。

 三日が過ぎて。


 作業の進捗は私たち自身もびっくりするくらいだった。


(これなら、第三王子殿下を救うこともできるかも)


 たしかな手応え。


 しかし、私は忘れていた。

 悲劇というのは、いつも私たちの想像の上を越えてくるということを。


「お伝えしなければならないことがあります」


 前に見た隙の無い着こなしとは別人のような、よれよれのシャツと憔悴した姿。

 四番隊副隊長――クローゼさんは言った。


「第三王子殿下の容態が急変しました」


 絞り出すような声はかすれていた。


「おそらく、もうあまり時間はありません」






 立ちこめる重い空気。

 刻一刻と迫るタイムリミット。


(今のやり方じゃ間に合わない)


 おそらく、私だけじゃなく先輩達もそれを感じていて。


 しかし、何も打つ手がなかった。


 今の作業速度は、私たちにできるベストに近い。

 改善の余地があったとしても、わずかな細部の部分。


 劇的に速度を向上させるというのはまず不可能。


(何か……何か、問題の魔法式を特定するためのヒントは……)


 しかし、何も見つけることができない。

 時間だけが過ぎていく。


「スプリングフィールドさん。お話があります」


 クローゼさんが言ったのは、そんなときだった。


 ついてきて欲しいとのこと。

 なんだろう、と思いつつ後に続く。


 赤い絨毯が敷かれた廊下を歩きながら、クローゼさんは言った。


「気を引き締めてください。ビセンテ隊長の魔力に当てられる可能性がありますから」

「わ、わかりました」


 戸惑いつつ、うなずく。

 クローゼさんは王宮特別区画の奥へ進んでいく。


「どこに行くんですか?」

「第三王子殿下の私室です」


 言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。


「……どうして私が、殿下の私室に?」


 いったい何がどうなってそんな恐れ多いことになっているのか。

 恐る恐る聞いた私に、クローゼさんは言った。


「ビセンテ隊長が呼んでるので」

「………………へ?」


 私はきっと間抜けな顔をしていたのだろう。

 クローゼさんは言った。


「《救世の魔術師》ビセンテ・セラ隊長が貴方を呼んで欲しいと言ってるのですよ」





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