表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/245

ボルドン、ほえる

 バリバリバリーッ! メキメキ、ドシーン!


 猿の海賊たちが、子供たちの家を、次々に荒らしていく。

 斧で、扉や壁を叩き壊し、家の中に入りこんで、棚や、たんすを片っ端からひっくり返し、中身を床にぶちまけていく。


 砂浜の子供たちは、その物音を聞きながら、じいっとがまんしていた。

 おうちが、壊されちゃっても、大丈夫。

 王子さまたちが、大魔王のところに行って、大魔王も、猿の海賊たちもやっつけて、おかあちゃんや、おとうちゃんを取り返してくれる。

 そしたら、みんなで、おうちを直せばいい……


『おかしら、妙ですぜ!』


 子供たちを見張っていた、猿の海賊のところに、家を荒らしにいっていた猿の一頭が戻ってきて、報告した。


『ところどころ、扉が、もとから、ついてない家がありますぜ。』


『はあ? ばかやろう、扉なんて、どうでもいいんだ! 王子と、仲間どもは、まだ見つからんのか!』


『いや、あの、そりゃ、まだですが……妙なんですって! 扉だけの話じゃねえ。家んなかに、テーブルだの、いすだの、ベッドだの、そういうもんが、ぜんぜん、ねえ家が多いです。

 おまけに、あっちこっちの家の横の物置が、ほとんど、ぶっ壊されて、中のもんが、むき出しで置かれてます。』


『はあ?』


 猿の海賊は、顔をしかめて、子供たちをにらんだ。


『おい! おまえら、どうなってるんだ? 家の扉がなかったり、物置がぶっ壊れてたり、こりゃ、いったい、どういうことだ?』


 子供たちは、心の中で、ぎくっとした。

 扉や、家具や、物置の壁を、いかだを作る材料に使ったことを、怪しまれている。

 これは、うまく、ごまかさないと、まずい。


「あ、あ、あの、あの……もやしたの。」


『ああ? 何だと?』


「もやしちゃったの。」


 猿の海賊に、ぐうっと顔を近づけられて、チッチは、青い顔をしながら、何とか言った。


「ふゆ、うみから、めちゃくちゃつめたいかぜが、びゅうびゅう、ふいてくるから、さむくて、こごえちゃうとおもって……それで、いろんなところから、きを、あつめて、ひを、たいたの。でないと、しんじゃうから。」


 チッチのことばに、子供たちはみんな、うんうんうん、とうなずいた。


『何だと?』


 猿の海賊は、ますます顔をしかめて、ますます、チッチに顔を近づけた。


『そりゃあ、ずいぶん、妙な話だなあ、おい?』


「えっ、えっ……なにが、ですか?」


『とぼけるな!』


 猿の海賊が怒鳴って、チッチの顔に、くさいつばがかかった。


『風が吹いて、寒いというんなら、扉を壊すはずは、ないだろうが! 扉がなくなったら、家んなかに、まともに風が入ってくるんだからな。

 おまえの言ってることは、おかしい! こりゃあ、怪しいぞ……』


 と、そのときだ。


『おかしらーっ!』


 と、鎧をがちゃがちゃいわせながら、手下の猿たちが、駆け戻ってきた。


『おっ、どうした!? 王子と、仲間どもが、見つかったか!?』


『いや、違います!』


『ばかやろう! それじゃあ、何を、そんなに大騒ぎして戻ってくることがあるんだ!』


『いひひひひ、いいものが、あったんですよ。これです!』


 猿の一頭が、きれいな花のもようがついた、四角い箱を差し出した。

 猿が、ぱかっとふたを開けると、箱の中には、おいしそうな色のキャンディが、いくつも入っていた。


『ほら、見てくださいよ! これは、あまーいやつですぜ! 床の下に、隠してあったやつを、見つけました!』


『何だと!』


 猿の海賊のかしらは、箱をとりあげて、中身のにおいをかいだ。


『前に、この村を荒らしたとき、食い物は、全部うばったと思っていたが、まだ、隠していやがったのか。よし、これは、俺たちのものだ! 分捕り品として、船に持って帰るぞ。』


「だめーっ!」


 そう叫んで、飛び出したのは、ひょろっとした、三つ編みの女の子だった。

 背中に、小さな小さな弟を、おんぶしている。


「それ、うちのキャンディよ! かえして! ずっとまえに、おとうちゃんが、あたしのおたんじょうびに、かってくれたんだもん!

 おとうとが、ないちゃったとき、おゆに、とかして、ちょっとずつ、のませてあげるんだもん! かえして、かえして、かえして!」


『ええい、うるさーいっ!』


 箱を取り返そうとした三つあみの女の子を、猿の海賊は、どーんと突き飛ばした。

 女の子は、転びながら、何とか背中の弟を守ろうとして、自分の手や足をすりむいてしまった。


「いたーいっ! ああーん、ああーん!」


「あたしの、ともだちを、いじめるなーっ!」


 チッチが怒って、猿の海賊にとびかかり、足を、ぼかぼか叩いた。


『ええい、うるさーいっ!』


 チッチも、どーんと突き飛ばされて、手や足を、すりむいてしまった。

 でも、チッチは、泣きながら、立ち上がって、また猿の海賊にとびかかって、足を、ぼかぼか叩いた。


「チッチを、いじめるなーっ!」


 タックも、飛び出して、チッチといっしょになって、猿の海賊の足を、ぼかぼか叩いた。

 ちょっとおどかしたら、何でも言うことをきくと思っていた小さな子供たちが、自分に逆らってきたことに、猿の海賊は、すっかり腹をたてて、歯をむき出した。


『この、なまいきな、うるさい、ちびどもめ!』


 ばんばーん! と、猿の海賊に叩かれて、チッチとタックは、砂の上に倒れてしまった。


『おまえらなんか、ふみつぶして、ぐっちゃぐちゃにしてやる! かくごしろ!』


     * 


 もう、がまんしている場合じゃない。


「みんな!」


 マッサは、叫んだ。


『うん!』


「ええ!」


「おう!」


「行きましょう!」


「はい!」


 ブルーと隊長とディールとタータさんとフレイオが、まったく同時に、そう答えて、立ち上がった。

 でも、ひとりぶんだけ、返事が聞こえなかった。


「え?」


 剣を握りしめたまま、思わず、後ろを振り返ったマッサは、もうちょっとで、


「わああぁーっ!?」


 と、叫ぶところだった。


『ゴフゥゥゥゥゥーッ……』


 牙をむきだしたボルドンの口から、地鳴りのような唸り声がもれた。

 もともと巨大な岩のような姿が、さらに一回り、大きくなったように見える。

 ぐらぐらお湯が沸いた鍋のように、ボルドンの体から、ゆらゆらと湯気が立ちのぼっている。

 カッと見開かれた目の奥の光が、めらめらと燃えている。


 マッサたちが何かを言う前に、バッ……と、ボルドンが地面を蹴った。

 速すぎて、強すぎて、まったく、足音がしなかった。

 

     *


『おい! お前たち、よく見ておけよ! 俺に逆らうと、どういうことになるか!』


 猿の海賊が、大きく足を上げて、チッチとタックを踏みつぶそうとする。

 と、そのとき。

 勝ち誇った猿の海賊の上に、ふっ……と黒い影がさした。


『ん?』


 と、思わず上を向いた瞬間、


 ドスウウウウウウウウン!!


 と、巨大な隕石みたいにボルドンの体が落ちてきて、猿の海賊は、一瞬にして、ぺっちゃんこに踏みつぶされてしまった。

 もちろん、倒れている子供たちは、ぎりぎり無事だ。


『グオオオオオオオオオオーッ!!!』


 怒り狂ったボルドンは、地面を震わすほどの雄叫びをあげ、前脚をぐわんぐわん振り回し、近くにいる猿の海賊たちを、片っ端から、なぎはらいはじめた。


『うぎゃああああああーっ!?』


『た、た、たすけてくれーっ!』


『に、に、にげるな、お前らーっ! この熊を、取り囲めーっ!』


『いっせいに、攻撃するんだーっ! かかれーっ!』


 猿たちは、大混乱におちいりながらも、自分たちの数が多いことをたのみにして、ボルドンを取り囲み、めったやたらに攻撃しはじめた。

 あっ、危ない! 今まさに、一頭の猿が、ボルドンの真後ろから近づいて、槍で、ぐさっと突き刺そうとしている!


「ええええええーいっ!」


 どーん!


 その猿が、真横に吹っ飛んで、頭から、砂に、ずざーっ! と埋まった。

 吹っ飛ばしたのは、マッサだ!

 まるで流れ星のように、マッサが空を飛ぶ魔法で近づいて、全体重をのせたキックで、ボルドンを狙っていた猿の海賊を吹っ飛ばしたんだ。


「ぼくは、ここにいる!」


 地面に降り立って、マッサは、叫んだ。


「ぼくが、マッサだ! アイナファール姫の息子、マッサファール王子だ!

 子供たちに手出しをするやつは、ぼくと、仲間たちが、ぜったいに許さないぞ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ