いかだは、浮かぶか、浮かばないか
マッサたちは、それからも、毎日、みんなで力を合わせて、いかだ作りを続けた。
いろんな仕事があるから、いくつかのチームを作って、同時に、作業をすすめていく。
みんなで集めた、いろんな材料を、のこぎりで切って、だいたい同じはばの板を作るチーム。
いろんな材料から作られた板を、何枚も重ねて、ロープでがっちりと束ねるチーム。
束ねられた材料を、いかだの形に並べて組み立て、ロープでくくりつけるチーム。
作業中に、足りなくなりそうな材料を、村じゅう走り回って、探してくるチーム。
みんながいかだを作っているあいだに、お湯を沸かして、飲み物を作ったり、食べ物を集めて、ごはんを作ったりするチーム。
どのチームがなくても、いかだ作りは、進まなくなってしまう。
どの仕事も、めちゃくちゃ重要な仕事だ。
「ねえ、ねえ、おうじさま。」
「えっ、なに? チッチ。」
「どうやって、だいまおうのしままで、いくの?」
「……えっ?」
急に、何を言い出すのかな? と驚いて、マッサは、チッチを見た。
もしかして、まだ小さいのに、いっしょうけんめい働きすぎて、頭が、ぼうっとなっちゃったのかな?
「どうやって、って……だから、この、いかだに乗っていくんだよ。そのために、みんなで、今、いっしょうけんめい作ってるんでしょ?」
「うん、それは、わかってるけど。」
チッチは、王子様のほうこそ、何を言ってるのかな、という顔で、続けた。
「だから、そのいかだで、どうやって、だいまおうのしままで、いくの?」
「……えっ?」
「いかだは、そのままだと、ただ、そのばに、ぷかぷか、ういてるだけでしょ。
……ううん、ちがった。ただ、そのばに、ういてるだけじゃ、ないわ。しおに、ながされちゃうわよ。
いっしょうけんめい、てで、こいでいくの? それ、むちゃくちゃ、たいへんよ!」
チッチに、そう言われて、マッサは、
「ほんとだ!」
と、思わず倒れそうになった。
「ぼく、そのこと、全然、考えてなかった。うわあ、どうしよう!」
マッサが、頭を抱えてしまいそうになったとき、
「ほ!」
と、タックが言った。
「……えっ? なに?」
「ほ!」
と、タックは、また叫んで、片方の腕を、高くあげた。
「……えっ? だから、なに? 『ほ!』って……」
「だからあ。」
タックは、両足をじたばたして、自分が着ているシャツのすそを、両手で引っ張って、ぴいんと張った。
「ほ! ほ、だってば。ほら、あれ。おふねが、かぜをうけて、すすめるようにするやつ!」
「そうか!」
マッサよりも先に、隣で聞いていたガーベラ隊長が、ばんと両手を打ち合わせた。
「分かったぞ。帆だ! マストのことだ!
いかだに、帆柱をたてて、布を張って、帆を作るんだ。
そうすれば、いかだは、風を受けて進むようになる!」
「なあるほどな!」
ディールも、ばしんと両手を打ち合わせた。
「そうだ、どうせなら、俺たち《銀のタカ》隊の、翼みたいな形にしたらどうです? それを、いかだの両側に、こう、立てて取り付ければ、よく風を受けて、速く進むと思いますぜ。」
「そういうことかあ!」
と、マッサも、やっと分かって、すっきりした。
「じゃあ、帆と、帆柱の材料も、集めてこなくっちゃ! 帆って、大きな布だよね。そうだ、毛布とか、シーツを使うのはどうかな?」
「だめ、だめ! もうふなんて、ぶあつくて、おもすぎるわ。バランスがくずれて、いかだが、ひっくりかえっちゃう。」
と、チッチが言った。
「それに、シーツもだめよ。かぜが、スースーって、とおりぬけちゃう。ほには、ほぬのをつかうのよ。」
「ほぬの、うちにあるよ!」
何人かの子供たちが叫んだ。
「うちの、ものおきに、よびがある!」
「だいまおうのてしたは、ふねは、もっていっちゃったけど、ほぬのは、おいていったんだ。」
「そう、そう! きっと、なにか、わからなかったんだね。」
「ほばしらは、どうする?」
「ねばりのある、きじゃないと、バキーンって、おれちゃうよ。」
「うちの、はしら、つかう?」
「でも……はしら、なくなったら、いえ、こわれない?」
「うーん……」
「ねえ、みんな、まずは、物置とかを探してみてよ!」
さすがに、みんなの住む家が崩れちゃったら大変なので、マッサは、慌てて言った。
「ちょうどいいのが、あるかもしれないし。帆柱にちょうどいい木って、どんなのか、ぼくたちには分からないから、みんなが、探してきてくれる? 運ぶときには、ぼくたちも働くから。」
「うん、わかったー!」
こうして、いかだ作りは、どんどん進んでいった。
帆柱は、ラッキーなことに、新しい帆柱にするために削りかけた木が、二本も見つかったので、ディールが、
「何だこりゃ! 難しすぎるぜ! 全然、削れねえよ! どうなってんだ!」
と、ものすごく文句を言いながら、何とか、かんなで削って、しあげた。
ディールが、あんまり苦労しているから、とちゅうで、ブルーも、
『ぼくも、けずる! ガリガリガリガリ……』
と、鋭い歯で、木をガリガリかじって、手伝ってあげた。
帆布は、物置で見つけたやつを、子供たちが、横棒に、太い針と糸で、がんじょうに縫いつけて、それを、タータさんが、ロープで帆柱に取りつけた。
カーテンみたいに、たたんだり、ひらいたりできる、優れものだ。
こうして、全員がものすごーく苦労した末に、とうとう、いかだの形が、完成した!
「ボルドン、お願いします!」
みんなが集まって、しーんとして、固唾をのんで見守るなか、力持ちのボルドンが、
『グオオオオオーン。』
と吠えて、大きないかだを、前脚で押した。
いかだは、砂浜に敷かれた板と海藻の道の上を、ずずずずずーっと滑って、滑って、海に入り――
「……やったー! やったよ、みんな、浮いてるよーっ!」
堂々と海に浮かんだ、巨大ないかだを見て、みんなは、砂浜の上を飛びはねて喜んだ。
「待って、待って! 次は、乗ってみなくちゃ、分からないよ。
ボルドン、お願いします!」
『グオッ!』
ボルドンは、クマなのに、はっきり緊張していることが分かる顔になって、片方の前足をいかだにかけた。
みんなは、また、しーんとして、固唾をのんで見守った。
仲間たちの中で、いちばん体が重いボルドンが、ひとりで乗ってみて、もし、沈んじゃったら、このいかだでは、だめだってことだ。
みんなで、ここまで、がんばって作ったいかだだ。
どうか、無事に、浮かびますように……!
ボルドンは、まず、片方の前足でいかだを引き寄せてから、そうっと、両方の前足を、いかだの上に置いた。
それから、試すようにして、ぐうっと力を入れた。
いかだは、ミシミシミシ! といって、大きく傾いた。
向こう側のはしが、水面から浮き上がり、ボルドンが押し込んだほうは、水に浸かった。
みんなは、
「ああっ!?」
と言いそうになって、何とか、がまんした。
まだだ。まだ、結果は、分からない――
ボルドンは、しばらく、どうやって乗ったらうまくいくか、考え込むように、じっとして動かなかった。
でも、やがて、心を決めたように、片方の後ろ脚をガバッとあげて、いかだの上にのせた。
いかだが、ミシミシミシミシッ! といって、完全に沈みそうになり、みんなは、我慢できずに、
「あああっ!?」
と叫んだ。
ボルドンは、そのまま、バーン! ともう片方の後ろ脚で水の底を蹴って、全身でいかだの上に乗った。
いかだは、ミシミシミシミシミシーッ!! といって、大きく揺れ、完全に水に沈んだ。
「あああああーっ!!!」
と、みんなが叫んだとき、
ザッバーン!!
と、海水を押し上げて、ボルドンの体も押し上げて、いかだが、海面に姿を現した。
みんなで作ったいかだが、水面に、浮いている。
ボルドンの巨大な体を乗せても、いかだは、沈没しなかったんだ!
『グオッ、グオッ、グオオオオオォォン!』
びしょびしょになったボルドンが、ぶるぶるぶるーっ! と体をふるわせて海水をはね飛ばしながら、喜びの雄叫びをあげた。
みんなは、雨みたいに降ってくるボルドンの水しぶきを浴びながら、
「やった、やった、やったぞおおおおおおーっ!」
と、拳を突き上げて叫んだ。
とうとう、本当に、みんなのいかだが、完成したんだ!




