マッサ、出会う
どれくらい、気絶していたのか、よく分からない。
はっ! と目を覚ましたとき、マッサは、かたくて冷たい地面の上に、たった一人で倒れていた。
頭を振りながら起き上がると、胸の《守り石》が、ぼうっと光って、あたりを照らし出した。
「うわぁ……」
と、マッサは、思わず目を見開き、声をあげた。
そこは、洞窟だった。
でも、ただの洞窟じゃない。
小学校の講堂よりも、運動場よりも、いやいや、野球場よりも、ずっとずっと大きな洞窟だ。
こっちがわの壁は見えるけど、奥のほうの壁は、見えない。
奥のほうまでは、《守り石》の光が届かなくて、真っ暗闇が広がっている。
洞窟全体が、それほどまでに大きいということだ。
光がなんとか届くところでは、高い高い壁や、天井のあちこちが、きらっ、きらっと光っている。
まるで星みたいに輝いている、あれは……ダイヤモンドかな。それとも、銀かな?
ここは、地面の下のはずなのに、まるで、どこまでも広がる星空の下に立っているみたいな気分になる。
その景色が、あまりにもきれいで、壮大で、マッサは、さっきまでの怖さをすっかり忘れてしまった。
足の下には、確かにかたい地面があるのに、まるで、宇宙に浮かんでいるみたいな気分だ。
そうやって、マッサが、きらきら光る星くずのようなきらめきに見とれていると……
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「えっ、何!?」
マッサは、自分一人しかいないと分かっているのに、思わずそんな声を出してしまった。
何だろう、この音は?
まるで地鳴りのようなその音は、最初は小さく、だんだん大きくなってくる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
とうとう、洞窟の地面や壁が、びりびり震え出した。
遥か上のほうから、細かい砂や、石のかけら、そして大きな岩までが、ぱらぱらぱら、ばらばらばら、がつーんがつーんと落ちてくる!
「うわあああああああ!」
マッサはうずくまって叫んだけど、自分で自分の叫び声が聞こえないくらい、ものすごい音が響いている。
『グオオオオオォウ!』
突然、ばぐーん!! と凄まじい音を立て、マッサから見て右側の洞窟の壁をぶち破って、ものすごく巨大な、真っ黒な何かが、唸りながら洞窟に飛び出してきた!
マッサは、叫ぶことも、息をすることさえも忘れて、それを見つめた。
それは、全身を真っ黒な鱗におおわれ、頭に、かぶとのような殻をかぶった、ものすごく巨大な蛇――
いや、違う。
これは、竜だ。ドラゴンだ。
地面の下で生きている、羽根のない、巨大なドラゴンだ!
でも、何だか、様子がおかしい。
何だか、苦しがっているみたいだ。
『グアアアアアァ!』
真っ黒なドラゴンは、熱いコンクリートの上に出てきてしまったミミズみたいに、長い体をのたうたせ、ぐるぐると結び目みたいに絡まったり、急に長い尻尾を振り回して、ばごーん! と壁を打ち砕いたりした。
そのたびに、岩が砕け、壁や天井の一部が崩れ落ちる。
マッサの上にも、巨大な岩の破片が、まともに落っこちてきた!
「うわっ……」
ピシャアアァァァン!
緑色の輝きが、まるく広がって、何十トンもありそうな巨大な岩のかけらを、ふんわりと受け止めた。
まだ《青いゆりかごの家》にいた頃、化け物鳥に襲われて、初めて《守り石》が光ったときのことを、マッサは思い出した。
あのときと、まったく同じだ。
巨大な岩は、サラサラサラサラ……と、あっという間に、細かい細かい砂になって、マッサのまわりに降り積もった。
その様子に見とれていたマッサは、ふと、何かに見られているような気がして、顔を挙げた。
すると、さっきまで暴れていた、巨大な黒いドラゴンが、じっと動きをとめて、金色にぎらぎら光る目で、マッサを見下ろしていた。
マッサは、生まれて初めて、ドラゴンの目を見た。
蛇にそっくりの、縦長の瞳が、じっとこっちを見下ろしている。
形は、蛇にそっくりだけれど、大きさは、目玉だけでも、マッサの体より大きい。
何だか、吸い込まれそうな感じがして、マッサは、声もなくドラゴンの目を見返していた。
『オマエハ 魔女タチノ 女王カ?』
急に、そんな声が聞こえた。
地響きのように低い、岩と岩がこすれ合って軋むみたいな声。
目の前のドラゴンが、自分に話しかけてきているのだと気付くまでに、しばらく時間がかかった。
「……えっ!?」
マッサは、びっくりした。
自分の人生のうちで、ドラゴンから話しかけられることがあるなんて、これまで、夢にも思ったことがなかった。
あんまりにも、びっくりしすぎて、逆に普通に、マッサは答えた。
「いや、ぼくは、魔女たちの女王じゃ、ありません。ぼくは、マッサです!」
『ダガ、オマエガ 持ッテイル ソノ 石ハ、魔女タチノ 女王シカ 持ツコトガ デキナイ 宝ダ。』
マッサは、心臓がどきどきしてきた。
このドラゴンは、《守り石》のことを、はっきり知っている。
だとすると……
「ドラゴンさん! あなたは、ぼくのお母さんや、おばあちゃんに、会ったことがあるんですね!?」
マッサは、目を輝かせてたずねた。




