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マッサたちと、ひとつめの危険

「うわああぁーっ!?」


 マッサは思わず叫び、フレイオは、叫びもせずに目を見開いた。

 海の中から、飛ぶ船のところまで飛び上がってきたもの――

 それは、槍みたいに長くて細い体の、何十ぴきもの魚の群れだ!

 口の先が、本物の槍みたいにとがっている。


 ガガガガガッ! と音がして、船体に、何匹もの魚が突き刺さった。

 船に突き刺さらなかった魚たちは、甲板の上を飛び越えて、向こう側の海に飛び込んでいく。


「うおおおおおっ!?」


「わああああぁ!?」


「何だ、こいつらはっ!?」


 ディールとタータさんと隊長が驚いて叫び、


『グオーン、グオーン!』


『ブルルルルルッ!』


 ボルドンも驚いて吠え、ブルーは、びっくりしすぎて気絶してしまった。


「オオグライウオ!」


 チッチが叫んだ。


「えっ!? 何!? この魚の名前!?」


「うん!」


 チッチが、青ざめて叫んだ。


「なんでも、バリバリたべるから、オオグライウオっていうの!

 くちのさきが、とがってて、ふねにでも、クジラにでも、むれで、つきささってこうげきするの。

 それで、あいてをしずめてから、バリバリたべちゃうの!」


「まずい、また来るぞ!」


 姿勢を低くしながら、海のようすをうかがっていた隊長が叫んだ。

 一度は通り過ぎたオオグライウオの群れが、ぐうんと向きを変えて、今度は、反対側から襲ってきたんだ。


 ドバアアアァァァン!


「キャーッ!」


「たすけてぇぇ!」


 ガガガガッ! と船にオオグライウオたちが突き刺さり、子供たちが悲鳴をあげる。

 しかも、今度は、突き刺さらなかった魚たちが、甲板の中に飛び込んできた!


 甲板の上に落ちたオオグライウオたちは、びちびちと激しく跳ね回る。

 まるで、生きた刃物が暴れ回っているくらいに危険だ。

 しかも、あたりじゅうに海水がはね飛んで、びしょ濡れになり、足元がすべる。

 みんなは、慌ててオオグライウオから離れた。


「おい、気をつけろ! 全員が、片側だけに寄るな! 船が傾くぞ!」


 ガーベラ隊長が叫んでいるけど、子供たちは逃げるのに必死で、それどころじゃない。

 みんなが悲鳴をあげながらすみっこに走って集まったので、ギギギィ、と音を立てて、船が傾きはじめた。


「いかん! ……そうだ、ボルドン! 一歩、反対側へ!」


『グオッ!?』


 気絶したブルーを抱っこしていたボルドンは、急に呼ばれてびっくりしたみたいだったけど、


「反対側、反対側! そっちだ! そっちへ、一歩だけ、動いてくれ!」


 ガーベラ隊長が、大きな身振り手振りで、必死に伝えると、


『……グオ!』


 ボルドンは、ブルーの通訳がなくても、言われていることが何となく分かったみたいで、一歩だけ、子供たちと反対側に動いた。

 大きな体のボルドンが動いて、釣り合いをとってくれたおかげで、なんとか船の傾きは止まり、ゆっくりと元に戻った。


「うおおおっ! このやろ、このやろ! ……うおっ、危ねえ!」


 ディールが、甲板の上のオオグライウオを槍で突いてしとめようとするけれど、相手はびちびちと激しく暴れているし、口の先が突き刺さったらこっちも大けがをするので、なかなか近づくことができない。


「また、来ますよ!」


 海のようすをうかがっていたタータさんが叫んだ。


「お母さん!」


 マッサは、必死で叫んだ。


「船を、もっと高く上げて!」


「ええ、今、やろうとしているのだけど……!」


 アイナファール姫は、両腕を高くあげながら、険しい顔をしている。


「今は、みんなが乗っているから、私一人のときのように、簡単には持ちあがらないわ……!」


「ええっ!」


「来るぞっ!」


 ガーベラ隊長が叫ぶ。


 ドバアアアァァン!


 爆発のような水音を立てて、オオグライウオの群れが飛び上がってくる。

 マッサは、お母さんの体にしがみついた。

 自分が怖かったから、というのもあるけど、《守り石》の力で、お母さんを守ってあげようと思ったんだ。

 でも、これだと、自分とお母さんは守れても、他のみんなは――!?

 と、そのときだ!


「炎よ!!」


 ブワアアアアッ!! と真っ白な光が広がり、みんなは思わず腕で目をおおった。

 白い光の正体は、フレイオの炎の魔法だ。

 フレイオは、船べりから外に両腕を突き出し、飛び上がってくるオオグライウオたちに、最強の威力の炎をあびせかけた。


 赤い炎よりも、ずっと温度が高い、白い炎だ。

 炎の中に突っ込んだオオグライウオたちは、一瞬にして、ジューッ! と、焼きすぎた焼き魚みたいに、真っ黒な炭になってしまった。


「おおーっ!? すげえぞ、フレイオ!」


「やった! すごい!」


 ディールとマッサが同時に叫び、子供たちが歓声をあげる。

 フレイオは、くるっと振り向くと、


「炎よ!」


 と叫んで、今度は、甲板の上にいるオオグライウオに向かって、炎をあびせかけた。

 もちろん、船そのものが燃えてしまったら大変なので、今度のは、威力を調節した赤い炎だ。

 甲板の上をびしょ濡れにしながら暴れて回っていたオオグライウオたちは、たちまち、こんがりと焦げて、シュウシュウと湯気をあげた。

 フレイオは忙しく反対側の船べりに移動し、また、しつこく飛び上がってくるオオグライウオたちに、


「炎よ!」


 ブワアアアァァアツ!


 と、白い炎をおみまいする。

 そうしているうちに、


『ハッ! なに? ……おいしいにおい、する!』


 あたりに漂う香ばしいにおいに、気絶していたブルーが飛び起きて、鼻をぴくぴくさせた。


『フンフンフン……おいしいにおい!』


 ブルーは、たたたたたっとオオグライウオの焼き魚のそばに走っていくと、あんぐりと口を開けて、ガブッとかじった。


「わーっ!? ブルー! そんなものかじって、お腹を壊したら――」


『あつい!』


 ブルーは、ぶわっと尻尾の毛をふくらませながら叫んだ。


『けど、おいしい! けど、あつい! けど、おいしい!』


 そう言いながら、ブルーは、オオグライウオの焼き魚を、むしゃむしゃむしゃ! とかじる。


「それ、ほんとっ?」


 と、子供たちが、目を輝かせた。


「ほんとに、たべられるの?」


「ねえ、ほんとに、おいしい?」


「どくじゃない? おなかが、いたくなったりしない?」


『おなか、いたくない! おいしい! あつい! おいしい!』


「……どうやら、大丈夫みたいですよ。」


 長い指先で、オオグライウオの焼けた身をちょっとつまんで口に入れたタータさんが、よくよく噛んでみてから、言った。


「変な味もしません。むしろ、すごく、おいしいですね! 皮についた海の水の塩味が、ちょうどよくて、香ばしい、おいしい焼き魚になっています。」


「やったー!」


 子供たちは大喜びで、オオグライウオの焼き魚のまわりに集まり、むしゃむしゃと食べ始めた。

 何しろ、これまでずっと、ぶよぶよの海藻とか、小さな貝とかしか食べていなかったんだ。

 オオグライウオの焼き魚は、久しぶりの、大ごちそうだ!


 モグモグモグ……


「おいしーい!」


「やきざかな、さいこう!」


「うまい、うまいよー!」


 海辺で生まれ育った子供たちらしく、みんな、じょうずに魚の骨をつまみ出してよけ、美味しいところだけを、むしゃむしゃ食べている。


「おいっ、お前らだけで、全部食うなよっ!? 俺たちのぶんも、残しとけよ!」


「思わぬところで、食料が手に入ったな。」


 ガーベラ隊長が、嬉しそうに言った。

 この船を襲ったら、焼いて食べられてしまう! ということが分かったのか、オオグライウオたちもあきらめたらしく、もう、襲ってこなくなっている。


「こいつらの攻撃を防ぐことができたのも、食料が手に入ったのも、すべて、フレイオのおかげだ。感謝するぞ。」


「いえ。」


 隊長の言葉に、フレイオは、あいかわらずそっけない口調で、でも、ちらっと隊長の顔を見て、答えた。


「私は、自分にできることを、しただけですよ。」


「いや、そう、謙遜すんなって! すげえぞ! 俺の槍では、こいつらを、全然しとめられなかったからな。さすがは、フレイオだぜ!」


 と、興奮したディールに、ばんばんと背中を叩かれて、


「い、いえ、それほどでも……ゴホッ、ゴホッ。」


 と、フレイオがむせているうちに、


「じゃあ、ぼくも、いただきまーす!」


「私ももらうぞ。いただきます!」


「私も、少し、いただこうかしら。」


 マッサ、ガーベラ隊長、そしてアイナファール姫も、オオグライウオの焼き魚をもぐもぐ食べた。


「おいしい! この魚、すごくおいしいね!」


「まさか、あの凶悪な魚が、こんなにうまいとは。……そうだ、残った分は、よく焼いて、潮風にあてて乾かしておけば、少しは保存ができるかもしれません。」


「まあ、美味しい! とっても香ばしくて、塩気がちょうどいいわね。」


 と、みんな、大満足だ。

 炎と煙しか食べないフレイオと、岩しか食べないボルドン以外は、みんな、久しぶりに、お腹いっぱいになるまで食べることができた。


「あたし、おなか、いっぱーい!」


「ぼくも! くるしい! でも、しあわせ!」


『モグモグモグモグ……』


「ブルーのやつ、まだ食ってるのかよっ!? 俺は、もう、食いすぎて、腹が出ちまったぜ……」


 こうして、主にフレイオの力で、みんなは、《惑いの海》で待ちうける危険の、ひとつめを乗り越えることができたのだった。



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