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マッサたち、決断する

 海岸は、一瞬にして、大騒ぎになった。

 ええーん、ええーんと泣き出すいちばん小さい子たち、その子たちに、


「ないてるばあいじゃない! なきやんで!」


 とさけぶ、少しだけ大きな子供たち。


「どうします、王子!?」


 ガーベラ隊長にきかれて、マッサは、とっさに、どう答えたらいいのか分からなかった。

 海賊船は、まだ、親指の先くらいの大きさに見えている。


 このまま、強引に船出するか?

 でも、このいかだで、海の上に出て、身動きができないところを、何艘もの海賊船に取り囲まれてしまったら、もう、どうしようもない。


 じゃあ、今から、いかだを降りて、いったん、遠くまで走って逃げるか?

 でも、それなら、子供たち全員を連れていってあげないと、残った子供たちが、ひどい目にあわされるかもしれない。


 そうだ、それに、このいかだは、どうする?

 いかだを、ここに置きっぱなしにしたまま逃げたら、猿の海賊たちに見つかって、こっぱみじんに、叩き壊されてしまうかもしれない。

 そうなったら、大魔王の島に行くための方法がなくなる。

 村には、もう一度、いかだを作り直すことができるほどの材料は、残っていない――


「マッサ!」


 ガーベラ隊長に答える前に、今度は、いかだの前に立ちあがったタータさんから、とんでもない報告が来た。


「海賊船が、どんどん、近づいてきます! さっき、水平線の向こうに現れたばかりなのに、もう、あんなに大きく見える! ものすごいスピードです。あれは、風の力だけじゃ、ありませんよ!」


「もしかしたら……」


 と、フレイオが言った。


「何か、海にすむ、巨大な生き物に、船を引っ張らせているのかもしれません! クジラとか……海にすむ種類のドラゴンなどに。そういう生き物をあやつる魔法があるのです。大魔王が、そういう魔法を使っているのかも。」


「なら、時間がねえってわけだな!」


 ディールは、もう、命綱のロープをぶつりと切って、いかだから飛び降りようとしている。


「このまま船出するのは、無謀すぎる。あっちには、あやつられた、でけえ生き物がついてるかもしれねえんだからな。そんなやつに、体当たりでも食らったら、終わりだ。

 そもそも、海の上での戦いには、海賊どものほうが慣れていやがるからな! こうなったら、腹を決めて、この岸辺で、連中と戦おうぜ!」


「うん……」


 ディールの勢いにおされて、マッサは思わず頷いたけど、心の中では、まだ、迷っていることがあった。

 みんなで作った、このいかだは、どうする?

 いかだが壊されたり、取り上げられてしまったら、もう、大魔王の島に行く方法がなくなる――


『どうする、マッサ!? どうする、マッサ!?』


 リュックサックの中から、ブルーが叫んでいるけど、今は、それで名案が出るどころか、よけいに焦って、頭が混乱するばかりだ。

 そこへ、


「おうじさまっ!」


 チッチの、鋭い叫び声が聞こえた。


「なに、ぼうっとしてるのっ! おりて、おりて! みんな、いますぐに、いかだから、おりてっ!」


「えっ?」


 マッサたちが驚いて振り向くと、ばしゃばしゃ、近づいてきたチッチが、いかだの上にはい上がって、みんなを、両手で、ぎゅうぎゅう押し始めた。


「おりて、おりて! さっさと、おりて! はやく、はやく、かくすのよ!」


「かくす……って!?」


「この、いかだを、かくすのよっ!」


 チッチは、小さな足でじだんだを踏んで、村のそばの林を指さした。


「かいぞくは、たぶん、まだ、こっちのことに、きがついてないわ!

 そのあいだに、あの、はやしのなかに、いかだを、かくすの!

 おうじさまたちも、みんな、かくれて! たたかっちゃ、だめよ!」


「何だと!」


 そう叫んだのは、ディールだ。


「ばかやろう、そんなわけにいくか! 俺たちが、戦わなかったら、おまえらみんな、海賊どもに、やられちまうじゃねえかよっ!」


「だいじょうぶよ。」


 ちょっと青い顔をしながら、チッチは言った。


「あいつら、きっと、おうじさまたちを、さがしにきたんだとおもう。

 あたしたち、なんにも、しらないふり、しとくから。

 さからわなかったら、こうげき、されないわ、たぶん。だから、だいじょうぶよ。」


「だが――」


「はやくっ!」


 ディールや、他のみんなが思わず口を閉じるほどのけんまくで、チッチはどなった。


「ほら、どんどん、ちかづいてくるっ! ここで、ごちゃごちゃいってるひま、ないわ!

 もしも、ここで、たたかいになって、おうじさまたちが、やられちゃったり、いかだが、こわされちゃったりしたら、あたしたちの、おかあちゃんや、おとうちゃんや、いえのみんなを、だれが、どうやって、たすけてくれるの!?

 そんなことになったら、あたしたちみんなが、こまる! だから、はやく、はやく、はやく!」


「王子!」


 ガーベラ隊長が、決断してください、というように叫んで、


「……うん! 分かった!」


 と、マッサも、うなずいた。


「みんな、いったん、いかだから降りて! 武器以外の荷物は、そのままでいい!

 ああ、待って、ボルドンは、最後に降りて! バランスがくずれる!」


 マッサの言葉を、リュックサックの中から、ブルーが通訳する。


『ウオオオーン。』


 ボルドンは、大きな声で吠えて海賊たちに気づかれないように、小さな声で返事をした。

 みんなは、慌てて命綱を切り、次々に、マッサの胸くらいまである海の中に飛び降りた。

 ガーベラ隊長たちは、海水に浸かってさびないように、槍を、頭の上に高くかかげている。

 マッサもまねをして、自分の剣と、ブルーが入ったリュックサックを、頭の上に持ち上げてから、海に飛び降りた。


「みんな、急いで、海からあがって! ボルドン、お願いします!」


『グオオオーン。』


 みんなが急いで離れたところで、ボルドンが、ドッボーン! と、いかだから降りて、いかだから出ているロープをくわえて、どんどん引っ張りはじめた。

 ズザザザザザーッ! と、いかだ全体が砂浜の上に乗り上げると、ボルドンは、いかだの板に鉤爪をひっかけて、ズズズーッ、ズズズーッと、ものすごい力で、いかだを林のほうに引きずっていく。


「ああっ! だめ、だめ、だめ!」


 と、今度は、タックが、慌てて叫んだ。


「いかだを、ひきずっちゃ、だめだよ! ばれる!」


「えっ? どうして? どういうこと?」


で、ばれる!」


 タックが指さした、足元の砂を見て、マッサは、すぐに、どういうことなのか分かった。

 砂の上に、ボルドンがいかだを引きずったあとが、まるで、巨大なかたつむりがはったあとみたいに、くっきりと残っている。

 これを、海賊たちに見られたら、そっちに何かがあるはずだ! と、すぐに見破られてしまうだろう。


「ボルドン、ボルドン! ちょっと、待って! ストップ!」


 マッサが、慌てて言ったことを、すぐさま、ブルーが通訳する。


「引きずると、砂の上に、あとがついちゃうんだ! いかだを、持ち上げて、運ぶことはできる? ごめんね、めちゃくちゃ重いのに、無茶言って……!」


『グオッ、グオッ、ガオーン。』


 できる、できる、平気!

 ボルドンは、そう言って、大きな鉤爪で、しっかりといかだの両端をつかむと、ぐうーんと持ち上げた。

 そして、ミシミシいっているいかだを持ち上げたまま、のっしのっしと、林のほうへ運んでいく。


「みんな、はやく、はやく! あしあとを、けすんだ!」


 タックが叫んで、子供たちは、ボルドンの大きな足跡を、自分たちの足で、ザッザッザッと砂をならして、消した。


 海賊船は、だんだん、だんだん、村に近づいてくる。



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