ボルドン、ほえる
バリバリバリーッ! メキメキ、ドシーン!
猿の海賊たちが、子供たちの家を、次々に荒らしていく。
斧で、扉や壁を叩き壊し、家の中に入りこんで、棚や、たんすを片っ端からひっくり返し、中身を床にぶちまけていく。
砂浜の子供たちは、その物音を聞きながら、じいっとがまんしていた。
おうちが、壊されちゃっても、大丈夫。
王子さまたちが、大魔王のところに行って、大魔王も、猿の海賊たちもやっつけて、おかあちゃんや、おとうちゃんを取り返してくれる。
そしたら、みんなで、おうちを直せばいい……
『おかしら、妙ですぜ!』
子供たちを見張っていた、猿の海賊のところに、家を荒らしにいっていた猿の一頭が戻ってきて、報告した。
『ところどころ、扉が、もとから、ついてない家がありますぜ。』
『はあ? ばかやろう、扉なんて、どうでもいいんだ! 王子と、仲間どもは、まだ見つからんのか!』
『いや、あの、そりゃ、まだですが……妙なんですって! 扉だけの話じゃねえ。家んなかに、テーブルだの、いすだの、ベッドだの、そういうもんが、ぜんぜん、ねえ家が多いです。
おまけに、あっちこっちの家の横の物置が、ほとんど、ぶっ壊されて、中のもんが、むき出しで置かれてます。』
『はあ?』
猿の海賊は、顔をしかめて、子供たちをにらんだ。
『おい! おまえら、どうなってるんだ? 家の扉がなかったり、物置がぶっ壊れてたり、こりゃ、いったい、どういうことだ?』
子供たちは、心の中で、ぎくっとした。
扉や、家具や、物置の壁を、いかだを作る材料に使ったことを、怪しまれている。
これは、うまく、ごまかさないと、まずい。
「あ、あ、あの、あの……もやしたの。」
『ああ? 何だと?』
「もやしちゃったの。」
猿の海賊に、ぐうっと顔を近づけられて、チッチは、青い顔をしながら、何とか言った。
「ふゆ、うみから、めちゃくちゃつめたいかぜが、びゅうびゅう、ふいてくるから、さむくて、こごえちゃうとおもって……それで、いろんなところから、きを、あつめて、ひを、たいたの。でないと、しんじゃうから。」
チッチのことばに、子供たちはみんな、うんうんうん、とうなずいた。
『何だと?』
猿の海賊は、ますます顔をしかめて、ますます、チッチに顔を近づけた。
『そりゃあ、ずいぶん、妙な話だなあ、おい?』
「えっ、えっ……なにが、ですか?」
『とぼけるな!』
猿の海賊が怒鳴って、チッチの顔に、くさいつばがかかった。
『風が吹いて、寒いというんなら、扉を壊すはずは、ないだろうが! 扉がなくなったら、家んなかに、まともに風が入ってくるんだからな。
おまえの言ってることは、おかしい! こりゃあ、怪しいぞ……』
と、そのときだ。
『おかしらーっ!』
と、鎧をがちゃがちゃいわせながら、手下の猿たちが、駆け戻ってきた。
『おっ、どうした!? 王子と、仲間どもが、見つかったか!?』
『いや、違います!』
『ばかやろう! それじゃあ、何を、そんなに大騒ぎして戻ってくることがあるんだ!』
『いひひひひ、いいものが、あったんですよ。これです!』
猿の一頭が、きれいな花のもようがついた、四角い箱を差し出した。
猿が、ぱかっとふたを開けると、箱の中には、おいしそうな色のキャンディが、いくつも入っていた。
『ほら、見てくださいよ! これは、あまーいやつですぜ! 床の下に、隠してあったやつを、見つけました!』
『何だと!』
猿の海賊のかしらは、箱をとりあげて、中身のにおいをかいだ。
『前に、この村を荒らしたとき、食い物は、全部うばったと思っていたが、まだ、隠していやがったのか。よし、これは、俺たちのものだ! 分捕り品として、船に持って帰るぞ。』
「だめーっ!」
そう叫んで、飛び出したのは、ひょろっとした、三つ編みの女の子だった。
背中に、小さな小さな弟を、おんぶしている。
「それ、うちのキャンディよ! かえして! ずっとまえに、おとうちゃんが、あたしのおたんじょうびに、かってくれたんだもん!
おとうとが、ないちゃったとき、おゆに、とかして、ちょっとずつ、のませてあげるんだもん! かえして、かえして、かえして!」
『ええい、うるさーいっ!』
箱を取り返そうとした三つあみの女の子を、猿の海賊は、どーんと突き飛ばした。
女の子は、転びながら、何とか背中の弟を守ろうとして、自分の手や足をすりむいてしまった。
「いたーいっ! ああーん、ああーん!」
「あたしの、ともだちを、いじめるなーっ!」
チッチが怒って、猿の海賊にとびかかり、足を、ぼかぼか叩いた。
『ええい、うるさーいっ!』
チッチも、どーんと突き飛ばされて、手や足を、すりむいてしまった。
でも、チッチは、泣きながら、立ち上がって、また猿の海賊にとびかかって、足を、ぼかぼか叩いた。
「チッチを、いじめるなーっ!」
タックも、飛び出して、チッチといっしょになって、猿の海賊の足を、ぼかぼか叩いた。
ちょっとおどかしたら、何でも言うことをきくと思っていた小さな子供たちが、自分に逆らってきたことに、猿の海賊は、すっかり腹をたてて、歯をむき出した。
『この、なまいきな、うるさい、ちびどもめ!』
ばんばーん! と、猿の海賊に叩かれて、チッチとタックは、砂の上に倒れてしまった。
『おまえらなんか、ふみつぶして、ぐっちゃぐちゃにしてやる! かくごしろ!』
*
もう、がまんしている場合じゃない。
「みんな!」
マッサは、叫んだ。
『うん!』
「ええ!」
「おう!」
「行きましょう!」
「はい!」
ブルーと隊長とディールとタータさんとフレイオが、まったく同時に、そう答えて、立ち上がった。
でも、ひとりぶんだけ、返事が聞こえなかった。
「え?」
剣を握りしめたまま、思わず、後ろを振り返ったマッサは、もうちょっとで、
「わああぁーっ!?」
と、叫ぶところだった。
『ゴフゥゥゥゥゥーッ……』
牙をむきだしたボルドンの口から、地鳴りのような唸り声がもれた。
もともと巨大な岩のような姿が、さらに一回り、大きくなったように見える。
ぐらぐらお湯が沸いた鍋のように、ボルドンの体から、ゆらゆらと湯気が立ちのぼっている。
カッと見開かれた目の奥の光が、めらめらと燃えている。
マッサたちが何かを言う前に、バッ……と、ボルドンが地面を蹴った。
速すぎて、強すぎて、まったく、足音がしなかった。
*
『おい! お前たち、よく見ておけよ! 俺に逆らうと、どういうことになるか!』
猿の海賊が、大きく足を上げて、チッチとタックを踏みつぶそうとする。
と、そのとき。
勝ち誇った猿の海賊の上に、ふっ……と黒い影がさした。
『ん?』
と、思わず上を向いた瞬間、
ドスウウウウウウウウン!!
と、巨大な隕石みたいにボルドンの体が落ちてきて、猿の海賊は、一瞬にして、ぺっちゃんこに踏みつぶされてしまった。
もちろん、倒れている子供たちは、ぎりぎり無事だ。
『グオオオオオオオオオオーッ!!!』
怒り狂ったボルドンは、地面を震わすほどの雄叫びをあげ、前脚をぐわんぐわん振り回し、近くにいる猿の海賊たちを、片っ端から、なぎはらいはじめた。
『うぎゃああああああーっ!?』
『た、た、たすけてくれーっ!』
『に、に、にげるな、お前らーっ! この熊を、取り囲めーっ!』
『いっせいに、攻撃するんだーっ! かかれーっ!』
猿たちは、大混乱におちいりながらも、自分たちの数が多いことをたのみにして、ボルドンを取り囲み、めったやたらに攻撃しはじめた。
あっ、危ない! 今まさに、一頭の猿が、ボルドンの真後ろから近づいて、槍で、ぐさっと突き刺そうとしている!
「ええええええーいっ!」
どーん!
その猿が、真横に吹っ飛んで、頭から、砂に、ずざーっ! と埋まった。
吹っ飛ばしたのは、マッサだ!
まるで流れ星のように、マッサが空を飛ぶ魔法で近づいて、全体重をのせたキックで、ボルドンを狙っていた猿の海賊を吹っ飛ばしたんだ。
「ぼくは、ここにいる!」
地面に降り立って、マッサは、叫んだ。
「ぼくが、マッサだ! アイナファール姫の息子、マッサファール王子だ!
子供たちに手出しをするやつは、ぼくと、仲間たちが、ぜったいに許さないぞ!」




