王子と七人の仲間、そして……
マッサの言葉に、アイナファール姫は、にっこり笑った。
「私で、ちょうど七人目だったのね。よかったわ。間に合わなかったら困ると思って、こうして、大急ぎで駆けつけてきたの。……さあ、みなさん!」
アイナファール姫がさっと両手を振ると、船べりから、まるで小さな滝のように、光の粒がきらきらきらっと輝きながら落ちてきた。
その光は、すぐに固まって、水晶みたいな素材でできた、透明なはしごになった。
「急いで、この船に乗ってちょうだい。私が、みなさんを、大魔王の城まで連れていきます。さあ、マッサ、最初は、あなたから。」
「うん!」
マッサは、元気よくうなずいて、はしごに両手と両足をかけたけど、ちょっと心配になって、
「ねえ、このはしご、みんなが使ったら、途中で折れたりしない?」
と、きいた。
マッサくらいの子供なら、体重もそこまで重くないけど、武器や鎧を身に着けている隊長たちや、めちゃくちゃ体が大きいボルドンが使ったら、はしごが、重みに耐えきれずに、バキンと折れてしまうかもしれない。
でも、アイナファール姫は、ゆったりとかぶりを振った。
「そのはしごは、見た目は華奢かもしれないけれど、私の魔法でできているのですから、そう簡単に折れたりしません。皆さん、安心して登ってきて大丈夫ですよ。」
「うん!」
マッサは、一気にはしごを駆け上がり、お母さんのとなりに立った。
そのあとにすぐ、ブルーも元気よく駆け上がってきて、マッサのとなりに立った。
ガーベラ隊長、ディール、タータさん、そしてフレイオも、続々と上がってきた。
最後に、ボルドンが、こんなに細いところに乗って、本当に大丈夫かな? という顔で、はしごをつついているのを見て、アイナファール姫は、もう一度、さっと両手を振った。
すると、透明なはしごは、まるで水あめでできているみたいに、ニューンと形を変えて、たちまち、ボルドンにちょうどいい大きさになった。
見ていた子供たちが、
「すごーい!」
「まほうだ、まほうだ!」
と叫ぶなか、ボルドンは、にこにこしながらはしごを登って、マッサたちのところへ上がってきた。
「よかったね、ボルドン!」
『グオーン!』
嬉しそうに吠えたボルドンに向かって、アイナファール姫は、にっこりと笑いかけた。
「あなたが、ボルドンさんね。あなたのおじいさまや、おばあさまが、魔法で柱に閉じ込められていた私を、お城まで担いで運んでくださったこと、本当にありがたかったわ。感謝しています。」
『ウオン、ウオーン。』
ブルーに通訳してもらったボルドンは、誇らしそうに吠えた。
『マッサのおかあさん、ボルドンのなまえ、しってた! ぼくは? ぼくは?』
と言ったブルーに、
「ええ、あなたのことは、もっと前からよく知っていますよ、プルルプシュプルー。」
と、アイナファール姫はうなずいた。
「あなたは、お城の庭に暮らしている、イヌネコネズミウサギリスの御夫婦の息子さんでしょう。私は、昔、赤ちゃんだったころのあなたを見たこともあるのですよ。」
『そう、ぼく、プルルプシュプルー! でも、それだけじゃ、ない!
マッサがくれたなまえ、ある。だから、ぼく、ブループルルプシュプルー!』
「まあ、そう。マッサが、あなたに名前を……」
そう言いながら、お母さんがマッサの肩に優しく手を置いたので、マッサは、もうちょっとで心臓が止まっちゃうんじゃないかと思うほど、胸がぎゅーっとした。
お母さんと触れ合ったのは、これが初めてだったからだ。
いや、赤ちゃんの頃には、抱っこしてもらったこともあるのかもしれないけど、覚えているうちでは、これが、人生で初めてだ。
マッサが、嬉しいような、ちょっとだけ恥ずかしいような気持ちで、ぼうっとなっているうちに、アイナファール姫は、さらに続けた。
「そして、あなたがたのことも、もちろん知っています。母から聞きましたからね。あなたは、《草原を見張る目》の一族の、タータさん。」
「ええ、そうです、そうです! どうぞよろしく。」
タータさんは、にこにこしながら挨拶した。
「そして、あなたは、東の賢者ベルンデール殿の弟子、フレイオさん。ベルンデール殿のかわりに、七人の仲間に入ってくださったそうですね。」
「その通りです。」
フレイオは短く言って、うやうやしく頭を下げた。
「よっしゃあ! 俺たち六人と、姫さんを入れて、七人。これできっちり、七人の仲間がそろったってわけだ!」
景気よく両手を打ち合わせてディールが叫び、隊長に、シーッ! と注意される。
「それじゃあ、マッサ。そろそろ出発しましょうか?」
「……あっ。ちょっと、待って!」
ぼうっとしていたマッサは、お母さんに呼びかけられて、はっと我に返り、慌てて言った。
「チッチや、タックたちに、あいさつをしなくちゃ! ……ぼくが戻ってくるまで、絶対、出発しないで待っててね。」
マッサはそう言うと、急いで、はしごを降りて、砂浜の子供たちのところに行った。
「あれ、おうじさまの、おかあさん?」
タックが、いいなあ、というような顔で言った。
「すっごく、きれいね。」
と、チッチも言った。
「うん、ありがとう。……みんな、本当に、いろいろありがとう! いかだは、壊されちゃったけど、ぼくたち、この船に乗って、大魔王をやっつけてくるね!」
そう言ったマッサは、きっと、子供たちは、
「いってらっしゃい! がんばって!」
「ぜったい、だいまおうを、やっつけてね!」
「おとうちゃんや、おかあちゃんたちを、たすけてあげてね!」
と、言ってくれるだろうと思っていた。
でも、子供たちは、黙ったまま、何だか、もじもじしている。
「あれっ? みんな、どうしたの?」
「うん……えーっと……あのね。」
チッチが、こんなことを言っていいのかどうか、迷うなあ、という顔で、ぼそぼそと言った。
「あのね。……あたしたちも、つれていってくれない?」
「……えっ?」
「あたしたちも、このおふねにのせて、つれていってくれない?」
「……ええっ!?」
マッサは、びっくりしてしまった。
「ぼくも! ぼくも、いきたい!」
「わたしも!」
「あたしたちも、いきたい!」
子供たちは、口々に叫んだ。
「ねえ、おうじさま、おねがい!」
チッチが、マッサの手をしっかりと握って言った。
「あたしたちも、つれてって!
あのね、いかだのときは、むりだとおもったの。だって、みんながのるばしょなんか、ぜんぜん、なかったでしょ。
でも、このおふねなら、すっごくおおきいから、あたしたちも、のれるとおもうの!」
「ぼくたち、はやく、おとうちゃんやおかあちゃんに、あいたいんだ!」
タックが叫んで、他の子供たちがみんな、
「そう、そう、そう!」
「おねがい、おねがい!」
と、口々に叫んだ。
「ええーっ……!?」
マッサは、困った。
意地悪のつもりじゃあ、まったくない。
これから、マッサたちは、《惑いの海》をこえて、大魔王の島に行って、大魔王と対決しなくちゃならないんだ。
どこで、どんな戦いが起きるか分からないし、そうなったら、子供たちみんなを守ってあげられるかどうかも、わからない。
それに――
予言で《王子と、七人の仲間》と言われているのに、勝手に人数を増やしちゃって、いいんだろうか?
「おねがい、おねがい、おねがい!」
子供たちは叫んで、マッサのまわりに、わあっと集まってきた。
「つれてって、つれてって!」
「おかあちゃんにあいたい! おとうちゃんにあいたい!」
「じいちゃんや、ばあちゃんたちがげんきか、しんぱいなの!」
「あたしたちも、おふねにのせて!」
「ぼくたちも、おふねにのせて!」
「えええーっ……!?」
マッサが、どうにも決められなくて、困り果てていると、
「いいんじゃ、ないですか。」
と、急に、言った人がいた。
マッサと子供たちが、みんな同時に船べりを見上げると、驚いたことに、それは、フレイオだった。
「まあ、いいんじゃないですか、別に。」
と、フレイオは、みんなに見られて恥ずかしくなったのか、ぼそぼそと、早口に言った。
「予言にあった言葉は《王子と七人の仲間》ですよね。だから、そこさえ、変えなければいいんじゃないですか。」
「えっ? それって……どういうこと?」
「だから……《王子と七人の仲間》……と、村の子供たち、と、いうことで。
付け足しみたいなもの、と考えれば、別に、構わないんじゃないでしょうか?」
「えっ、あっ……あーっ、そうか、なるほど!?」
言われてみれば、フレイオの言う通りかもしれない。
これが、仲間が六人しかいない、とかいうことだったら、予言がかなっていないことになるから、困る。
でも、《王子と七人の仲間》は、ちゃんと集まっているんだから、そこに、他のメンバーが付け加わっても、別にいいんじゃないか? ってことだ。
「なあるほど! そりゃ、確かに、名案だぜ。」
と、ディールが大きな声で言った。
「だって、猿の海賊どもに、家までぶっ壊されちまったから、子供だけで村に残ってるのも、危険だからな。
連れてってやれるなら、そのほうが、安全かもしれねえ。子供たちは、戦いのときには、船に残ってりゃいいんだからな。
いやあ、さっすが、フレイオだぜ! 屁理屈を考えさせたら、天才的だな!」
「いえいえ、そんな、……って、誰が、屁理屈の天才ですかっ!?」
フレイオが思わず叫んで、みんなも、思わず、わっはっはと笑った。
「お母さん!」
マッサは、船べりに立って見おろしているお母さんを見上げた。
「そういうわけなんだけど……この船に、この子供たちをみんな、乗せてあげることって、できるかな?
みんな、大魔王に家族をさらわれちゃって、この村には、子供たちだけしかいないんだ。ぼくたちが出発したら、子供だけで、残されることになっちゃう。」
「ええ、もちろん!」
アイナファール姫は、ぽんと頼もしく胸を叩いて言った。
「とっても小さな子ばかりですもの。何人乗ったって、この船は平気よ。たとえ、ボルドンさんが、あと十人乗ったって、沈んだりしませんよ。」
「やった! みんな、大丈夫だって!」
そうマッサが言った瞬間、
「やったあー!!!」
と、子供たちは大歓声をあげて、我先にはしごに飛びつき、よじ登りはじめた。
「いたーい! だれかが、ぼくのてを、ふんだよう!」
「ちょっと、おさないでよっ! おっこちる!」
「あたしが、さきにのぼる! あたしが、さき!」
「ちがうよ、ぼくだよ! ぼくが、さきだってばっ!」
「おすな、おすな!」
「――静かにーっ!!」
はしごの上から顔を出したガーベラ隊長が、ものすごい剣幕で叱ったので、はしごの上で大げんかを始めそうになっていた子供たちは、一瞬にして、しーんとなった。
「いいか、諸君! この船に乗るということは、諸君は、我々と共に大魔王と戦う仲間なのだ!
それなのに、つまらないけんかなどしていて、どうする! それぞれが、勝手なことをしていたら、諸君の大切な家族を助けることが、できなくなるかもしれないんだぞ!
共にいかだを作ったときのことを思い出して、心をひとつに合わせ、互いに協力してもらいたい! 分かったかな!?」
「はーい!」
「わかったっ!」
子供たちは、すぐにけんかをやめて、近くの子とゆずりあいながら、ちゃんと列を作って、順番に船に乗り込んでいった。
それを見たディールが、うんうんとうなずいて、
「さすがは、隊長だぜ。……おい、いいか、子供たち! けんかは、やめろよ! 仲間どうしで、けんかなんかしてると、ろくなことにならねえからな!」
と言った。
すると、ガーベラ隊長が呆れた顔で言った。
「ディール……今の子供たちのほうが、前までの、おまえとフレイオよりも、すぐにけんかをやめて、えらいと思ったぞ、私は。」
「ええっ!? いや、そんなこと、ねえよなあ? フレイオ。」
「えっ!? いや……うーん。」
フレイオが、複雑な顔で黙りこみ、みんなが、わっはっはと笑った。
さあ、《王子と七人の仲間》と、子供たちを乗せて、いよいよ、船の旅の始まりだ!




