101 特別公開練習1
「代表選手団への同行任務ですか?」
レティシア・リゼッタストーンがそれを聞いたのは代表選手が選出されてしばらく経ってからのことだった。
「ああ。信頼できる同行者をつけておいた方がいいと判断した」
ガウェインはうなずいて続ける。
「どうにも不審な動きが多い」
「不審な動き?」
「ちびっ子新人を代表選手から外すための裏工作と根回しの痕跡。平民であるあいつの選出に王党派の一部貴族層が強く反発しているらしい」
「なるほど。既得権益と貴族特権を守りたい彼らにとって、平民出身者の活躍は危険ということですか」
平民出身者であるガウェインが聖宝級に昇格した際も大きな反発があったことをレティシアは思いだす。
中には冗談ではすまない嫌がらせも少なくなかった。
毒薬が使われたことも一度や二度ではない。
不安や苦悩。眠れない夜もあったはずだ。
しかし、ガウェインは近くにいるレティシアにも弱った姿を一切見せなかった。
弱った姿を見せれば敵対者を喜ばせることになると考えていたのだろう。
結果を出し続けて実力を認めさせた。裏で糸を引く首謀者を突き止め、逆に利用して敵の弱みとして握った。
「ああいう経験は俺だけで十分だ。協力してくれ」
自分が苦労した分、似た境遇の部下には思うところがあるのだろう。
とはいえ、身内に甘いこの人なら、そうでなくても同じ事を言っていたかもしれないが。
「わかりました。向こうの動きで何かつかめていることはありますか?」
「不審な金の流れがある。一部書簡には帝国製の筆記具が使われていた」
「帝国も関係しているというわけですか」
「その可能性は高い。連中は早速先手を打ってきた」
真剣な目でガウェインは続けた。
「――特別公開練習が決まった」
◇ ◇ ◇
「レティシアさんが同行してくれるんですか!」
それは私にとって、うれしいニュースだった。
入団当初からやさしく声をかけてくれた憧れの先輩。
練習メニューについてもお世話になってるし、魔法使いとしての私を一番見てきてくれた一人だから、大会に出る上でこんなに心強い味方はいない。
一緒に大会に出る中で、今よりもっと近い関係になれるかもしれないし。
何より、合法的に大好きかっこいい先輩成分を補給できるチャンス!
隣をくっついて歩く自分を想像して、頬をゆるめる私に、レティシアさんは言った。
「それで、ノエルさん。公開練習が決まったの」
「公開練習?」
「ええ。ノエルさんだけに特別なメニューでってことなんだけど」
「私だけに特別……!」
その言葉は私の胸をいたく打った。
ルークでもライアン先輩でもなく、私に……!
これってすごく期待されてるってことなのでは!
「任せてください! ばっちり期待に応えて見せます!」
レティシアさんが傍で見てくれるわけだし、良い結果が出せるようがんばらないと。
張り切る私は気づいていなかった。
レティシアさんが申し訳なさそうに私に伝えたその理由を――
「それでね。公開練習の内容なんだけど」
「はい。どんな内容ですか?」
「黄金級と聖銀級の王宮魔術師十人を相手に三分間凌ぎきるって内容なの」
「なるほど。黄金級と聖銀級の先輩十人ですか」
ふむふむ、とうなずいてから、
「…………へ?」
現実として受け止められず立ち尽くす。
ざわめいたのは周囲の先輩たちだった。
「なに考えてるんですか大事な最終予選前に!」
「ちびっ子新人は三番隊の宝ですよ!」
「この子のおかげで近頃他の隊の連中に大威張りできて超気持ちいいのに!」
「十対一なんてまず勝負になりません! 跡形もなく消し飛ばされますって!」
私、消し飛ぶんですか……。
跡形もないんですか……。
「どうすることもできないの。気づいたときにはもう話が進んでて」
「そんな……」
レティシアさんの言葉に、先輩たちは絶句してから私に駆け寄ってきて肩を揺らす。
「お願い! 死なないでね! せめて跡形だけは残して!」
「少しでも残ってたら俺たちが全力で蘇生させるからな!」
「頼む! もう少し! もう少しだけでいいから生き残ってお前の成績でえらぶらせてくれ……!」
ああ、死ぬんだなぁ。
突然訪れた終わりの時に白目を剥いて立ち尽くす私だった。






