マッサと、フレイオの食事
城の塔の上の大きな鐘が、カランカランカラーンと鳴って、お昼ごはんの時間が来た。
《魔女たちの城》では、広い食堂にみんなが集まって、いっしょに食事をする。
長いテーブルが、広い部屋にずらっと並んで、集まってきた魔女や魔法使いたちが、次々に席についていく。
女王であるおばあちゃんがつくテーブルは、部屋の一番奥の、床が一段高くなったところにあって、大臣たちと、マッサと、ブルーと、ガーベラ隊長と、ディールと、タータさんと、フレイオが、同じテーブルについた。
ちょうどマッサの真正面に、フレイオが座った。
彼は、マッサを見ると、ちょっと笑って、軽く頭を下げた。
マッサは、フレイオが笑ってくれたので、少しほっとしながら、同じように軽く頭を下げた。
係の人たちが、スープの入ったお皿を運んできて、マッサたちの前に置いてくれる。
今回は、豆と野菜のスープだ。
『おいしいもの! おいしいにおい、する!』
ブルーが、ふんふんとにおいを嗅ぎながら、嬉しそうに言った。
ブルーにも、ちゃんと一人分の席が用意されている。
でも、ブルーは体が小さすぎて、普通に椅子に座っただけだとテーブルの上が見えないから、椅子の上に大きな箱を置いてもらって、その上に座っている。
スープも、味付けをうすくしたり、やけどしないように冷ましたりしてもらった、特別製だ。
係の人が、フレイオの前にも、スープのお皿を置こうとした。
でも、
「ああ、私は、けっこう。」
と言って、フレイオは、スープのお皿を受け取らなかった。
(えっ?)
と、マッサは、びっくりした。
もしかして、フレイオは、豆とか、野菜が苦手なのかな?
でも、次にパンが運ばれてきたときにも、
「ああ、私は、けっこう。」
と言って、フレイオは、パンもことわった。
もしかして、フレイオは、パンも苦手なのかな!?
どうやら、ものすごく好き嫌いが多い人みたいだけど、いったい、何なら食べるんだろう……?
マッサたちがびっくりしていると、フレイオは、
「空のスープ皿を一枚。」
と注文した。
「えっ!?」
と、マッサは思わず声を出してしまった。
空っぽのお皿だけを注文する人なんて、これまで見たことがない。
もしかして、フレイオは、お皿をばりばり食べるつもりなんだろうか……?
まわりのみんなが、目を丸くしているうちに、フレイオは、自分の衣のふところから、きらきら光る、ドレッシングの入れ物くらいの大きさのびんを取り出した。
そして、運ばれてきた空っぽのお皿のなかに、びんの中身をほんの少し、垂らした。
ほんのちょっとだけピンク色がついた水みたいに見える、透明な液体だ。
「ん?」
一瞬、花束みたいないい香りが、ふわっと鼻先をかすめたような気がして、マッサは、くんくんと鼻を動かした。
ブルーも、
『きれいなにおい、する!』
と言って、ふんふんと鼻を動かした。
フレイオがお皿に垂らしたものは、香水なんだろうか?
でも、食事中にそんなことをして、どうするんだろう?
すると、フレイオは、懐から、黒い石をひとつと、小さな金属のかたまりをひとつ、取り出した。
「いったい、何がしてえんだよ……」
ディールが、あっけにとられて呟いているのが聞こえた。
マッサも、声には出さないけど、まったく同じ気持ちだ。
まさか、フレイオは、香水を飲んで、石や金属をばりばり食べるつもりなんだろうか……?
すると、フレイオは、取り出した石と金属を、両方の手に持って、お皿の上に構え、まるで楽器のシンバルを打ち合わせるみたいに、カチーンと打ち合わせた。
小さなオレンジ色の火花が、パチッとはじけた。
そうか、あれは、本で読んだことがある「火打石」というものだ!
オレンジ色の火花が、お皿のなかに落ちる。
すると、お皿の上に、ピンク色とオレンジ色のまざった炎が、ボッとともった。
同時に、花束みたいな、とってもいい香りが、あたりじゅうに広がった。
あの、香水みたいな液体の正体は、いいにおいのついた、燃える油だったんだ!
みんながびっくりしているあいだに、フレイオは、懐から、細くて長いスプーンを取り出した。
そして、誰かが何か言う前に、そのスプーンでお皿の上の炎をすくうと、ぱくっと、口に入れた。
「うーん。」
マッサたちが、おどろきすぎて口もきけずにいるあいだに、フレイオはごくんと炎を飲み込み、おいしそうに唸った。
そして、また別のびんを懐から取り出し、飲み物のグラスに油を注いで、火打ち石で火をつけた。
今度は、黄色と青色がまじった炎だ。
フレイオは、そのグラスを持ち上げると、平気で口をつけ、燃えている炎を、まるでお茶やお酒みたいに、すーっと飲んだ。
「ふう。」
と、フレイオが息をつくと、その口から、黄色と青の炎の残りが、まるでヘビの舌みたいに、ちろちろっと出て、煙になって天井にのぼっていった。




