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マッサたちと、予想外の問題

 人魚たちとの「歌合戦」のあと、アイナファール姫は、すぐに船を空に浮かび上がらせて、出発した。

 同じ場所に、つづけて停泊していたら、人魚たちが、大勢の仲間を呼び集めて、戻ってくるかもしれないからだ。


「お母さん、寝なくて大丈夫なの?」


 と、マッサが心配して聞くと、


「もちろん、寝なくちゃだめよ。でも、今はだめ。今、ここで、船を海に浮かべて眠るのは危険だわ。

 夜のあいだは、飛ぶことにしましょう。そして、朝になって、太陽が昇ったら、船を降ろして、ちゃんと眠ることにしましょう。」


 と、アイナファール姫は答えて、それから夜通し、船を飛ばし続けることにした。


 その夜は、さいわい、それから何の戦いも起こらなかったけれど、次の日、アイナファール姫が眠りについてから、予想もしていなかった、別の問題が起きた。

 それは、みんなの飲み水についての問題だ。


 アイナファール姫は、船の底に、樽に入れた飲み水を積んできていた。

 でも、それは、「王子と七人の仲間」のぶんだけを考えて持ってきた量だ。

 最初は予定していなかった、大勢の子供たちが一緒に来ることになったものだから、飲み水が、どんどん減っていく。

 大魔王の島まで、あと、どのくらいあるのか分からない。

 このままでは、もしかすると、島に着く前に、みんなの飲み水がなくなっちゃうんじゃないか? という心配が出てきた。

 水は、ちゃんと飲まないと、病気になってしまうから、


「みんな、のどがかわいても、がまんして!」


 というわけには、いかない。

 海に浮かんだ船の上で、マッサたちは、甲板に輪になって腰をおろし、相談した。


「だいぶ遠いが、あそことか、あそことかに、ぽつぽつ、島影が見えるじゃねえか。

 あの島のどれかに、もしかしたら、真水が湧いてるかもしれねえ。上陸して、探してみるか?」


 と、ディールが言ったけど、


「うーん……でも、これまでにも、オオグライウオとか、人魚とかが出てきたでしょ? 上陸した島に、もしも、そういうやつらが住み着いてたら、危ないよ。」


 と、マッサが言って、


「うーん。」


 と、みんながうなり、島に上陸して水を探すというアイデアは、いったん置いておくことになった。


「水なら、まわりに、見わたすかぎり、こーんなにたくさん、あるんですけどねえ。」


 と、タータさんが言った。

 確かに、海の水なら、無限にあるんじゃないかと思うくらい、たっぷりある。

 でも海水には、ものすごくたくさんの塩がとけているから、そのままがぶがぶ飲んだら、逆にのどがかわいて、死んでしまうんだ。


「うーん……」


 マッサは、考えた。

 せっかく、こんなにたっぷりある海水を、何とか、飲み水に変える方法はないだろうか……?


「そうだっ!」


 頭から湯気が出そうなくらい、うーんと考えていたマッサは、急に、いい方法を思いついて、パーンと手を叩いた。


「海の水をくんで、お湯を沸かそう!」


「はあ? マッサ、何、言ってんだよ。海の水を沸かして、湯にしたところで、塩からい水が、塩からい湯になるだけじゃねえか。」


 と、ディールが呆れて言った。


「いや、違うよ、あっためた海水を、そのまま飲むんじゃないんだ。

 ほら、やかんで、水をぐらぐら沸騰させたら、注ぐところから、ぼーって、熱い蒸気が出てくるでしょ? あの蒸気を集めて、水のしずくにして、それを飲めばいいんだ!」


「なるほど!」


 実験にも詳しいフレイオが、納得して、大きくうなずいた。


「海水を沸騰させ、水蒸気を集めて冷やせば、塩分がまじっていない、純粋な水が手に入る。

 いわゆる『蒸留』というやつですね。」


「はあー? 何のこっちゃ。スイジョーキとか、ジョーリューとか、まったく、ちんぷんかんぷんだぜ。」


 ディールは、わけがわからん、という顔をしていたけど、


「まあ、とにかく、王子の言うとおりに、やってみよう!」


 と、ガーベラ隊長が勢いよく言って、みんなは湯沸かしの準備にとりかかった。


 まずは、タータさんのおなべの取っ手に、長いロープをくくりつけ、それで、海水をくみ上げる。

 そして、海水が入ったおなべを、フレイオの炎の魔法で、ゴーッと加熱する。

 ぐらぐら、ボコボコ、お湯が沸いてきたら、その上に、おなべのふたや、板をかざして、もうもうと上がった蒸気を集める。

 集まった蒸気が、水のしずくになって、ポタポタ垂れてくるのを、コップで受け止めて、ためていった。

 いったん蒸気になった水には、塩は、もう入っていないから、飲んでも安全だ。

 みんなは、


「おおーっ! すごい! 海水から、飲み水ができた!」


 と盛り上がったけど、続けるうちに、このやり方には、問題があることが分かってきた。


「これは……疲れるわりには、集められる水の量が、それほど多くないですね。」


「確かに……」


 フレイオが、くたびれるまで炎を出し続けて、お湯を沸かしても、集められる水の量は、たったのコップ一杯分くらいにしかならない。

 このままでは、大魔王の島に着く前に、フレイオが、お湯沸かしの仕事で疲れ果てて、魔法が使えなくなってしまう。

 いったい、どうすればいいんだろう……?


 みんなが、またまた考え込んでしまったところへ、急に、


「たいへんだあ!」


 と、見張りをしていた子供たちの叫び声が聞こえ、みんなは、いっせいにそっちを見た。


「何事だ!?」


「あめ、あめ、あめ!」


 と、タックが叫んで、船の、はるか前のほうを指さした。


「みて、あの、まっくろなくも! どんどん、こっちに、ひろがってくる!」


「いまから、おおあめになるわよっ! かぜもふいて、ふねが、ゆれるかも! きをつけて!」


 チッチが叫んだ。

 ふつう、海の上にいるときに、そんなことを聞いたら、「ええーっ!?」と言いたくなるところだけど、このとき、タックとチッチの言葉を聞いたみんなは、


「やったーっ!」


 と、喜んだ。

 空から降ってくる雨は、真水だ。

 ためて、きれいにすれば、飲み水にすることもできる。

 つまり、これは、大量の飲み水が、一気に手に入る、またとないチャンスだ!


「諸君! 今のうちに、水をためられそうなうつわを、何でもいいから全部、甲板に並べるんだ! 急げ!」


 ガーベラ隊長の号令で、みんなは、水をためられそうないれものを探して、そこらじゅうを駆けまわった。

 空っぽになった飲み水用のたる、水筒のふた、道具入れの箱、タータさんのおなべやフライパン、フレイオの食事用の金属のお皿まで、いろんないれものが、甲板にずらりと並べられた。

 準備万端ととのったところで、辺りが一気に暗くなり、ドザザザザーッと、バケツの水を引っくり返したような大雨が降ってきた。

 強い風も吹いてきた。


「ああっ、お皿が、飛ばされるー!」


「押さえろ、押さえろー!」


 浅いお皿は、けっこうすぐにいっぱいになるから、たまった水を、何度も、たるに移しにいかなくちゃならなくて、けっこう忙しい。


「そうだ、飲み水以外にも、いろいろと、水は必要だ! そっちは、布を使って集めるぞ!」


 ガーベラ隊長が言った。


「みんな、甲板に、できるだけ清潔な布を広げるんだ! 用意できるだけ、全部だ、急げ!」


 みんなは、体を拭くためのタオルや、着がえのシャツなんかを、甲板の、あいているところに、どんどん広げていった。

 布が、雨でびしょびしょになったら、飲み水とは別のたるのところに持っていって、その上で、ギューッとしぼって、水を出す。

 しぼった布は、また、甲板の上に広げて、次の水をしみこませる、というわけだ。


 こうして集めた水は、みんなが顔を洗ったり、体の汗を流したり、服を洗濯したりするのに使う。

 真水が足りない海の上では、飲むための水が何よりも大切だから、飲み水ほどはきれいな水じゃなくてもいい用事には、こっちの水を使って、飲み水を節約するんだ。


 みんなは、濡れた布を持って、何度も何度も、たるのところと甲板を往復した。

 こうして、マッサたちは、雨雲が通り過ぎるまでのあいだに、みんなが使うのにじゅうぶんな量の水を、たっぷりとためることができたのだった。



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