表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/245

マッサ、ふるえる

 マッサは、暗い草原を、全速力で、ガーベラ隊長たちが降りたはずのほうに向かって走った。

 落ちた人たちは、大けがをしているかもしれない。

 はやく行って、助けてあげないと!


 でも、いくら、翼をつけているからって、あんな高い空から落ちて、生きていられるんだろうか。

 もしかしたら、死んじゃった人がいるかもしれない……


「ブルー!」


 全速力で走りながら、マッサは、必死に声を出した。


「落ちていった人は……こう、真っ逆さまに、ひゅーって、落ちていった!? それとも、斜めに、すーって、落ちていった!?」


『こっち!』


 ブルーは、マッサの後ろの、リュックサックの上で、ちっちゃな手をぴっぴっと振りながら、説明してくれているようだった。


『こっちがわに、すーって、おちた!』


「じゃあ……真っ逆さまじゃ、なくて、ななめに、落ちたんだね!」


 マッサが、離れていくときに見た人も、斜めに、空気の上を滑るように落ちていった。

 最後まで、あの落ち方だったなら、真っ逆さまに落ちるよりは、まだ、助かっている可能性が高いかもしれない……


『あっ!』


 急に、ブルーが叫んで、ぴっぴっぴっ! とマッサの髪の毛を引っ張った。

 いつもなら、怒るところだけど、今は、マッサは、ブルーが言いたいことがすぐに分かった。


「どうしたの、ブルー、何か見つけた!?」


『そこの、きの、した! ひとり、おちてる!』


 ブルーが肩の上で指さすほうへ、マッサは、はあはあ言いながら、全速力で走った。

 月明かりにぼんやりと照らされて、草原に、一本の木が立っている。

 その下に、やぶれた紙飛行機みたいに、大きな翼が落ちているのが見えた。


 マッサは、駆け寄りながら、心臓がどきどきしすぎて、吐きそうになってきた。

 騎士さんたちは、みんな、マッサを守るために戦ってくれたんだ。

 折れてやぶれた翼の下にいるのが、ガーベラ隊長や、ディールさんだったら、どうしよう。

 そうじゃない人でも、もし、大けがをしてたら、どうしよう。

 もしも、死んじゃってたりしたら、どうしよう……


 落ちた翼の、三メートルくらい手前で立ち止まってしまったマッサの肩の上から、ブルーが、ぴょーん! と飛びおりて、翼の下に、もぐり込んでいった。


『からだ、あったかい! いきてる! いきてる!』


 そう叫ぶ、ブルーの声がした。


『でも、うごいてない! マッサ、きて!』


 マッサは、ぶるぶる震える足を、自分で、ばちんばちん! と叩きながら、必死に、前に進んでいった。

 勇気を出して、翼の下をのぞきこむと、ぐったりと倒れた騎士の姿が見えた。

 誰だろう。

 暗いのと、兜をかぶっているせいで、顔が分からない。

 兜を脱がせてあげたいけど、動かしても、大丈夫なんだろうか?

 もしも、首の骨が、折れてたりしたら……?

 マッサが、迷いながら、立ちすくんでいると、


「そこに、立っているのは、誰だーっ!?」


 そう叫びながら、こっちに走ってくる人影が見えた。

 ああ、あの声は!


「ガーベラたいちょーう! ぼくです! ぼくたち、ここにいます! ここに、一人、倒れてます!」


 マッサは、泣きそうになりながら、大きく手を振って場所を知らせた。


「おお、王子! よくぞ、御無事で!」


 駆け寄ってきたガーベラ隊長の背中には、もう、翼はなかった。

 身軽に動けるように、はずして、向こうに置いてきたらしい。

 ガーベラ隊長は、手に持っていた『空笛』を、ヒュヒューッと吹き鳴らした。

 マッサがここにいた、ということを、みんなに知らせたんだ。


「ガーベラ隊長、ぼくのことはいいですから、はやく、この人を、みてあげてください!」


「この翼……ルークか! おい、しっかりしろ!」


 ガーベラ隊長は、倒れた騎士に駆け寄ると、その肩や胸に巻きついたベルトを手早く解いて、翼をはずした。

 それから、そーっと、その騎士を地面に寝かせて、慎重に、兜を脱がせた。


「あっ!」


 マッサは、泣きそうになった。

 その騎士は、ディールといっしょに、マッサを運んでくれた若者だったからだ。


「大丈夫ですか!? ねえ、その人……ルークさん、大丈夫ですか!? ガーベラ隊長、手当てをしてあげてください!」


「おい、ルーク、ルーク、しっかりしろ! ……ぜんぜん、目を覚まさない。もしかしたら、落ちたときに、頭を打ったのかも。」


「そんな!」


「それに……足が、片方、折れているようだ。これでは、目が覚めても、歩くのは無理だな……」


「ええっ……」


 自分を守ってくれようとして、他の人が、こんな目にあってしまうなんて。

 マッサは、ショックすぎて、もう、自分のほうが倒れてしまいそうな気がした。


「王子。王子!」


 はっと気がつくと、ガーベラ隊長が、マッサの両方の肩を持って揺さぶっていた。


「大丈夫ですか、王子! 気持ちをしっかり持ってください。王子は、どこも、けがをなさっていませんね?」


「う……うん。……はい!」


「では、申し訳ないが、私を手伝っていただきたい!」


 ガーベラ隊長は、すごい力で、壊れたルークの翼を、地面から一気に持ち上げた。

 マッサも慌てて手伝って、翼を、少し離れたところに運ぶ。

 翼を地面に置くと、ガーベラ隊長は、急に、背中にせおっていた槍を取って、ぶうんと振り回し、


「ハァッ!」


 と、せっかく運んだルークの翼の、右側の羽を、ばぁんと切り落としてしまった。


「ええっ! どうして、そんなこと……」


「この翼は、左側の羽の骨組みが砕けてしまっているから、今は、もう使えません。だから、この翼を、担架のかわりにして、この上にルークを寝かせて、運びます!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ