ブルー、大活躍する
「俺、いいことを思いついたぜ。」
何だろう、と注目したコックさんたちと、マッサと、ブルーに向かって、ガッツが言った。
そのあいだにも、お皿を洗う手は、一秒も止まっていない。
「ブルーは、しゃべれるんだから、店の前に立って、大きな声で、お客さんを呼びこむ仕事をしたらどうだ? めずらしいから、目立って、人がいっぱい集まると思うぜ!」
「ねずみの呼びこみか……なるほどな。ちょっと、おもしろそうだが……大丈夫なのか? 本当に、ちゃんとできるのか?」
コックさんたちは、まだ、あまり信用していないような顔つきだ。
「ねえ、ブルー、きみ、ちゃんと、しごとができる?」
『しごとって、おいしいの!?』
「違うよ! お店の、入口のところに立って、いらっしゃいませ、おいしいものがありますよ、って言うんだよ。できる?」
『できる!』
ブルーは、自信満々だった。
マッサは、裏口から、細い道を通って、ブルーを、お店の正面の入口までつれていった。
「じゃあ、ブルー、やってみて。」
『いらっしゃいませ! いらっしゃいませ!』
ブルーは、ちっちゃな両手をぱちぱち叩きながら、すごくじょうずに、大きな声でお客さんを呼んだ。
「えっ? なんだ、なんだ?」
たちまち、道を歩いていた人たちが、集まってきた。
『いらっしゃいませ! いらっしゃいませ! おいしいもの、ある!』
「うわっ、かわいい生き物! 何の生き物かな?」
『いきものじゃない! ブルー! いらっしゃいませ! おいしいもの、ある!』
「おいしいもの? あっ、ここ、食堂なんだ。入ったこと、ないや。ちょっと食べていこうかな。」
「わあ、ここのお店、おもしろーい! しゃべるねずみがいる!」
『ねずみじゃない! ブルー! おいしいもの、ある! ウフフフフーン……』
「うわあ、かわいい! おいしい顔してる!」
「ここって、そんなに、おいしいお料理があるの? じゃあ、入ってみようかな!」
こうして、ブルーの活躍で、食堂は、大人気になり、店の入口の前には、長い行列ができた。
コックさんたちも、ガッツも、マッサも、手がもげるんじゃないかというくらい、フル回転でしごとをして、食堂は、大繁盛のうちに、やっと、閉店の時間になった。
そのときには、もう、完全に、日が暮れていた。
「いやあ、今日は、本当に助かったぞ。」
しごとをがんばりすぎて、よれよれになったコックさんが、同じように、よれよれになっているガッツと、マッサと、ブルーに向かって言った。
「こんなに行列ができたのは、この店ができて以来、はじめてのことだ。ブルー、ありがとう。ガッツと、マッサも、本当に、よくがんばってくれたな。」
「おーっす……」
「はーい……」
ガッツと、マッサは、そう返事をした。
普段なら、もっと、いい返事をする二人だけど、今日は、あまりにも、しごとをがんばりすぎて、くたびれはてていた。
ブルーは、
『フフン!』
と言って、じまんそうに、鼻をひくひくさせた。
コックさんは、おっとっと、と、つかれのせいで、ちょっとよろけながら、キッチンの奥へ行って、お金と、立派なりんごをたくさん、かごに入れて持ってきた。
「このお金が、今日のガッツの給料。それから、このりんごは、まあ、お礼のおくりものってところだな。マッサ、ブルー、明日からも、ぜひ、うちの店で働いてくれ。うちの食堂で、正式に、働いてくれるなら、もちろん、明日から、今日のぶんも入れて、ちゃんと給料を払う。ちゃんと、マッサのぶんと、ブルーのぶんを払うよ。」
『りんご! いっぱい! りんご!』
ブルーは、お給料の話なんか、ぜんぜん聞いていなくて、りんごをもらって大喜びだ。
「おおっ! おれたち、これで、しごと仲間だな!」
「うん。」
ガッツに、肩を叩かれて、マッサは、ふくざつな気持ちで笑った。
今、もう、横になったらすぐに寝ちゃいそうなくらい、体がつかれている。
こんなに大変なしごとを、毎日続けているガッツは、すごい。
自分は、ちゃんと、毎日、続けられるんだろうか?
少し……いや、けっこう……いや、ものすごく、心配だ。
「さあて、それじゃ、これから、買い物に行こうぜ!」
「ええっ!?」
マッサは、びっくりした。
やっと『青いゆりかごの家』に帰って、休憩できると思ったのに、今から、買い物だって?
「そりゃ、そうだろ。この給料で、ごはんの材料を買って帰るんだ。でねえと、小さい子たちが、お腹をすかせて、泣いちゃうだろうが。おれも、もう、腹がぺこぺこだよ。」
そうか、と、マッサは思った。
自分のしごとをしたら、おしまいじゃなくて、ごはんも、自分たちで作って、小さい子たちのめんどうも、みてあげなくちゃいけないんだ。
「ガッツは、本当に、大人みたいに、がんばってるんだね。」
「はあ? 急に、なんだよ。はやく行こうぜ。店が閉まっちまう!」
ガッツとマッサと、リュックサックに乗ったブルーは、急いで、市場に走っていった。
今にも閉まりかけていた店で、たくさんの野菜と、少しの肉を買ってから、また、大急ぎで、『青いゆりかごの家』に帰っていった。
「ただいま! いやあ、今日は、いそがしすぎて、めちゃくちゃ、つかれたぜ!」
「あっ、ガッツにいちゃん、おかえりー!」
『青いゆりかごの家』のドアが、いっぱいにあいた瞬間、
「うわーっ!?」
その建物の中を、はじめて見て、マッサは、おどろきのあまり、引っくり返りそうになった。




