マッサたち、作る
マッサたちも、子供たちも、ちゃんとした船の作り方をはっきり知らなかったので、作るのは、船じゃなくて、「いかだ」にしようということになった。
「いかだ」というのは、たとえば木みたいな、水に浮かぶものを、ロープなんかで結びあわせて、上に乗れるようにしたものだ。
船だと、いちど、隙間から水が漏れはじめて、中に水がたまったら、たちまち沈没してしまう。
そうならないためには、木と木を隙間なくぴったり合わせて組み立てなくてはいけないが、それには、とんでもない職人技が必要だ。
一度もやったことがない人が、いきなり挑戦して、できるものじゃない。
そんな船と違って、いかだは、それ自体で水の上に浮かんでいるから、水が入ってきて沈没する、という心配はない。
そのかわり、よく浮かぶ材料を、たくさん集めて作らないと、上に乗ったみんなの重さを支えられずに、そのまま沈んでしまう。
だから、準備が大変だ。
「おいおい、これじゃあ、まだまだ、材料が足りねえぜ?」
「じゃあ、もう、うちのものおきを、こわしちゃって、それをつかってよ!」
「ええ? ……でもなあ。」
チッチの言葉に、眉をぎゅっと寄せて、ディール。
「おまえんとこの物置を、完全にぶっつぶすのは、なんか、悪いぜ。それより、あそこに生えてる木を切り倒して、材料に使ったほうがよさそうだな。」
ディールが指さしたのは、村のそばにある、ちょっとした林だ。
でも、それには、ガーベラ隊長が首を振った。
「いや、あの林の木は、切ってはだめだ。」
「ええ? どうしてです? ひょっとして、うまい実がなる種類なんですかい?」
「いや、種類まではわからんが、あれは、防風林だろう。切らないほうがいい。」
『ボウフウリンって、なに? おいしいの!?』
ディールが「うまい実がなる」なんて言ったものだから、ブルーが、興味しんしんで走ってきた。
「いや、防風林というのは、強い風や、潮風を防ぐための林のことだ。あの林は、この村を、海からの風から守っているんだ。だから、むやみに切ってはいけない。」
と、隊長に説明されて、ブルーは、
『おいしいもの、なかった!』
と、がっかりしてしまったけど、
「はあ、防風林ね。なるほどなあ! さすが隊長だ、そんなことまでご存じとは。」
と、ディールは、すっかり感心している。
「じゃあ、チッチ、悪いが、おまえんとこの物置を、いかだの材料に使わせてもらうぜ。大魔王んとこに行って、おまえの父ちゃん母ちゃんに会ったら、俺たちが謝っとくからな。」
「うん、いいよ!」
物置をばらばらにするのは、一番体が大きくて、力持ちの、ボルドンの役目だ。
ボルドンが、大きな鉤爪をひっかけて、ぐいーっと引っ張ると、それだけで、めりめりめりっ! と、打ち付けてあった壁の板がはがれてくる。
その壁の板を、
「ほい、ほい、ほいっと。」
タータさんが、一枚ずつ回収しては、待っているディールや、ガーベラ隊長や、マッサや、フレイオや、子供たちに渡す。
戦士として体を鍛えているディールとガーベラ隊長は、ひとりで何枚もの板を担いで、どんどん運んでいくけど、
「うううーっ、重い!」
「ぬぬぬぬぬ。」
マッサとフレイオが、隊長たちと同じ枚数の板を運ぼうとすると、二人で協力して、やっとだ。
子供たちは、一枚の板を、三人や四人で、力を合わせて運んでいる。
『がんばれ、がんばれ!』
ブルーは、大きな声でみんなを励ましながら、子供たちが、もうちょっとで地面に板を引きずりそうになると、その下に、たたたっと入りこんで、
『フンッフンッフンッ!』
と、思いっきり力を出して、板を下から持ち上げていた。
こうしてみんなは、ときどき休憩をはさみながら、日が暮れるまで働いた。
もちろん、大仕事だから、たった一日では、ぜんぜん終わらない。
マッサたちは、子供たちの家に、泊めてもらうことになった。
「はい、これ、どうぞ! いっぱいたべてね。」
チッチが、おなべいっぱいに茹でた海藻と貝のスープを出してくれた。
黒っぽかった海藻は、お湯でゆでられて、すっかり緑色になっている。
「いただきまーす!」
岩しか食べないボルドンと、炎しか食べないフレイオ以外のみんなは、いっせいに海藻をほおばった。
『モグモグモグ……ムグムグムグ……この、みどりいろ、あじ、ない! ぶよんぶよん!』
「文句を言うな、ブルー。ここの子供たちは、毎日、これを食べているんだぞ。今は、とにかく、腹がいっぱいになるだけでも、ありがたいと思わなくては。」
「あっ、ぼくのお皿に、ちょっとだけ、貝が入ってたよ。やったー!」
「なにっ! おい、マッサ、ずるいぜ! 俺のとこには、入ってなかったぞ。」
「文句を言うな、ディール。静かに食え。……おや、タータさん、どうした?」
「ほへ……ふほんふほんへ、へんへん、はひひへはひんへふへほ。」
「タータさん、何を言っているのか、全然分からんぞ……」
次の日も、またその次の日も、マッサたちは、朝早くから、いかだ作りに取りかかった。
みんなが家から持ってきた、机や、ベッドなんかの家具は、いったん、のこぎりでばらばらにしてから、形をそろえて切って、一枚一枚の板になるようにする。
だんだん、だんだん、いかだの材料がそろってきた。
「タックさん、みんなの家から、集めたロープは、これで、全部ですか?」
「うん、そうだよ!」
山ほどのロープを抱えた、タータさんの質問に、タックは、元気いっぱい答えてから、急に心配そうな顔になって、
「どう? たりる?」
と、きいた。
「ええ、これだけあれば、大丈夫だと思いますよ。ありがとうございます。こんなに、たくさん、集めるのは、大変だったでしょう?」
「ぜーんぜん! へいき、へいき!」
みんなは、たくさん集めた木の板を、何枚かずつ重ねて、まとめた。
それを、タータさんが、子供たちが家から持ってきてくれたロープを使って、ぎゅうぎゅう縛り上げて、束にしていく。
一枚一枚の板だと、弱くて、強い波を受けたら、バリーンと割れてしまうかもしれないけど、何枚も合わせて縛れば、強く、がんじょうになるというわけだ。
タータさんは、ロープを扱う達人だから、縛った結び目も、めちゃくちゃ固く、しっかりしていて、
「これで、絶対にほどけないと思いますが、どうでしょう? ちょっと、引っ張ってみてください。」
「ぬぐぐぐぐぐぐぐ。」
「むむむむむむ!」
と、ディールと隊長が、思いっきり引っ張ったり、ねじったり、揺さぶったりしてみても、びくともしなかった。
板の束が、たくさんできたら、今度は、それを組み合わせて、いかだの形を作らなくちゃならない。
「まって、まって!」
砂浜で、さっそく作業に取りかかろうとしたマッサたちを、子供たちが、あわてて止めた。
「えっ、何? どうしたの?」
「ここで、くみたてちゃ、だめよ。」
チッチが言った。
「ぜんぶ、できあがったら、いかだは、めちゃくちゃ、おもくなるでしょ。
そしたら、みずのうえまで、はこべなくなっちゃう。
だから、みずのうえで、くみたてるの。」
「ぼくたち、あそびで、いかだをつくるとき、いつも、そうするんだよ!」
と、タックも教えてくれた。
「なるほど!」
と、ガーベラ隊長が、感心して言った。
「さすがは、海辺で生まれ育った子供たちだ。経験にもとづいた意見だな。では、波打ち際で組み立てるか?」
「でも……作ってるあいだに、もしも、大波が来たら、材料が流されちゃうんじゃない?」
と、マッサは、気になったことを言った。
「遊び用の、小さいいかだだったら、すぐにできるから、いいと思うけど……このいかだは、大きいから、完成するまでに、けっこう時間がかかるよ。
そのあいだ、どうやって、同じ場所にとめておくの? ずっと、誰かが持って、押さえとく? 大変じゃない?」
「あっ、そうかー!」
と、タックが叫んだ。
「おうじさまの、いうとおりだ。どうしよう。」
すると、フレイオが、
「船をとめておくための、碇というものがあるでしょう。いかだから、太くてがんじょうなロープを垂らして、その先に、重い碇をつけて、海に沈めておけばいいんです。」
と、提案した。
「なるほど! 今のアイデア、どうかな?」
と、マッサがたずねると、子供たちはみんな同時に、
「ううーん。」
と、難しい顔をした。
「このいかだ、けっこう、でっかくなるよね。」
「うん。ちょっとやそっとの、いかりじゃ、とめられないよ。」
「いかりのほうが、ひきずられていっちゃうよね。」
「うん。このおおきさの、いかだを、とめておけるようないかりは、いま、むらには、ないよ。」
みんなで、ああでもない、こうでもない、と、長いあいだ議論した末に、
「ああ! なあんだ、そうだ! ボルドンに、海まで、運んでもらえばいいんだ!」
『グオッ?』
というわけで、いかだは、砂浜の、波が来ないところで組み立てて、できあがってから、力自慢のボルドンに、海まで運んでもらうことに決まったのだった。




