表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/245

マッサ、困る

「お母さん。」


 甲板の真ん中に立って、あたりを見回し、首をかしげながら、マッサは言った。


「この船、帆を張るためのマストが、一本もないみたいだけど……?」


「ええ、そうよ。」


 アイナファール姫はうなずいた。


「だって、この船は、風の力で進む船ではないのだもの。この船は、私の魔法の力で動いているの。ほら、見ていてね。」


 アイナファール姫は、船のへさきのほうへ進み出ると、大きく両手を広げて、何かを持ち上げるように、ゆったりと腕を動かした。

 すると、ふわあっと、巨大な船が浮き上がる感触があった。


「うわあっ! とんだ! とんだ!」


「すごい、すごい、すごい! あたしたち、とんでる!」


「ぼくたち、とぶふねにのってるんだ!」


 子供たちは、大はしゃぎで、


「こら、危ねえって! 船べりから、身を乗りだすな! 落ちたら、死んじまうんだぞ! こら! そんなふうに、体を、乗りだすなっての!」


 と、ディールが大慌てで、みんなに注意して回っている。


 船は、だいたい建物の三階か四階くらいの高さまで上昇すると、へさきを前にして、ぐんぐんと風を切って進みはじめた。

 マッサは、船べりをしっかりつかんで、落ちないように注意しながら、下を見おろした。

 水晶でできた、何十本ものオールが、船体に開いた穴から、ずらりと並んで突き出している。

 その、何十本ものオールが、水を漕ぐみたいに、ぐうん、ぐうんと一斉に動いて、空気を漕いでいる。

 全部のオールの動きが、ぴったりとそろっていて、まるで、ものすごくチームワークのいい水夫たちが、掛け声に合わせて漕いでいるみたいだ。


「お母さん、あのオール、誰が漕いでるの?」


「誰も、漕いでいる人はいないわ。全部、私の魔法の力で動いているのよ。」


「お母さんって、すごいなあ。」


 マッサは、心の底から感心して言った。

 マッサは、自分が空を飛ぶことしかできないけど、お母さんは、こんな巨大な船を空中に浮かばせたり、好きなように動かしたりすることまでできるんだ。

 マッサが、お母さんと話していると、子供たちが、なんとなく、そばに集まってきた。


「おうじさまのおかあさん、きれいね。」


 チッチが言った。


「あたしのおかあちゃんは、おうじさまのおかあさんとちがって、そんなに、びじんじゃないわ。でも、つくるおりょうりは、せかいいち、おいしいの。」


「まあ。」


 アイナファール姫は、にっこり笑った。


「じゃあ、あなたのお母さまに会ったら、お料理を習ってみたいわ。私、お料理は、そんなに得意じゃないの。」


「そう? じゃあ、あたし、おかあちゃんに、おりょうり、おしえてくれるように、たのんであげるね!」


「ええ、ぜひ、お願いね。」


「ぼくのおかあちゃんは、ぼくがねるときに、いつも、おはなししてくれるんだよ!」


 タックが言った。


「おかあちゃんは、りょうしのしごとでつかれてるけど、ちょっとだけ、ぼくに、おはなししてくれるの。それで、ぎゅーってだっこしたり、あたまをなでてくれる。」


「まあ。」


 アイナファール姫は、また、にっこり笑った。


「優しいお母さまね。きっと、あなたのことが大好きだから、そんなふうになさるのね。」


「ぼくも、おかあちゃんのこと、だいすき。」


 タックは、えへへと笑って、急に、アイナファール姫にしがみついた。


「わあ、いいにおい! なんか、おはなみたいな、いいにおいがする!」


「まあ、そう?」


「あたしも、あたしも、ぎゅーってする!」


「ぼくも、ぼくも!」


「あたしも!」


 たちまち、アイナファール姫のまわりには、子供たちがぎゅーっと集まって、まるで、子供たちのかたまりみたいになった。


「ほら、ほら、みんな、もう離れて、離れて!」


 マッサは、慌ててそう言いながら、ひとりずつ、両肩を持って、子供たちをはなしていった。


「お母さんは、今、この大きな船を、動かしてるさいちゅうなんだから! みんなが、ぎゅーってしたら、お母さんが、船を動かすのに、集中できないよ!」


 マッサは、口ではそう言ったけど、本当の理由は、なんだか、自分のお母さんがとられそうになっている気がして、ちょっと嫌だったからだ。

 チッチとタックは、最後まで、マッサのお母さんにくっついていたけど、


「もう、チッチとタックも、離れて、離れて!」


 と、マッサに言われて、しぶしぶ、


「はぁーい。」


「わかったぁ。」


 と、マッサのお母さんから離れた。

 そこへ、ちょうど、ディールが、


「おい、子供たち、集まれーっ!」


 と、号令をかけた。


「いいか、大魔王の島に着いたら、お前たちは、この船に残って、隠れとかなきゃならねえ。

 だが、もし、この船が大魔王の手下に見つかっちまったら、戦いになる可能性もある!

 俺たちは、大魔王と戦うのに忙しくて、お前たちを守ってやる暇が、ねえかもしれねえ。

 だから、お前たちが、自分で自分の身を守れるようになるために、今から、俺たちが、お前たちに、戦い方の特訓をする!」


「ええーっ!」


「わたしも、教えますよ。」


 ディールの横で、タータさんも、にこにこしながら言った。


「ええーっ!」


「あの、すっごいパンチも、おしえてくれる?」


「つよそう! おしえて、おしえて!」


 子供たちは、あっという間にディールとタータさんのまわりに集まって、戦い方の特訓をしはじめた。


 もちろん、子供たちはみんな、体が小さくて、力も弱いから、まともに戦ったのでは、猿の海賊たちに勝つことはできない。

 だから、特訓というのは、何人かでチームになって、ぐるぐる動いて敵を混乱させたり、何人かが注意を引きつけているあいだに、後ろから別の何人かが攻撃したりという、チームワークを工夫した戦い方の訓練だ。


「待て、待て、みんな。」


 と、ガーベラ隊長が、特訓をしているみんなに、慌てて言った。


「練習は、できるだけ、甲板の真ん中あたりに集まってするように。

 特に、全員が一気に片側の船べりに集まるのは、絶対にだめだ。

 全員がいっせいに船の片側に寄ると、みんなの体重で、船が、そちら側に傾いてしまう。

 そうなると、船がバランスを崩して、最悪の場合、転覆することもあるからな。」


「分かりましたぜ、隊長! おい、みんな、分かったか? 船のはしっこには、集まるんじゃねえぞ。」


 ディールが言うと、子供たちはみんな、


「はーい!」


 と、元気に返事をした。

 何だか、ディールが、まるで、学校の先生みたいだ。


(そういえば……)


 と、マッサは思った。

 最初に会ったときも、ディールは、ぶつぶつ言いながらもマッサを案内してくれたし、『青いゆりかごの家』に暮らしているガッツたちとも、仲がいいみたいだった。

 ディールは、しゃべり方が乱暴で、怖く見えるときもあるけど、実は、意外と、子供好きなのかもしれない。

 マッサが、そんなことを考えているあいだに、ガーベラ隊長は、


「特に、ボルドン。きみは体が一番大きく、体重も重いのだから、急にあっちへ行ったり、こっちへ行ったりせず、いつも、甲板の真ん中あたりに、どっしり構えていてもらいたい。」


 と、ボルドンにも注意をしていた。


『グオオオーン。』


 頭の上にちょこんと乗ったブルーに通訳をしてもらって、隊長の言葉がよく分かったボルドンは、甲板の真ん中に、どっしりと座り込んだ。


「……あれ、フレイオは?」


 ふと気づいて、マッサが見回すと、フレイオは、一人、みんなから離れて船べりに立ち、じっと海を見おろしていた。


「ねえ、フレイオ、どうしたの?」


 マッサは、フレイオに近づいて、声をかけた。


「ガーベラ隊長が、あんまり、端っこに寄っちゃだめだって言ってたよ。みんな、できるだけ、真ん中にいたほうがいいんだって。」


 でも、フレイオは、返事をしなかった。

 マッサが声をかけたことにも気づいていないような様子で、じっと、海を見おろしている。


「フレイオ? ……ねえ、フレイオってば。」


 とんとん、とマッサが軽く肩を叩くと、フレイオは、はっとした様子で、


「ああ。」


 と言った。

 まるで、たった今、声をかけられていたことに気づいた、というような様子だ。

 でも、視線は、じっと海面に向けたままだった。


「どうしたの、フレイオ? ぼーっとして。」


「いえ。……ちょっと、海を見ていたんですよ。いつ、どこから、敵がやってくるか分かりませんから。」


「ああ、見張りっていうこと?」


「ええ。何しろ、ここは《惑いの海》と呼ばれているくらいですからね。飛ぶ船に乗っているからといって、油断はできません。いつ、どんなことが起こるか、警戒を――」


 そこまで言って、フレイオが、急に言葉を切り、船べりをつかんで、身を乗りだした。


「ちょっと!? フレイオ、危ないよ! どうしたの?」


 マッサがきくと、フレイオは、


「いや、今、何かが――」


 と呟いて、首をかしげながら、体を起こした。


「マッサは、見ませんでしたか?」


「えっ。何を?」


「今、何か、巨大な黒いものが、すごい速さで、海の中を……この船の真下を、通っていったような――」


「えっ!?」


 その、瞬間だ。


 ドバアァァァン!!!


 すさまじい波しぶきをあげて、が、海の中から、船をめがけて飛び上がってきた!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ