タータさん、用意をする
「モグさん、お願いがあるんですけど。もし、ご迷惑でなかったら、ぼくたちを、《魔女たちの都》まで、案内してもらえませんか?」
〈そりゃ、ずいぶん遠いな! ……でも、まあ、かまわねえだよ! 今は、道づくりの工事もなくて、ちょうど暇だからな。〉
というわけで、ありがたいことに、地下の道を通って《魔女たちの都》まで連れていってもらえる手筈がととのった。
そうと決まれば、地下の旅にそなえて、準備をしなくちゃならない。
みんなは、いったん地面の上に出て、明るいところで作戦会議を開くことにした。
「モグさんの案内で、地下の道を行くのは……王子のほかに、あと七人だな。」
『ぼくも、いる!』
「ああ、そうだった。王子と、あと、八人。まずは、全員分の食糧と水を用意しなくては。」
ガーベラ隊長が、そう言って、
「モグさん、地下の道を通って《魔女たちの都》に着くまで、何日くらいかかると思いますか?」
と、穴の中に向かって聞いた。
〈そうだな。はかったことはねえが、おらたちの足で、ざっと二十日間くらいだな。〉
「二十日間か……。モグさん、その途中に、食べ物や、飲み物が手に入るところは、ありますか?」
〈ああ、飲み物なら、たくさんあるだ! 途中、地下の川や、地下の湖を通るところがあるだよ。
それに、食べ物もある。おらは、おいしいアリとか、ミミズとか、地面の下の幼虫がいっぱいとれるところを、あっちこっち知ってるだ。〉
「そうですか、ありがとう。……おい、みんな、水はあるようだが、食糧は、自分たちでしっかり用意していったほうがよさそうだ。」
「まったくですぜ!」
ディールが、真剣な顔でうなずいた。
仲間たちは、タータさんたちに手伝ってもらって、干し肉や、干した果物や、かちかちに焼いたパンなど、軽くて長持ちする食べ物を、荷物いっぱいにぎゅうぎゅう詰め込んだ。
途中でごはんがなくなって、アリや、ミミズや、幼虫ばっかり食べないといけなくなったら、大変だからだ。
水も、運べるかぎり、できるだけたくさん持っていくことにした。
お腹がすくよりも、のどが渇くほうが、ずっとあぶない。
モグさんは、地下にも水はたくさんあると言ってたけど、万が一、なかなか水が手に入らなかったら、持っていった水を飲んで命を守るしかないんだ。
マッサたちは、タータさんの案内で、森の奥の泉まで、きれいな水をくみに行った。
全部の水筒に、ぎりぎりいっぱいまで水を入れて、ぎゅーっとしっかり蓋をしめた。
食糧や水、そのほか必要なものを詰め込んだ荷物を、全員で手分けして背負い、みんなは、モグさんの穴の入口に集合した。
「あれっ。」
すっかり重くなったリュックサックをせおったマッサは、ふと、あることに気がついて、思わず声をあげた。
「タータさん! どうしたんですか、そのかっこう。」
見送りに来てくれた長老のとなりに立ったタータさんは、ひょろっと背の高い体に、長いマントを着て、鳥の羽を一本かざりにさした、つばの広いぼうしをかぶっていた。
背中には、マッサたちと同じように、大きな荷物をかついでいた。
まるで、今から、長い旅に出るみたいなかっこうだ。
「あのう、そのう。」
と、タータさんは、しばらく、四つの手の指先をつつきあわせながら、もじもじしていたけど、やがて、顔を上げて、
「よかったら、わたしも、一緒につれていってくれませんか?」
と言った。
「ええーっ!?」
と、マッサはびっくりした。
タータさんとは、この村でお別れだとばかり思っていたからだ。
おどろいているマッサの顔を見たタータさんは、
「あ、やっぱり、だめですか?」
と、がっかりした顔になった。
「いや、だめってわけじゃ、ないですけど。」
と、マッサは慌てて言った。
「でも、ぼくたち、これから、地面の下を、ずうっと歩いていくんですよ?」
「ええ、分かってます。」
「すっごく遠い《魔女たちの都》まで、行くんですよ?」
「ええ、聞きました。」
「それで、そこから先は……こわい大魔王と、戦わなくちゃいけなくなるかもしれないんですよ?」
「ええ、もちろん、分かってますとも。」
タータさんは、はっきりと答えた。
「それでも、わたしは、行きたいんです。
わたしは昔から、ずっと、旅というものにあこがれてきました。この村に、遠くから来た旅人たちを迎えては、また送り出すたびに、ああ、わたしもいつかは、自分の足で遠いところを旅してみたいなあと、いつも思っていたんです。
今回、あなたたちが、この村に来てくれたことは、きっと、運命です。
わたしは、あなたたちと一緒に、遠いところまで行きたい。」
「おい、おい、おい。ちょっと待てよ。」
ディールが言った。
「あんたが旅に憧れるのは勝手だが、俺たちの旅は、楽しい旅行とは違う。最後には大魔王を倒すっていう、でかい使命をおびた旅だ。遊びに行くような気持ちでついてこられたんじゃ、こっちは、迷惑だぜ。」
「ちょっと、ディールさん……」
「マッサは引っ込んでな。」
思わず止めようとしたマッサに、ディールは、ばしっと言った。
「だいたい、タータさんよ。あんた、戦う、ってことができるのかい。こっちは、マッサを守るだけで、もう手いっぱいなんだ。その上に、戦えないやつが、もう一人増えるんじゃ、とても守り切れねえぜ。」
「ああ!」
タータさんは、にっこり笑って言った。
「戦いね。大丈夫。それなら、自信があります!」




