表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/245

マッサとチョコレート

「うるせえ、うるせえ! おまえら、ごちゃごちゃ、出てくるな! 中に入ってろ!」


 男の子が、顔を真っ赤にしてどなると、子供たちは、はあーい、と言って、ざんねんそうに建物の中にもどっていった。

 なかには、ブルーに向かって、ばいばい、と最後まで手をふっている子もいた。

 ブルーは、その子のまねをして、ちっちゃな両手を、ぷるぷる、ふりかえしていた。


「あっ、そうだ。」


 混乱がおさまったところで、マッサは、ふと、あることを思い出した。

 リュックサックを、肩からおろして、中に、手を突っ込んだ。


「おっ、おい、なんだ、おまえ! 武器を出す気か!? ぶんなぐるぞ!」


「ちがいますよ!」


 げんこつをかためた男の子に向かって、マッサは、リュックサックから取り出した、板チョコレートを一枚、差し出した。


「はい、これ、どうぞ。これから、ここでお世話になるから、おくりものです。みんなで食べてください。」


「はあ?」


 マッサが差し出した板チョコを見て、男の子は、あやしそうな顔をした。


「なんだよ、その、へんな、銀色の板みたいなやつは。」


 あっ、そうか、と、マッサは気がついた。

 もしかすると、こっちの世界には、チョコレートっていうものが、ないのかもしれない。


「これは、チョコレートっていう名前の、おかしです。おいしいですよ! ほら、こうやって、包み紙をあけて……」


 マッサが、銀色の包み紙をやぶってさしだすと、男の子は、ますます、あやしそうな顔をした。


「はあ? なんだよ、この、へんな、茶色い板みたいなやつは! なんか、うんこみたいな色、してるぞ。」


「うんこじゃないですよ! チョコレートです。おいしいですよ。ほら!」


 マッサは、チョコレートがうんこじゃないことを、証明するために、チョコレートのはしっこを、ひとかけらちぎって、口に入れた。


「うーん、おいしい! あまくて、最高ですよ。ほら、食べてみてください。」


 男の子は、それでも、やっぱり、あやしそうな顔をしていたけれども、やがて、用心深く手を伸ばして、マッサが持っているチョコレートから、ほんの小さなひとかけらを、ちぎって、口に入れた。


「どうですか? チョコレート。」


 マッサは、わくわくしながらきいた。

 男の子は、しばらく、あやしそうな顔をしながら、口をもぐもぐさせていた。

 しばらくすると、その顔が、ぱあっと輝いて、ものすごくおいしい顔になった。


「ウーン……」


 と、男の子は、ブルーがりんごを食べたときと、そっくりな声を出した。

 小さなチョコレートのかけらを、たっぷり、ゆっくり、味わって、飲みこんでから、


「なんだ、こりゃあ!」


 と、男の子は、叫んだ。


「めっちゃくっちゃ、うめえ! こんなうめえもの、食ったの、はじめてだ!」


 すると、


「何、何!? おいしいもの!?」


「ちょうだい、ぼくにも、ちょうだい!」


「わたしにも! わたしにも!」


「おいしいもの、分けて!」


「おれにも、食わせろ!」


「わたしにも、ちょうだいよ!」


 扉の内側に集まって、聞き耳を立てていた、大勢の子供たちが、ものすごい勢いで、どどどどどどーっと、外にあふれ出てきて、いっせいに、チョコレートに手を伸ばした。


「うるせえ、うるせえ、うるせえーっ! おまえら、ごちゃごちゃ、出てくるな! 手をひっこめろ! でねえと、ぶんなぐるぞ!?」


 と、男の子は、怒鳴った。


「ええーっ……!?」


 と、子供たちは言って、しょんぼりした顔になった。


「ええーっ……!?」


 と、マッサも、かなしくなった。

 せっかく、おいしいチョコレートをプレゼントして、みんなで、なかよく食べてもらおうと思ったのに、こんなふうに、ひとりじめするなんて……

 でも、次の瞬間、男の子が、意外なことを言った。


「全員が、一気に手を出したら、この、うまいチョコレートが、ぐっちゃぐっちゃに、なっちゃうだろうがっ! ひとりずつ、順番だ! 全員、俺の前に、一列に並べーっ!」


「はあーい。」


 子供たちは、おとなしく、一列に並び始めた。

 男の子は、その並び方にも、こまかく、目を光らせていた。


「待て、待て、おまえら! 小さい子が先だ! いちばん小さい子から先に、順番に並べ! ……あっ、こら、そこ、横入りをするな! ……おい、後ろのほう、けんかするな! ……なに? 二人が、同時に、列にならんだ? それなら、じゃんけんだ! 正々堂々、じゃんけんをして、勝った方が先、負けた方が、あとに並べ!」


 きびしい先生みたいに、びしばしと指示を出しながら、男の子は、みんなに、チョコレートをひとかけらずつ配っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ