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ディール、危機一髪

〈さあ、こっちだ。〉


 地下に降りたみんなは、モグさんの案内で、長い長い地下のトンネルを歩き始めた。

 

 道を照らすのは、もちろん、マッサが持っている《守り石》の緑色の光だ。

 モグさんが言っていたとおり、道はかなり広かったから、みんなは、二列に並んで歩くことにした。


 先頭は、道を知っているモグさんと、暗いところで物を見るのが得意な《三日月コウモリ》隊の隊長。

 次は、マッサとディールだ。

 マッサは《守り石》を持ちあげて、なるべくみんなに光が当たるようにする。

 ディールは、何かあったときに、すぐにマッサを守れるように、横についている。

 マッサたちの後ろには、四人の騎士たちが二列に並び、最後に、タータさんとガーベラ隊長の二人がついて、後ろにも注意しながら進む。

 ブルーは、暗いところでうろうろして迷子にならないように、しっかりと、マッサのリュックサックの上に乗っていた。


「うわあ、すごい!」


 トンネルが、急に広いところに出て、〈守り石〉を持ち上げたマッサは、思わず叫んだ。

 そこは、大きな洞窟になっていた。

 小学校の運動場よりもずっと広い。

 地面は、ごつごつした岩の塊におおわれていて、そのすきまを、何本にも枝分かれしながら、ちょろちょろと水が流れている。

 地下の小川だ。

 その小川の水に映って、岩の隙間に、たくさん、きらきらしたものがあるのが見えた。


「うおっ! もしかして、あれ全部、宝石じゃねえか?」


 ディールが、びっくりして言った。


「青に、緑……透明なやつもあるぜ! 集めたら、大金持ちになれるな。」


〈はあ、人間には、あんなもんが珍しいだか?〉


 モグさんが、どうでもよさそうに言った。


〈地下には、ああいう石が、ごろごろしてるだ。珍しくも何ともねえから、おらたちは、誰も集めたりしねえだよ。〉


「……なんか、そんなふうに言われると、やる気がなくなってくるな。」


 ディールは、ちょっとがっかりしたように言った。


「でも、まあ、せっかくのチャンスだ。……隊長! 俺は、ちょっとあそこまで行って、宝石を二、三個、取ってきますぜ。」


〈いや、あそこで石拾いをするのは、やめたほうがいいだよ。ほら!〉


 モグさんがそう言って、近くに転がっていた大きな岩のかけらを拾い上げると、ぽーんと遠くへ放り投げた。


 カッツーン!


 岩のかけらが地面にぶつかって、鋭い音をたてると、その音が洞窟じゅうに響いて、びりびりびりっと壁を震わせた。


 ミシミシミシ、ペキペキペキッ……


 上のほうで、何かにひびの入るような小さな音がしたかと思うと、


 ヒュンヒュンヒューン! ガチンガチンガチーン!


 いきなり、天井から大きな石のかけらが次々と落ちてきて、地面にぶつかり、砕け散った。

 その音が、また洞窟に響いて、そのせいで、さらに天井が割れて落ちてくる!


「うわああああっ!?」


「うおおおお!?」


 石のかけらや粉が飛んできて、マッサたちは、必死に両手で頭や目を守った。

 しばらくして、ようやく天井から落ちてくる石がなくなり、あたりがしーんとすると、


「おいっ!? いきなり、何つうことをするんだ、おまえはっ!? 危ねえだろうが!」


 と、ディールが、モグさんに食ってかかった。


〈大丈夫だって。ほら、上を見るだ。おらたちが立ってる、ここの真上には、ひびが入ってねえだろ。ここの上だけは、天井がかたくて、石は落ちてこねえから、安全だ。〉


「そういう問題じゃねえ!」


「いや、ディール。これは、いい勉強になったぞ。」


 後ろから、ガーベラ隊長が言った。


「我々は、地下の世界のことを、何も知らないんだ。道はもちろん、石や岩の性質のこともだ。

 きれいに見えたり、おもしろそうだったりしたからといって、うかつに近づいたり、触ったりすれば、とんでもないことになるかもしれない。

 今だって、もしも、おまえがふらふら宝石を取りに行って、うっかり大きな音でも立てていたら、おまえは今ごろ、雨のように降ってくる石の下敷きになっていたかもしれん。」


「はあ、いや、まあ……そりゃ、確かにそうですが。」


「だから、みな、気持ちを引き締めなくてはいけない。地下の道は、確かに、化け物オオカミに襲われる危険はないが、かわりに、別の危険がある。油断せず、モグさんの案内に従って、しっかり進もう。」


〈人間のおにいさん、いいこと言うだなあ。〉


 モグさんが、うんうんと頷いて、


〈さあ、こっちだ。濡れてる石を踏んで滑らねえように、用心するだよ!〉


 と、洞窟からのびている別のトンネルのほうへと、みんなを案内してくれた。

 列の後ろのほうでは、


「……人間のおにいさん、というのは、私のことかな?」


「うーん、たぶん、そうでしょうね。モグさんは、オオアナホリモグラの一族だから、人間の男の人と、女の人の区別が、あんまり、ついてないんでしょう。」


 ガーベラ隊長とタータさんが、ひそひそ声で、そんなふうに話し合っていた。


 それから、マッサたちは、えんえんと地下の道を歩き続けた。


 地下には、地面の上と同じくらい、いろんな景色が広がっていた。

 広い洞窟が、いくつもあり、底か見えないくらい深い谷の上を、石の一本橋をわたっていくところもあり、壁そのものが宝石でできているみたいに、きらきら光っているところもあり、まるで海みたいに広い地下の湖が、遠くにちらっと見えるところもあった。

 足が疲れたら、座って休憩し、少しずつ水を飲んだり、持ってきた食糧を食べたりする。


 いや、それにしても、いったい、いつまで歩き続ければいいんだろう……?


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