タータさん、アイデアを出す
食後には、《草原を見張る目》の長老やタータさんたちも加わって、会議が始まった。
会議の目的は、マッサたちが、ここから、どうすればいいか、という問題を話し合うことだ。
病院として使われている、木の上の家に、全員が集まった。
けがをしている人たちは、そこから動くことができないから、逆に、他のみんなが、そこに集まることにしたんだ。
ブルーは、芋虫をおなかいっぱい食べすぎて、眠くなって、また、マッサのリュックサックの中で、ぷしゅー、ぷしゅー、と、寝息をたてている。
「まず、傷を負った諸君のことだが。」
《三日月コウモリ》隊の隊長が言った。
「残念ながら、諸君は、ここから先の旅に加わることはできない。けがをしたままで無理をするのは、危険だ。それに、けがが完全に治るまで待っていたら、出発までに、何カ月もかかってしまう。」
けがをした人たちは、悔しそうな顔をしながら、黙って頷いた。
その悔しそうな顔を見ただけで、みんなが、マッサのことを都までしっかりと送り届けたいと思ってくれていたことが、よく分かった。
「この人たちのことなら、心配しなくても、だいじょうぶですよ。」
と、タータさんが、マッサの顔を見て、なぐさめるように言った。
「傷が、しっかり治るまで、いつまででも、この村に泊まってもらって、かまいませんからね。一族のみんなで、お世話をしますよ。ねえ、長老?」
「うむ。」
と、長老が、しわしわの口をもぐもぐさせながら、大きくうなずいた。
「傷ついた旅の人を、助けてあげるのも、わしら《草原を見張る目》の一族の、伝統じゃからのう。みなさんが元気になるまで、喜んで、お世話をお引き受けしますぞ。」
「よろしくお願いします。」
マッサと、騎士たち全員が、そろって長老に頭を下げた。
「……さて。次の問題は、私たちは、ここからどうすればよいのか、ということだ。」
顔をあげたガーベラ隊長が、みんなの顔を見回しながら言った。
「今、考えられる方法は、ふたつある。ひとつめは、このまま《魔女たちの都》を目指すという方法。もうひとつは、いったん、砦に引き返し、態勢を立て直してから、あらためて出直すという方法だ。」
「はい。」
と、いきなり、ディールが手を挙げて、発言した。
「俺は、このまま《魔女の都》を目指したほうがいいと思いますぜ。砦に引き返して、また、特別部隊を組み直して、それからあらためて出発っていうんじゃ、時間がかかりすぎます。ただでさえ、ここで、時間をくっちまってるんだ。あんまり、のろのろしてると、マッサの――王子のことが、大魔王にばれて、軍勢を送り出される危険が大きくなる。」
「なるほど……他に、意見は?」
「私の考えは、ディールの意見とは違う。いったん、砦に戻るべきだと考えている。」
《三日月コウモリ》隊の隊長が言った。
「昨夜、ガーベラ殿も言っていたと思うが、今、無傷で戦える者は七人しかいない。七人では、無事に《魔女たちの都》までたどり着ける可能性は、低いだろう。少なく見積もっても、あと五日は飛ばなくてはならないのだ。そのあいだに、一度も襲撃されない、と考えるのは、甘すぎる。」
うーん、と、全員が考えこんだ。
ディールの言っていることも分かるし、《三日月コウモリ》隊の隊長が言っていることも、もっともだ。
いったい、どうすればいいんだろう……?
と、そのときだ。
「あのーっ。」
と言いながら、四本の手を全部あげて、タータさんが言った。
「どうしても、空を飛んでいかないと、いけませんか?」
「えっ?」
タータさんが何を言っているのか、よく分からず、全員が同時に聞き返した。
ディールは、あきれたような顔になった。
「あのなあ。空を飛んでいくんじゃなけりゃ、どうやって行くんだ。てくてく歩いていくのか? 何日かかるんだよ! のんきに歩いてるあいだに、化け物オオカミに襲われちまうぜ。」
「それは、地面の上を、歩いていくからでしょう?」
「……えっ??」
また、全員が、同時に聞き返した。
「地面の上を、って……それ以外に、歩くとこなんか、ねえだろうが。」
ディールがそう言うと、タータさんは、にっこり笑った。
「ありますよ。空の上でも、地面の上でもない、もっと安全に、通っていける場所が!」
「はあー?」
ディールの眉間に、ぎゅっと、機嫌の悪そうなしわが寄った。
タータさんが、からかっているのかもしれない、と思い始めたみたいだ。
「どこだ、それ。空を飛ぶのでもない、地面を歩くのでもないなんて……他に、通れる場所なんか、どこにも、ねえじゃねえかよ!」
「どうして、あなたは、怒っているんですか?」
タータさんは、ふしぎそうな顔をして、言った。
「あるじゃないですか。空の上でも、地面の上でもなくて、安全に、歩いて通っていける場所が!」
「……えっ?」
マッサは、ふと思いついて、タータさんを見た。
「タータさん、もしかして、それって……?」
「はい、そうですよ。」
タータさんは、にこにこしながらうなずいた。
そして、四本の手、ぜんぶの人差し指を、いっせいに、下に向けた。
「地面の下です。」




