マッサ、ディールと話す
マッサは、何か言おうとして、口を開けて……それから、閉めた。
他の、もっといい方法なんて、全然、思いつかなかった。
「とりあえず、寝よう。」
急に、ガーベラ隊長が、そう言い出した。
「みな、とても疲れている。疲れているときに、深刻な考え事をしても、いいアイデアは出てこない。いったん、眠ろう! 目が覚めて、頭がすっきりしてから、もう一度、よく考えてみよう。」
「そうだな。眠いときの考え事は、よくない。」
《三日月コウモリ》隊の隊長も賛成した。
「だが、もちろん、全員がぐっすり寝込むのは危険だ。交代で、見張りをしよう。見張りに当たった者は、眠らずに起きて、敵を警戒し、変わったことがあれば、すぐに全員を起こすこと。……まずは、誰からにする? くじ引きで決めるか?」
「俺が行きますぜ。」
ディールが、のっそりと手をあげた。
「寝てる途中で、交代で起こされるより、最初に起きておいて、後からまとめてゆっくり寝たほうがいい。」
「なるほどな。」
と、ガーベラ隊長が言った。
「それでは、頼んだぞ。交代は、月が、拳ひとつ分、空を動いてからだ。次は、私が見張りに立つから、起こしてくれ。」
「へーい。」
ディールは、槍を持って、洞窟の入口のほうへ出ていき、他のみんなは、自分の荷物に入れていたマントを毛布がわりにして、地面の上に寝ることにした。
けが人たちにも、それぞれが持っていたマントが、毛布がわりにかけられた。
「王子は、これを使って寝てください。」
ガーベラ隊長が、マントをさし出したので、マッサは、あれっと思った。
「でも、それ、ディールさんのマントじゃないですか?」
「あいつが見張りから戻ったときには、私のマントを貸しますから、大丈夫です。さあ、少しでも寝て、体を休めてください。」
「うん……ありがとうございます。」
マッサは、お礼を言って、ディールのマントにくるまり、かたい岩の上に座った。
見ると、ブルーは、もう、焚火のそばの、あったかいところに丸くなって、ぐっすり寝ている。
(あんなに火の近くで寝て、大丈夫かな。ふわふわの毛が、燃えちゃったりしないかな?)
と、マッサは心配になって、寝ているブルーを、ちょっとだけ、ずずずずずっと動かして、火から離しておいた。
それから、かたい岩の上に、横になって、目をつぶった。
でも、ぜんぜん、眠れない。
ベットの上じゃなく、地面の、それも、かたい岩の上で寝るなんて、はじめてだ。
ものすごく寝心地が悪い。
緊張して疲れたから、目を閉じてじっとしていれば、そのうち寝られるだろう、と思ったけど、やっぱり、無理だった。
けが人の人たちが、ときどき、苦しそうにうなるのが聞こえたり、化け物鳥が襲ってきたときのことを、思い出してしまったり、これからどうすればいいんだろう、何か、みんなが安全に助かる、いい方法はないのか、と考えこんでしまったりして、まったく寝られない。
マッサは、もう、寝るのはいったんあきらめて、そうっと、起き上がった。
ぐっすり寝ている騎士たちを起こさないように、気をつけながら、まるで泥棒みたいに、そうっと、そうっと歩いて、入口の近くまで進んでいった。
洞窟の入口から、ちょっとだけ中に入ったところに、ディールが立って、真剣に外を見張っている。
「あの。」
「うぉっ!」
後ろから声をかけた瞬間、ディールは小さく叫んで飛び上がり、こっちに槍を向けそうになった。
「……って、おまえかよ! おどかすなっ。もうちょっとで、ぐさっと、突き刺しちまうところだっただろうがっ!」
「ご、ご、ごめんなさい。」
「あっ! そのマント、俺のだろ! 何、勝手に使ってんだよ。」
「ごめんなさい! ガーベラ隊長が、ディールさんが戻ってくるまで、これを使っておきなさいって……ディールさんが戻ってきたら、私のマントを貸すからって……」
「ふん。」
マッサが、いっしょうけんめい説明すると、ディールは、分かってくれたのか、そうじゃないのか、とにかく、大きな鼻息をふいた。
そして、別に、マントを取りかえそうとはせずに、また、外を見張り始めた。
マッサも、そのそばに座って、いっしょに外を見張った。
月明かりに照らされた外は、静かで、ときどき、風がふいて、草や木が、ざわざわと言うだけだった。
やがて、ディールが言った。
「……おい。」
「はい。」
「はい、じゃねえよ。おまえ、なんで寝ないんだよ。奥に戻れ。」
「寝られないんです。だから、見張りを手伝います。」
「……ふん。」
ディールは、また大きな鼻息をふいて、それ以上、何も言わなかった。
外は静かで、ときどき、風が吹いて、草や木が、ざわざわ、ざわざわ、と言った。
そのときだ。
外から、おかしな音が聞こえた。




