マッサと、さらに集まる仲間たち
「ええっ!?」
マッサは、驚いて叫んだ。
まさか、ブルーのお父さんとお母さんが、ブルーが旅に出ることを許してくれるなんて、思ってもみなかった。
だって、赤ちゃんの頃に別れてしまって、何年も会えなかった子供が、やっと帰ってきたんだ。
お父さんやお母さんの立場だったら、『もう二度と、どこへも行かせたくない』と、思うものじゃないだろうか?
『もちろん、私たちだって、できることなら、かわいいブループルルプシュプルーと、ずっといっしょにいたいですわ。』
ブルーのお母さんは、重々しく言った。
『でも、息子は、こう言うのです。「ともだち! なかま! やくそく! だから、マッサといっしょにいく」と……。私は、とてもさびしいけれど、同時に、とても嬉しいのです! 長く会えなかったあいだに、息子が、こんなに立派な考え方をする子に育っていたなんて。』
『ええ、大切な仲間のために、いっしょに大魔王にも立ち向かおうなどというのは、そこらの大人にも、なかなかできない考えです。実に、勇気がある! 私も、さびしいけれど、息子が決めた道を応援します。』
ブルーのお母さんとお父さんは、そう言って、うんうん、とうなずき合った。
「そうなんだ……ブルー、ほんとに、ぼくといっしょに来てくれるんだね。」
『いく!』
「ありがとう、ぼく……もう、ほんとにほんとに、めっちゃくちゃ嬉しいよ!」
マッサは、両手でブルーを高く持ち上げてから、ぎゅーっと抱きしめた。
「ブルーのお父さん、お母さん。応援してくれて、ありがとうございます!」
『きっと、無事に帰ってきてくれるって、信じていますわ。ねえ、そうよね?』
『ええ。何しろ、あの予言がありますからな。「王子と七人の仲間が、魔王を倒し、世界を救う」と――』
ブルーのお母さんとお父さんは、口々に、そう言った。
「ええ、そう。そうです……」
マッサは、言いながら、もう一度、しっかり数えてみることにした。
「『王子と、七人の仲間』。――まず、王子っていうのは、ぼく。そして、一人目の仲間が、ブルー。」
『はいっ!』
ブルーが、大きな声で返事をして、ちっちゃな手を両方ともあげた。
「そして、二人目の仲間は……」
「私ですね。」
「あっ、隊長!」
ちょうどいいタイミングでやってきたガーベラ隊長は、女王であるマッサのおばあちゃんに礼をしてから、マッサのほうに向き直った。
「今、ちょうど、女王陛下と王子を探していたのです。ちょうどよかった。七人の仲間を正式に決めるための会議ですね? もちろん、私もそこに加えていただかなくては!」
「いや、会議なんて、そんな、ちゃんとしたものじゃないけど……でも、ありがとう! 隊長は、絶対に来てくれると思ってた。」
『マッサ! ぼくは? ぼくは? ぼくは?』
「うん、もちろん、ブルーも来てくれると思ってたよ。……ほんとは、ちょっと心配だったけど、でも、絶対、来てくれると思ってた!」
「……おいおい、俺のことも、忘れてねえだろうな。」
「あっ、ディールさん!」
相変わらず、ちょっとだらしない歩き方でやってきたディールは、女王のほうに、ちょっとだらしない礼をしてから、マッサのほうに向き直った。
「隊長が行くんだから、もちろん、俺も行くぜ。ちゃんと、人数に入れとけよ。」
「うん、もちろん! ガーベラ隊長が、二人目の仲間。そして、ディールさんが、三人目の仲間……」
「ちょっと、待って! わたしも、ちゃんと、数に入ってますか!?」
「あっ、タータさん!」
長い足で、慌てて走ってきたタータさんは、四本の手を全部使って汗をぬぐうと、ふう、と大きく息をして、言った。
「わたしを、わすれてもらっては、こまりますよ。まだ、人数は、埋まってないでしょうね?」
「忘れてないですよ! それに、人数も、埋まってないですよ。タータさんは、四人目の仲間です。」
「そうですか? ああ、よかった、よかった!」
安心するタータさんの後ろから、
「王子。」
と、呼びかけてきた人がいる。
「あっ、《三日月コウモリ》隊の隊長さん!」
マッサが「あなたも、いっしょに来てくれますか?」とたずねるよりもはやく、彼は、申し訳なさそうに首を振った。
「残念ですが、私は、いっしょには行けません。悩みに悩んで、そう決めました。
ロックウォール砦には、夜の空で戦える者は少ない。私は、他の騎士たちと共に砦に戻り、あの町の皆を守ります。ここには、王子に、お別れの挨拶をするために来ました。」
「ああ、そうか……そうですね。分かりました。ここまで、ぼくを送ってくれて、本当に、ありがとうございました!」
マッサは両手をさし出して、《三日月コウモリ》隊の隊長の両手を、しっかりと握った。
「砦までの帰り道も、気をつけてください! そして、帰ったら、ガッツや、《青いゆりかごの家》のみんなや、コックさんたちや、騎士団のみなさんに、よろしく伝えてください。」
「もちろんです。王子と、共に行く皆の旅路に、守りと導きがありますように。……それでは。」
そう言い残し、深々と礼をして、《三日月コウモリ》隊の隊長は、行ってしまった。
「……四人だな。」
その背中を見送りながら、ディールが言った。
「王子と、四人の仲間だ。隊長と、俺と、タータと、もじゃもじゃで、四人。」
『もじゃもじゃじゃない! ブループルルプシュプルー!』
「……おい、なんか、長くなってねえか、名前!?」
「いや。実は……五人なんだ。」
大騒ぎしているブルーとディールを、手でおさえる仕草をしながら、マッサは言った。
「五人目の仲間は、もう決まってるんだって。」
『なかま? きまってる?』
「ほう! 誰です?」
「どんな奴だ? 強いんだろうな?」
「お名前は、何というんですか?」
「いや、ぼくも、ついさっき、おばあちゃんから聞いたところなんだけど。」
四人の仲間たちに、じっと見つめられて、マッサは、説明した。
「その人の名前は、ベルンデールさん。《東の賢者》って呼ばれてる、すっごく強い魔法使いなんだって。」
「《東の賢者》ベルンデール……ああ、確かに、その名前は聞いたことがあります!」
「俺は、知らねえな。ほんとに強いのかあ?」
隊長とディールが、口々に言う。
マッサは、心の中で、
(ベルンデールさんが、百五十才くらいのお年寄りだってことは、まだ、黙っておこう。)
と思った。
でないと、ディールが、「そんなジジイが仲間に入ったって、どうにもならねえじゃねえかよっ!」なんて、失礼なことを言い出しそうだからだ。
「おばあちゃんが、手紙で、ぼくの仲間になってくれるように、頼んでくれたんだ。今も、こっちに向かってるはずだって。」
「あっ!」
マッサのことばを聞いて、ガーベラ隊長が、いきなり、ぽん! と手を叩いた。
「それなら……あれが、その、ベルンデールさんなのかもしれません!」
「えっ、何、何?」
隊長が、急に何のことを言い始めたのか分からず、マッサは目をぱちぱちさせた。
「『あれ』って……いったい、何のこと?」
「実は、私たちが今、ここに来たのは、東の方角から、この都に近づいてくる、謎の人影のことを報告するためだったのです。」
「えっ、謎の人影?」
「ええ。まだ遠くて、正体がよく分からなかったのですが。人数は、一人。馬に乗って、東の方角から、こちらに向かって駆けてくるところです。たった一人ですが、敵か、味方か分からないので、見張りの魔法使いたちは緊張しています。」
「なるほど。……わしが行こう。」
マッサのおばあちゃんは、女王らしく、堂々と落ち着いて言った。
「わしは、若い頃、ベルンデールに会ったことがある。姿を見れば、彼かどうかは、すぐに分かる。」
「おばあちゃん、ぼくも、いっしょに行くよ!」
マッサが言うと、
『ぼくも!』
「私も行きます。」
「俺もだ!」
「わたしも、行きますよ!」
と、仲間たちも、口々に言った。
みんなそろって、大急ぎで、都の城壁に向かう。
マッサは、緊張で、胸がどきどきしてきた。
都に近づいてくる人影の正体は、本当に、《東の賢者》ベルンデールさんなんだろうか――?




