マッサと優しい光
「そうだ!」
マッサは、いいことを思いついて、暗闇の中でリュックサックをおろし、手さぐりで、中のものをさぐった。
『ウフフフフフ……』
と、リュックサックの中から、あやしい笑い声が聞こえて、
〈えっ……何だ、何だ!? おい! 今のは、何だ!?〉
と、モグさんがあわてている声が聞こえた。
もちろん、リュックサックの中に入っているブルーが、マッサの手にごそごそされて、くすぐったがって笑っているんだ。
ブルーのことを知らないモグさんは、それを聞いて、どこからともなく不気味な笑い声が聞こえてきたと思ったらしい。
「今のは、ブルーという名前の、私たちの仲間です。」
「なんか、よく分からねえ生き物で、白いもじゃもじゃだ。」
『もじゃもじゃじゃない! ブルー!』
ガーベラ隊長と、ディールと、ブルーがそう言っているうちに、
「あった!」
マッサは、目的のものをつかんで、リュックサックの底から引っぱり出した。
「じゃーん!」
懐中電灯だ。
これがあれば、暗い中でも、安全に歩くことができる!
マッサは、カチッとスイッチを入れた。
ぱっと、黄色い光の輪が広がって、みんながびっくりしている顔が照らし出された。
次の瞬間、
〈ぎゃーっ!!〉
と、ものすごい悲鳴があがって、マッサは、もう少しで心臓が止まりそうになった。
〈まぶしい! 痛い、痛い、目が痛い! 目がつぶれる!〉
マッサのすぐ側で、クマみたいに大きな茶色いモグラ――オオアナホリモグラのモグさんが、叫んでいた。
長い爪の生えた大きな手で、両目をおおっている。
しまった!
モグさんは、いつも真っ暗な地下に住んでいるから、光にすごく弱いんだ。
さっきも、外に出てすぐに〈まぶし!〉と叫んでいたのに、マッサは、そのことをすっかり忘れていた!
「ごめんなさい!」
マッサは、あわてて懐中電灯のスイッチを切り、あたりは、また、真っ暗になった。
「本当に、ごめんなさい! 今の光は、もう消しました! 目、大丈夫ですか!? ぼくのこと、見えますか?」
〈うう……死ぬかと思っただ。〉
モグさんが、ぶつぶつ言う声が聞こえた。
〈まだ、目がちかちかする。おらたちは、まぶしいのが、すごく苦手だからな! さっきの光は、もう二度と、つけねえでくれよ!〉
「わかりました。」
マッサは、そう言ったけど、このままの暗さでは、とてもトンネルの中を歩いて《魔女たちの都》まで行くなんてことはできない。
目の前に、ごつごつした壁があっても、落っこちたら死んでしまうような崖があっても、全然見えないから、よけるということができないんだ。
「ねえ、《三日月コウモリ》隊の隊長さんは、今、まわりが見えてるんですか?」
「ええ、少しは。……しかし、それは、上の穴から射し込んでくる光のおかげです。もしも、この場所を離れて、外の光がまったく届かない、本物の暗闇になったら、私でも、ものを見ることはできません。」
「そうですか……。ねえ、ブルーは、どう?」
『ちょっとだけ、みえる! でも、ここ、ちょっとだけ、あかるい。ひかりないと、ぼく、みえない!』
「そうか……」
《三日月コウモリ》隊の隊長も、ブルーも、同じようなことを言っている。
二人とも、ほんの少しでも明かりがあれば、それでまわりが見えるけど、本当にまったく光がない、真っ暗闇では、ものを見ることはできないんだ。
どうしよう……
せっかくいい考えだと思ったのに、やっぱり、地面の下を歩いていくなんてことは、無理なのかな……
そのとき、ブルーが言った。
『マッサ! あれは?』
「えっ? ……あれって、なに?」
『あれ!』
「えっ? ……だから、あれって、なに!?」
『かたいやつ。』
「えっ?」
『かたくて、まるくて、ひかるやつ!』
「かたくて、丸くて、光る……ああっ!?」
やっと、ブルーが何を言っているのか分かって、マッサは大きな声を出した。
でも、大丈夫かな?
「モグさん、すみませんけど、ちょっと、さっきみたいに、両手で目を守っておいてもらえますか?」
そうことわっておいてから、マッサは首にかけていた鎖をつかみ、そーっと、シャツの下から《守り石》を引っぱり出してみた。
「おお……」
ぼんやりとした緑色の輝きに、ガーベラ隊長たちが感心している顔が、浮かびあがって見えた。
マッサの手の中で、《守り石》が、光を放っている。
マッサの命を守ってくれたときの激しい光とはまったく違って、淡く、やさしい光り方だ。
『みえる、みえる!』
マッサの背中で、リュックサックから顔を出したブルーが、ぱちぱちと手を叩いた。
「モグさん、この光は、どうですか? これでも、眩しいですか?」
〈おいおい、やめてくれ。おらたちは、まぶしいのが苦手だって、何度言ったら……〉
そう言いながら、目をおおっている手を、そろーっと、少しずつずらしたモグさんは、
〈おや?〉
と言った。
〈まぶしくねえ! ……ははあ、なるほど、そいつは、石の光だな。石の光なら、おらたちが暮らす地下でも、ときどき見かけるだ。その光なら、おらの目も、何ともねえ。〉
「やった!」
優しい緑色の光が、思ったよりも広いトンネルの、岩の天井や壁、仲間たちの姿を照らしてくれている。
この明るさなら、どうにか安全に歩けそうだ。
ブルーのアドバイスのおかげで、《魔女たちの都》まで、安全に旅ができるチャンスが出てきたぞ!




