マッサと、集まる仲間たち
「えっ?」
マッサは、びっくりして、目を丸くした。
「呼んでるって……おばあちゃんが、ぼくの仲間になる人を、呼んでくれてるの?」
「ああ。」
「えっ、何人?」
「一人じゃ。」
「一人!?」
いったい、どんな人が来るんだろう。
これまで会ったこともないのに、仲良くなれるかな?
マッサは、ちょっと心配になって、きいてみた。
「その人って、男の人? 女の人?」
「男じゃよ。」
「あ、そうなんだ。……おばあちゃんの知り合いっていうことは、その人も、魔法使いなの?」
「ああ。」
「あ、やっぱり。……じゃあ、おじさん? それとも、まだ若い?」
「ふうむ。」
おばあちゃんは、あごに手を当てて、しばらく考えた。
「そうじゃな。……まあ、だいたい、百五十才くらいかのう。」
「百五十才!?」
マッサは、思わず大きな声を出してしまった。
「ちょっと、それ……大丈夫なの!? 旅をしたり、戦ったりするには、ちょっと、おじいちゃんすぎない!?」
「心配することはない。」
おばあちゃんは、自信をもって言った。
「彼は、わしよりも力の強い魔法使いで、今でも現役じゃ。
ここから遥かに遠い、東の山に住んでおってな、ときどき、魔法で生み出した鳥に手紙を持たせて、送ってくる。
今回は、わしのほうから、孫のために一緒に旅をしてくれんかと、特別に頼んだんじゃ。
何しろ、大魔王は、ものすごく強い魔法を使うからのう。こちらにも、同じくらい強い魔法使いがいなければ、やられてしまう。」
「それで……その人は、いいよって言ってくれたの?」
「ああ。『一緒に行ってもいい、すぐにそっちに向かう』と、ついこのあいだ、返事があった。今も、こちらに向かっておるところじゃろう。
……本当は、わしが一緒に行ってやりたいところじゃが、万が一、わしが、この都を留守にしているあいだに、また、大魔王の軍勢が一気に攻めてくるようなことがあったら、大変じゃからのう。」
「うん……」
ちょうど考えていたことを、先に言われてしまって、マッサは、うなずくしかなかった。
本当は、おばあちゃんが一緒に来てくれたら一番いいけど、おばあちゃんは女王なんだから、都のみんなを置いて、マッサといっしょに旅をする、なんてことは、できないんだ。
「おばあちゃん。その人、なんていう名前なの?」
「ベルンデールじゃ。人からは《東の賢者》ベルンデール、と呼ばれておる。」
「ベルンデールさんか……」
マッサは、まだ、複雑な気持ちのままで呟いた。
すごく力のある魔法使いが仲間になってくれるのは、確かに心強いけど、どっちかというと、心配な気持ちのほうが強い。
おじいさん、といえば、マッサが一番に思い浮かべるのは、マッサ自身のおじいちゃんのことだ。
ベルンデールさんは、どんなおじいちゃんなんだろう?
マッサのおじいちゃんみたいに、怖くて、厳しくて、すぐ怒るひとだったら、どうしよう?
そうだ……それに、元の世界のおじいちゃんは、今ごろ、どうしているだろう?
ちゃんと、元気にしてるんだろうか……
マッサが、難しい顔をして黙りこんでいるのを見て、おばあちゃんが、励ますように、肩を叩いてくれた。
「そう、緊張することはない。何も、ベルンデールと二人きりで旅をするわけではないのじゃから。
ほら、お前は、もう自分で、旅の仲間を見つけておるじゃろう?」
「仲間……」
マッサは呟いた。
また、ブルーのことを思い出した。
そのときだ。
『あ! マッサ!』
何だか懐かしい声が聞こえて、真っ白な、ふさふさした生き物が、だだだだだーっと走ってきて、ぴょーん! と、マッサのお腹に飛びついてきた。
「うわっ! いたたたたた!」
服の上からでも、爪を立てられると、お腹にささって、ものすごく痛い。
「もう! だめだってば、ブルー! いたたた、爪が、痛い!」
思わずそう叫んでから、マッサは、はっとした。
彼の本当の名前は、ブルーじゃない。
プルルプシュプルーっていう、お父さんとお母さんがつけた、ちゃんとした名前があるんだ……
『マッサ!』
いつものように、マッサの肩の上におさまって、彼は叫んだ。
『いつ、いく?』
「えっ?」
『なかま!』
マッサの肩の上で、彼は、大きな声で言った。
『ぼく、マッサといっしょ! おとうさんとおかあさん、いつ、いく? って、いってた! いつ、いく?』
「えっ……えっ!?」
マッサは、信じられなくて、思わず聞き返した。
「ブル……じゃなくて……きみ、ほんとに、来てくれるの!?」
『きみじゃない、ブルー! ぼく、マッサといっしょにいく!』
『……おお、いたいた、あそこだ!』
『まあ、ほんと! もう、王子さまといっしょにいるわ。』
そんなふうに言い合いながら、ブルーのお父さんとお母さんが走ってきた。
『王子さま! これからの旅のあいだ、どうぞ、私たちの息子をよろしくお願いします。』
『私たちのかわいいブループルルプシュプルーを、どうぞよろしくお願いします!』
「えっ。」
マッサは、一瞬、自分の聞き間違いかと思った。
「ブルー……プルルプシュプルー? 今、名前に、ブルーって……」
『ええ、ええ、息子から聞きました。』
ブルーのお父さんが、重々しく言った。
『自分の本当の名前も知らずにいた息子は、王子さまと会ったとき、ブルーという名前をつけていただいて、とても嬉しかったそうです。王子さまからいただいた名前も、私たちがつけた名前も、どちらも大切だと、息子がいいますので、このさい、くっつけることにしたのです。』
『ええ、そして、息子は、王子さまといっしょに行くというのです。王子さまといっしょに、大魔王をやっつける旅に出るって! なんて、勇気のある子なんでしょう!』




