表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/245

マッサと《炎食い》の若者

「お待ちくださいっ!!!!!!!」


 なぞの黒マントが、手袋をはめた片手を、いきなりこっちに突き出して、そう叫んだ。

 その声が、おばあちゃんの怒鳴り声の十倍くらい大きかったので、マッサたちはみんな、もうちょっとで、壁の上から吹き飛ばされそうになった。


 もちろん、ふつうの人間に、これほど大きな声が出せるはずがない。

 魔法だ。

 あの黒マントも、魔法使いなんだ!


「男の声だな。」


「声が、若いですぜ。何もんだ?」


 マッサのとなりで、隊長とディールが口々に言った。

 なぞの黒マントは、ひらりとあざやかな身ごなしで馬から飛び降りると、マッサたちのほうを見上げて、言った。


「攻撃は、控えていただきたい。私は、あなたがたの味方です。」


「しかし、わしらは、そなたのことを知らぬ。」


 おばあちゃんは、ぴしゃりと言った。


「そなたは、何者じゃ? そのフードをあげて、顔を見せるがよい!」


 すると、なぞの黒マントは、ゆっくりとうなずいて、顔を隠しているフードに手をかけた。

 マッサたちは、通路の手すりに両手をついて、食い入るように、その姿を見つめた。

 ぱさりと、そいつの背中に、フードが落ちる――


「うおっ!?」


 思わず唸ったのは、ディールだ。

 マッサは、息をのんで、そいつの姿を見つめた。


 なぞの黒マントの中身は、ものすごくきれいな顔をした若者だった。

 先に声を聞いていなかったら、きれいな女の人かと間違えてしまうような顔だ。


 でも、ディールが「うおっ!?」と言って、マッサが息をのんだのは、その人の顔がきれいだったから、ではなかった。

 その人は、顔の印象が吹っ飛んでしまうくらい、ものすごく変わった姿をしていたんだ。


 まず、長く伸ばした髪の毛が、青い。

 染めたような青さじゃなくて、まるで、ブルーの目の色みたいな、サファイアでできた糸みたいな、深く澄んだ青色だ。


 そして、目が真っ赤だった。

「目が真っ赤」というと、夜更かしをしすぎたりして、白目の部分が赤くなることみたいだけど、そういうのじゃない。

 人間の目が茶色だったり、青かったり、黒かったりするみたいに、目が赤いんだ。

 まるで、本物のルビーがはめ込んであるみたいだ。


 そして、何よりもマッサたちが驚いたのは、その顔も、髪の毛も、目も、すべてが、ぼうっと光っているということだった。

 懐中電灯ほど強い光り方ではないけど、間違いない。

 昼間の光の下でも、見間違えようがないほどはっきりと、体が、内側から光り輝いている。

 こんな不思議な姿をした人のことは、これまで旅をしてきて、見たことも、聞いたこともなかった。


「なるほど。」


 でも、おばあちゃんは、その人の正体が分かったみたいで、落ち着いてうなずいた。


「そなたは《炎食い》の一族なのじゃな。」


「その通り。」


 体が光っている、きれいな顔の若者は、女王の言葉に満足したように微笑んだ。


「私は、遠い《炎の町》で生まれた《炎食い》の一族の一人です。名を、フレイオ、と申します。以後、お見知りおきを。」


「そうか。」


 おばあちゃんは、うなずきながらも、まだ、完全には納得していない。


「では、フレイオよ。そなたは、この《魔女たちの都》に、何の用があって来た?」


 若者の微笑みが、ますます大きくなった。


「あなたがたを、お助けするために参りました。」


「なに?」


「《東の賢者》ベルンデールが、私をここへ送り出したのです。私は、賢者ベルンデールの一番弟子。私が《七人の仲間》に加わって、大魔王を倒す旅に、おともいたしましょう!」


 その言葉を聞いて、壁の上の通路に集まった魔法使いたちが、いっせいにざわめいた。


「ベルンデールの一番弟子だって!?」


「それが本当なら、あいつは、ものすごく優秀な魔法使いだわ。」


「ああ。《東の賢者》に、実力を認められたってことだからな……」


 こちらがざわざわしている様子を、フレイオという若者は、自信満々な様子で見上げている。

 その姿は堂々としていて、確かに、すごく優秀そうだ。


 でも……と、マッサは思った。

 確かに、すごく優秀そうなんだけど、――いや、きっと、実際に優秀なんだろうけど――、何だか、どことなく、つんとしていて、偉そうな人のように思える。

 まだ、ゆっくり話をしたこともないのに、こんなふうに考えるのは、よくないことかもしれないけど……


「あれっ。」


 いろいろ考えているうちに、マッサは、ふと、根本的なことが気になった。


「ねえ、おばあちゃん。おばあちゃんは、ベルンデールさんに、来てくれるようにお願いしたんだよね? それなのに、どうして、弟子の人が来たんだろう。ベルンデールさんは、別の用事か何かで、忙しかったのかな?」


「ふむ、確かにな。」


 おばあちゃんは、そう呟いた。


「フレイオよ。わしは、そなたの師匠のベルンデールを招いたはずなのじゃが。ベルンデール本人ではなく、代わりに、そなたが来たのは、どういうわけかな?」


「実は……」


 それまで自信満々だったフレイオの表情が、急に暗くなった。

 まさか、と、マッサは、嫌な予感がした。

 ベルンデールさんは、確か、百五十歳くらいのおじいさんのはずだ。

 まさか……おばあちゃんからの手紙が届いたときには、ベルンデールさんは、もう……?


「師匠は、どうしても、ここに来ることができなかったのです。」


「何じゃと? まさか……」


「はい。」


 フレイオは、暗い顔で、重々しく言った。


「師匠は今、ひどいぎっくり腰で、寝込んでおりまして。私が、代わりに来ることになったのです。」


 マッサたちは、思わず、がくーっと力が抜けて倒れそうになった。

 もしかしたら、ベルンデールさんは、もうお亡くなりになっちゃったんじゃないかと心配したのに、ぎっくり腰だったのか。


「ふん!」


 と、急に、馬鹿にするような大声をあげたのは、ディールだった。


「おどかしやがって。何かと思えば、ぎっくり腰かよっ! まったく、そんな調子じゃ、そのベルンデールってやつが、もし来てくれてたとしても、戦いの役に立ってたかどうか、怪しいもんだぜ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ